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■ 故郷は遠路はるばると ■
安芸宮 和輝(あきみや・かずき)と安芸宮 稔(あきみや・みのる)の故郷は、由緒ある『安芸宮神社』だ。
和輝は神社の宮司の息子という立場であり、稔は神社の祭神、という立場の違いはあれど、どちらにとってもこれは『帰郷』と言えるだろう。
和輝は半年に一度、稔は3ヶ月に一度、安芸宮神社に帰ってきているから、帰路の風景に懐かしいという感慨は特に無い。
ただこの帰路……日本とは思えないほどに長かった。
なにせ故郷の集落までは、東京から電車で3時間、バスで3時間。さらに自宅はそこから徒歩3時間かかる山の中。おまけにそれぞれの乗り継ぎにかなり時間を取られる為に、待ち時間を入れるとゆうに3日はかかる。
その長い旅程の先にある、仙人でも住んでいそうな秘境の地ともいえる場所に、安芸宮神社はあった。
「やっとつきましたね」
見えてきた実家に、和輝もさすがにほっと息を吐いた。
夏とはいえ、山の中の気温はビルの合間とは全く違う心地よさだ。
空気もおいしく、修行にももってこいの場所だ。おしむらくは、住むには大変だということ。かなりな不便を覚悟しないといけない為、余程の物好きか事情がなければ、この山を住処にしようとは考えないだろう。
「ただいま」
3日の旅程を経て実家に到着すると、神社迄は宮司である父が迎えに来てくれた。
「私はこれから修行ですから……」
「はい、ここで一旦別れましょう」
和輝と稔は神社で別れると、和輝は自宅に引き返していった。
まだまだ和輝には学ぶべきことが多くある。実家に戻ったからといってのんびりとはさせてもらえない……というより、この帰郷自体、修行の為という部分も大きいのだ。
まずは、父が素手で掘った露天風呂で身体を清め、和輝は修行を開始した。
修行の傍ら、母達と神社の掃除をしたり、お守りの販売をしたりするのも手伝う。こんな場所に建っているにもかかわらず、神社への参拝客は案外多い。神社の手伝いもまた修行の一環なのだった。
一方稔は、和輝を見送った後、そのまま神社に詰めた。
神社に戻ったからには、稔は安芸宮神社の祭神『オオトシガミ』としての役目を果たさねばならない。
清められた神社で、稔は鏡を前に静かに座し、瞑想を行う。
稔の意識は自分が祀られている『山』を経由し、龍脈に接続し、その霊力よ満たされよと力をこめた。
どれだけ集中していただろう。
夕飯時、和輝の父が迎えに来て、稔は我に返った。
その後は実家まで……と思いきや、和輝の父にいきなりぶん投げられる。
稔から見ても、和輝の父は凄い人だ。
(それでも、母の方がオーラが凄いんですよね……)
心の中でそんなことを呟くと、稔は今度は気を抜くことなく、和輝の父と共に実家へと帰っていった。
日が暮れると、家族プラス稔で食卓を囲んだ。
パラミタの話をしてもあまり驚かれないのは、やはりこの辺りも物騒になってきたせいのなかと、帰るたび和輝は気に掛かる。世間の喧噪から離れているようなこの神社も、世界の動きに影響されずにはいられないのだろう。
そんなことを考えつつ、パラミタでの話をしていたまでは良かったのだけれど。
和輝につられて、自分もパラミタでの話を……それもちょっとこぼした稔の愚痴から、お説教タイムのはじまりはじまり。
こうして父母と過ごす実家での時間には幸せを感じるけれど、お説教だけは勘弁して欲しいと思う、和輝なのだった。
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