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リアクション
第四章 駆け抜けろ! 狼(?)の巣 2
身を潜め、動きを止めていても、やはりにじみ出る殺気。
最初にそれを感知したのは昶だったが……あまりにも予期せぬ方向からの反応であったために、わずかに動くのが遅れた。
「上だとっ!?」
振り向いた時には、もう目の前に軟体狼の頭が迫っていた。
とっさに身体をひねり、どうにか噛みつきを回避すると、「天井に貼り付いていた」軟体狼は、その「伸ばしていた首を引っ込めた」。
「認めねぇ、こんなおかしな生き物が狼だなんて認めねぇぞ!」
自身も狼の獣人である昶にとって、この軟体狼は「狼」とは認めがたい生き物だったようであるが、まあ、それも当たり前だろう。
「なるほど、軟体生物と狼のいいとこ取りか……えげつない生き物だね」
天井を見上げ、そこに集まってきた軟体狼を見てヘルが苦笑する。
平気で天井を歩き回ったり、首や、おそらく手足もある程度伸縮したりする辺りは実に軟体生物的であるが、その口元に見える鋭い牙や俊敏な動きはまさに狼のそれである。
「厄介な相手だが、やるしかない。他の皆は今のうちにシャフト跡を見つけてくれ!」
今度はこちらの番だとばかりに、呼雪が二丁の銃で軟体狼たちを狙う。
さらに、ヘルが呼び出した三匹の召喚獣、サンダーバード、フェニックス、ウェンディゴが一斉に攻撃をしかけた。
「……抜かせません!」
「させっかよっ!!」
飛び込んでこようとする軟体狼たちは、ユニコルノと昶が迎え撃つ。
そして北都は、探索メンバーを狙おうとする軟体狼を魔術で牽制する。
この戦い方には、実はちゃんとした理由があった。
ニルヴァーナの軟体生物と本格的に戦うのはこれが初めてだが、おそらく地下二階に生息しているアリ型軟体生物も、性質にそう大きな違いはないものと推測される。
そうなれば、ここで「どのような属性の攻撃が効きやすいのか」を確かめておくことは、この階層のみならず地下二階を探索する際にも非常に有益なのである。
まず効果が薄かったのは、呼雪の銃撃である。
「当たってはいるが……あまり有効とは言いがたい、か」
銃撃というのは突き詰めて言えば物理攻撃、それも打撃系に分類されるので、衝撃が分散しやすい軟体相手では今ひとつ効果を発揮しづらいようである。
「そっちよりはマシだが……なんか手応えねぇし、イマイチだな」
「同感です。物理攻撃は効果が薄いようですね」
両手に刀を握り、獣のような動きで軟体狼たちをかわし、カウンターで斬りつけている昶と、黒曜石の覇剣で真っ向から軟体狼と渡り合うユニコルノであったが、斬撃系であっても、やはり、物理攻撃系は効果が薄いようである。
それに対して、北都の魔術と、ヘルの召喚獣たちは期待通りの成果を上げていた。
「なるほど、魔法はほぼ通常通りの効果が期待できる、かな」
中でも特に活躍していたのは、実はウェンディゴであった。
天井歩きといい、身体の伸縮性といい、衝撃吸収能力といい、敵が軟体であるからこそ戦いにくい部分は多々あったが、うまく冷気系の攻撃で相手を凍結させてやることにより、これらをうまく消すことができたからである。
「そういうことでしたら……皆さん、少しでいいので敵を集めてください!」
呼雪たちにそう言って、クナイは懐からガムを取り出して口に入れた。
もちろんタダのガムなどではなく、錬金術にて開発された魔法のガム・ブレスオブアイシクルである。
「これでっ!!」
ブレスオブアイシクルの力により、クナイの吐息は凍てつく嵐となる。
乱戦に向けて使えば味方すら巻き込みかねないアイテムであるが、今回は軟体狼が主に天井に陣取っていることが幸いした。
完全に凍結するとまではいかずとも、その低温で軟体の特性を弱められた軟体狼たちは目に見えて動きが鈍り、多くは床へ降りることを余儀なくされた。
こちらの土俵にさえ引き込んでしまえば、襲ってきた軟体狼たちを討伐することは、腕利きの六人にとってはそう難しいことではなかった。
とはいえ、これでこの階層の敵全てが駆逐されたわけではもちろんない。
この広大なフロアには、まだまだ無数とも言える軟体狼たちが巣食っているのである。
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