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リアクション
第七章 撮ろう! 「ニルヴァーナ来た」! 1
その頃、本隊は数人ずつのグループに分かれ、ほぼ敵のいなくなった辺りの探索を続けていた。
もっとも、中には先ほどの武尊のように、それをいいことに勝手な単独行動に走っている者もいたのだが。
「プリントシール機、見当たらないねー?」
「なかなか見当たらないねー」
ゲルバッキーと一緒にあちこちを見て回っているのは、秋月 葵(あきづき・あおい)と南天 葛(なんてん・かずら)、そしてヴァルベリト・オブシディアン(う゛ぁるべりと・おびしでぃあん)。
もちろんその後ろでは、葛の保護者役であるダイア・セレスタイト(だいあ・せれすたいと)が見守っている。
傍から見ると光る犬と銀色の狼、そして子供たちが三人というちょっとメルヘンチックな編成である。
「うむ、多分この店ではなさそうだな」
「そっか。それじゃ別の所に行こう?」
「うん、そうしよう」
ゲルバッキーにくっついて回る葵と葛とは対照的に、ヴァルベリトはむしろ施設そのものや、辺りに散らばっているものに興味がある様子で、たびたび気になったものを拾ってきてはゲルバッキーに尋ねている。
「なあおっさん、これ何だ?」
「ただのアクセサリーだ。ありふれたものだが、この意匠はあまりパラミタでは見なかった気がするな」
「ふーん。ま、そんなにでかくも重くもないし、一応もらってくか」
そうやって「戦利品」を確保しつつ、葛たちからはちょっと離れて歩くヴァルベリト。
葛にあまり気取られることなく、葛の笑顔を眺められるのが斜め後ろのこの位置であることに、彼はいつの間にかすっかり気づいてしまっていた。
「良雄ォ! モヒ友の大帝が死にそうだってのはどういうことだコラァ!!」
班行動になったとたんに良雄に絡み始めたのはゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)。
「モヒカンは誰でも友達」という非常にわかりやすいロジックのもと、修学旅行時にモヒカンになってくれた大帝を勝手に大親友と呼んでいる彼は、何を考えたのか単身帝都ユグドラシルに向かおうとしていたのであった。
その彼をどうにか思いとどまらせ、こちらへ連れてきたのは「切れ者なモヒカン」ヴェルデ・グラント(う゛ぇるで・ぐらんと)。
彼もアスコルド大帝に恩義を感じており、どうにか大帝の力になりたいと思っていたことが、そしてそれ以上に彼もまたモヒカンであったことが、ゲブーをうまく翻意させえた最大の理由であった。
もっとも、ゲブーがこちらに来たことは、良雄にとってはむしろ災難だったが。
「おい、テメェそれくらいにしておけ」
そう言って助け船を出してくれたのは、「D級四天王」の一人、吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)――と、良雄の側には当然のごとくパラ実生ばかりが集まってきていた。
「しかしよォ、今の良雄は前と同じなのに、デカいリーゼントが無くなって目ん玉も少なくなったから随分とこじんまりしたように見えるなァ」
「あ……そ、そうっスか?」
本当は、良雄としては立川 るる(たちかわ・るる)と一緒に探索したかったのであるが、まあ、なかなかうまくいかないものなのである。
ところで、これだけ手分けして探していて、どうしてプリントシール機がなかなか見つからないのか。
実はそれにははっきりした理由が一つあるのだが――皆さんは、すでにお気づきだろうか。
「おお、あったぞ!」
プリントシール機を見つけたのは、やはり、ゲルバッキーであった。
だが、彼と同行していたはずの葵たちは、皆一様に目を丸くした。
「プリントシール機……これが?」
「うむ。これが『ニルヴァーナの』プリントシール機だ……地上のものとは多少デザインが違うがな」
「いや、どこからどう見ても多少じゃねーだろおっさん」
ヴァルベリトの言葉通り、ゲルバッキーが見つけたそれは、とてもプリントシール機を連想するような見た目ではなく。
例えて言うなら、アンモナイトを地面に半分埋め込んだような、そんな珍妙な形をしていた。
そして、ゲルバッキーはこのことを誰にも言っていなかったのである。
故に、実は他の探索班がすでに何度もこれを見つけてはいた。
見つけてはいたが、誰もこれがプリントシール機だと判別できていなかったのだ。
「でも、これ、動いてませんね……?」
中をのぞき込んで、全く反応がないことにきょとん、とするダイア。
しかし、ゲルバッキーは少しその様子を見ると、淡々とこう言ったのだった。
「大丈夫だ、これくらいなら直せる。その間に他の皆に連絡を頼む」