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リアクション
「この六月、団長は立場上色々な人の結婚式にご出席された。大勢の人に祝福を与えましたよね」
金 鋭峰(じん・るいふぉん)の部屋に花を飾りながら、董 蓮華(ただす・れんげ)は微笑んだ。
だが、内心、蓮華の心臓は飛び出そうなほどに跳ねている。
「たまには祝われる側……っていうのもいいものかもしれませんよ」
「祝われる側……?」
訝しげな表情をする鋭峰に、蓮華は勇気を振り絞って口を開く。
「模擬結婚式を、してみませんか? 花婿さんになってみるのも、結構楽しいかもしれないですよ」
しばらくの間鋭峰は難しげな表情をしていたが、少し考えた後に口を開いた。
「……それは、経験したことがないものだな。一度経験してみるのも悪くない」
鋭峰はそう言って、蓮華の提案を受け入れたのだった。
模擬結婚式当日。式場の入り口で、盛大に爆竹が打ち鳴らされる。
リムジンに乗って現れた蓮華と鋭峰は、どちらも伝統的な漢服を着ていた。
鋭峰はいつも通りの視線で周囲に目を配っているが、蓮華の方は内心ドキドキだ。
「それでは、新郎新婦の入場です」
司会者の言葉を受けて、蓮華と鋭峰は式場に入った。歓声が二人を出迎える。
喧噪とも言えるほどの祝福の声が、蓮華たちを包み込む。
(夢みたい……)
今こうして鋭峰と二人で並んで、新郎と神父として模擬結婚式を行っている。
それは蓮華にとって貴重な経験である以上に、本当に幸せなことだった。
「では、今から誓いの言葉に移ります」
そうこうするうちに、司会の進行で誓いの言葉に移行する。式場内は、シンと静けさに包まれた。
「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか」
「……ああ」
鋭峰が答えれば、次は蓮華の番だ。
「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか」
「誓います」
「では、指輪の交換に移ります」
指輪の交換。鋭峰に左手を取られ、蓮華は緊張しっぱなしだ。
蓮華が今度は鋭峰の左手に、指輪を嵌める。
(こんなに結婚式って幸せなのね……)
幸福を噛みしめる蓮華。赤一色の結婚証明書が、蓮華と鋭峰に渡される。
無事に式は行われ、鋭峰と蓮華は、お色直しに一時退場する。
そこで、模擬結婚式は終わりだ。
「……先日、大尉に昇進したのだったな」
式場から控え室に移る間に、鋭峰が突然蓮華に話しかけた。
「は……はいっ!」
「おめでとう。今後とも精進してほしい」
鋭峰からの言葉に、思わず蓮華の瞳が潤む。
「ありがとうございますっ!!」
「今日は貴重な経験ができた。これからも、一層励んでほしい」
蓮華にとって幸せだったことはもちろんだが、鋭峰にとっても良い経験になったようだ。
それが蓮華には、本当に嬉しかった。
「はい!」
蓮華は今日の思い出を胸に、大きく頷いたのだった。
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