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リアクション
第五章 正しいアリの倒し方 3
「誰かが戦っておる」
不意に、ルファンがそう言った。
「ロザリンドさんたちじゃ……」
「違う。前方――つまり、逆の方向じゃ」
前方にあるのは、ひときわ繭状の施設が密集した、いわばこのフロアの中心部に近い場所である。
「俺様たちの他にも誰かいるってことか? 抜け駆けしようたぁいい度胸じゃねぇか!」
凶暴な笑みを浮かべるのはギャドル・アベロン(ぎゃどる・あべろん)。
「ギャザオ、何勝手に熱くなってんの? まだ敵か味方かもわからないんだよ?」
ちゃかすようにイリスが言うと、ギャドルはむっとした様子で言い返す。
「るせぇ! ンなこたぁ行ってみりゃわかるだろうが!!」
「一理あるな。それに、あまり不用意に暴れられては肝心のプリントシール機まで壊されかねん」
ゲルバッキーのその言葉もあって、一同は慌ててその「気配のする方」へと向かった。
辺りには、焼けこげたような、そして切り裂かれたような軟体アリの死骸がいくつも転がっていた。
それでも、まだまだ軟体アリたちは無数に存在し。
その圧倒的な数の暴力の前に、たった三人の侵入者たちは徐々に追い込まれつつあった。
「ふふふ……やはり、あなた方にも理解はできませんか」
セシリア・ナート――本名・伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)。
彼女の振るう炎を纏った大剣が、また一匹の軟体アリを切り捨てる。
そして、その視覚から迫り来る別の軟体アリを、セシリアの剣と同じくらい、いや、さらに長い刀身を持つ光条兵器の剣が刺し貫いた。
「……させません」
剣の主は、リニア・グランシュタイン(りにあ・ぐらんしゅたいん)。
もともとは銃で戦っていたものと思われるが、すでに押し込まれ始めた現在では銃の間合いを維持することはできず、もっぱら剣による戦いを強いられている様子だった。
「あぁ、今手当ていたしますわぁん」
この状況に不釣り合いな口調で二人に声をかけているのは、ヴァイオラ・フィンシュタイン(う゛ぁいおら・ふぃんしゅたいん)。
彼女は戦力では他の二人に大きく劣るらしく、二人にかばわれるようにしながら、もっぱら二人の回復に努めていたようだった。
とはいえ、そのリニアも、ヴァイオラも消耗はすでに相当大きく、セシリア自身もすでにあちこちに無数の傷を負っており……そして、ついに「その時」が訪れた。
「……っ!?」
疲労とダメージから、一瞬回避行動が遅れ。
軟体アリの強靭な顎が、セシリアの左足をとらえた。
噛み切られるよりも早く、剣を返して軟体アリの首を叩き斬る。
しかしその隙に、今度は別の軟体アリが右足に噛みつく。
「セシリアっ!」
これはリニアが切り伏せ、どうにかことなきを得たが、両足に受けた傷は決して浅いものではなかった。
「あぁん、これはちょっと危ないんじゃないかしらぁん」
慌てているのかいないのか、とにかく大急ぎで治療を始めるヴァイオラ。
だが、さすがにあっという間に治るほどではなく、そしてその治療の間、軟体アリたちが待ってくれるはずもなく。
「……くっ!」
力及ばぬことを承知で、リニアが必死に二人を守ろうとした、その時だった。
突然、辺り一面が氷の世界と化した。
桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)が、軟体アリの集団のド真ん中に飛び込んで氷雪比翼を使用したのである。
一気に凍りつき、動きが鈍くなった軟体アリたちに、そのまま両手の拳銃から銃弾の雨を浴びせる。
一見ただの乱射のようにも見えるが、その狙いはすこぶる正確で、その大半が狙い過たず凍ったままの軟体アリの頭部を射抜く。
さらに、それで倒しきれなかった敵には、エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)と、ロボット形態に変形した彼女の機晶バイクが追撃の掃射を行う。
敵の不意をついての攻撃であったとはいえ、あっという間にこれだけの数を減らすことができたのは、うまく敵の弱点を突いた作戦があったからだと言えよう。
「しかし、まだまだいるな。ざっと百体以上ってところか?」
にやりと笑う煉に、ギャドルが少し不機嫌そうに言った。
「全部持ってくつもりか? 俺様も少し暴れてぇんだ、ちゃんと残しときやがれ!」
「まあまあ、まだまだいっぱいいるじゃない」
「そうそう。ギャザオは少し落ち着きなさいよ?」
エリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)とイリアにそう言われて、ギャドルはますます不機嫌そうな顔をする。
その様子を見て、ルファンは困ったように肩をすくめた。
「……というわけじゃ。せっかく敵の本隊がこっちに来ておるようじゃし、わしらが戦っておる間に探索を進めてくれんか」
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