First Previous |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
Next Last
リアクション
■ 本国に里帰り ■
結婚して以来、一度も本国に帰っていないことに気付いて、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は夏期休暇を利用して帰国することにした。
駐日大使の父、ダバ・ブルーウォーターに連絡を入れてみると、偶然父も同じ時期に一時帰国するという話だった。
「丁度良いですねぇ」
国にも帰れて父にも会える。
そう思って帰国したのだけれど……。
「……ゆっくりしている暇があるわけ無いですよねぇ」
分かっていたことだけれど、とレティシアは嘆息した。
帰国して以来、国王への挨拶から始まって、TV出演やら新聞社の取材やら、レティシアのスケジュールはびっしりと埋められていて、のんびり家族団らんだなんて時間は全く取れない。
父は父で忙しそうで、こちらもレティシアとスケジュールを会わせるような余裕は無いようだ。
普通の家庭のように、ゆっくりと父と語らうことが出来ないのを残念に感じながらも、レティシアは仕方がないかと諦める。
「まぁ、王族の端くれとしての責務は果たさないといけませんしねぇ」
レティシアの王位継承権の順位はかなり低いが、それでも王族であることは間違いない。普段パラミタで自由にさせてもらっているのだから、こんな時ぐらいは役目を果たすべきなのだろう。
実家への帰省というよりは、本国での公務をしに来たようなものだけれど、レティシアは文句は口に出さずにそれらをこなしていった。
ようやく父との時間が取れたのは、明日にはパラミタに帰るという夜だけだった。
普段は厳格な父親だけれど、娘のレティシアとこうして私的に向かい合う時だけはフランクだ。
やっと、この国の王子とその娘としてではなく、普通の父親と娘として、2人はゆっくりお茶を飲みながら話をした。
「旦那様は今回はお留守番ですねぇ」
この忙しさに付き合わせるのも申し訳ないし、とレティシアが言うと、父は夫婦の生活が気になるらしく、あれやこれやとレティシアに質問を重ねた。
こういうところはやはり父親というべきか。
いつもは遠く離れて生活していても、娘とその夫のことを気に掛けていてくれるのだろう。
「そうですねぇ、それなりにうまくやってると思いますけどねぇ」
父の質問にまともに答えるのはちょっと照れくさいけれど、心配を解消するのも親孝行のうちかと、レティシアはうるさがらずに父親の問いに答えた。
南の国の一角で。
父と娘の穏やかな時間が流れてゆく。
良い香りのするお茶と、パラミタでの土産話を存分に味わって――。
First Previous |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
Next Last