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狙われた乙女~ヴァイシャリー編~(第3回/全3回)

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狙われた乙女~ヴァイシャリー編~(第3回/全3回)

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 数分後、綾は百合園女学院の制服を着て、現れた。
 外で待っていたメンバー達も皆、制服や私服姿で、誰も武装はしていなかった。
 頷きあって、門へと向かう。
「綾お姉ちゃん、どこに行くの? 神狼も一緒に行くよ!」
 門の外でも1人、少女が綾達を待っていた。
「……ちょっと、皆で買物に」
 少女――教導団の月隠 神狼(つきごもり・かむろ)に、綾はそう答えた。
「ホントかな? こんなに皆そろって出かけるんだもん。あの日、綾ちゃんを迎えに行った人ばかりと。……組織に行くんじゃない?」
「違います。神狼さん、その節は本当にありがとうございました。今日は百合園の皆とお出かけするだけです」
「ふーん……でも、神狼も行くよ。あの時の話とか、対策についての話もしたいからね。百合園、パラ実の被害に遭ってるんだってね?」
「はい。その件については、また後日話し合いをさせていただければと思います。本当に今日は百合園の皆とプライベートなお出かけですので」
 頑として、とにかく頑なに、綾は教導団の神狼の同行を受け入れなかった。
 その様子に、違和感をその場にいた誰もが感じていた。
 神狼はあの廃墟への突入の際、協力をしてくれた人物でもある。
 組織に謝罪に行くのであれば、同行していてもおかしくはない。
 だけれど、蒼空学園の光太郎や隼人にもこの件については説明しなかったように、綾としては学校は勿論、他校生をこれ以上巻き込みたくないのかもしれない。……そう解釈することも出来る。
 特にパラ実生と多い地に行くとなると、素性が判明した場合特に教導団員は危険である。現在の情勢的にもかなり。
 そう思い、百合園生達は誰も口を挟まなかった。
「どうしてもダメ?」
「すみません、私達しか行けない場所なんです。本当にごめんなさい」
 綾は神狼に頭を下げると、手配していた馬車へと百合園生達と共に、乗り込んだ。

○    ○    ○    ○


「どういたしましょう……」
 白百合団員のフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は、青ざめた顔を同じく白百合団員で同じ人物と契約をしているセシリア・ライト(せしりあ・らいと)に向けた。
「どうしたの?」
 セシリアはちらりとフィリッパを見るも、進み出した馬車に視線を戻す。あの馬車には、パートナーのメイベルと早河綾達が乗っている。
「電波が悪くて、切れてしまったのですが……」
 フィリッパとセシリアはメイベルから謝罪に向かう綾の護衛をするという話を聞いていた。
 メイベルは綾の言葉を純粋に信じていたが、セシリアはメイベルを案じるあまり、綾の言葉に嘘がある可能性も考えており、密かに尾行していたのだ。
 フィリッパの方は、密かに白百合団の団長に携帯で連絡を入れた、のだが……。
「直ぐに連れて帰るようにと、言われましたわ。人命に関わるほどの非常に危険な行動ですから、絶対に行かせてはならないと、団長は強く強く仰っていました」
「そ、そりゃそうだよね」
 セシリアも更にメイベルが心配になる。
「危険な状況になる前に連れ帰りますとお伝えしている最中に電話は切れてしまいましたの」
「とりあえず、キマクに着くまで電話は使えそうにないよね」
 言いながら後方を見たセシリアの目に、バイクや空飛ぶ箒に乗った人物達が映った。
「あの人達、ずっと方向が一緒だよね。次の集落に立ち寄った際に、接触してみよう。多分、目的は同じだから相談できるかもしれないしね」
「はい」
 そうして、セシリアとフィリッパは後方から距離を置いて後をつけていたメンバーと合流を目指す。
 このままバイクで長距離を尾行していたら、不審に思われ、撒かれていたかもしれない。他班と出会えたのは幸いだった。

 綾の馬車から見えないよう距離をとり、綾達を追っていたのはイルミンスールの譲葉 大和(ゆずりは・やまと)とパートナーの九ノ尾 忍(ここのび・しのぶ)。それから、橘 柚子(たちばな・ゆず)のパートナーである安倍 晴明(あべの・せいめい)、そして月隠 神狼(つきごもり・かむろ)とパートナーの虎堂 富士丸(こどう・ふじまる)だ。
 何れも百合園の神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)の仲介で、綾の動向を知り、急ぎヴァイシャリーを出発したのだった
 同行している柚子のパートナー木花 開耶(このはな・さくや)から方向の連絡は受けている。
 柚子のもう1人のパートナー天津 甕星(あまつ・みかぼし)は百合園女学院で皆の帰りを待っている。何かの際には連絡を取ることが可能だ。
 電波が届く地域に入ってから、再び開耶から連絡が入り、一行は綾達が向かった建物の側に身を潜ませた。
「綾お姉ちゃん、やっぱり……」
 神狼は悲しげな目で、建物に向かっていく綾達の背を見守っていた。
「……持っていろ」
 富士丸は禁猟区を、神狼と自分に使った。
 大和は先の綾救出作戦で知り合ったパラ実のナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)に、電話をかける。
「譲葉大和です。現在位置ですが……」
 綾達が入っていく建物の場所を伝えて電話を切ると、息を潜めて事態を見守ることにする――。

○    ○    ○    ○


 荒れ果てた荒野の中に、建物が立ち並ぶ場所があった。
 街、ではあるが、ヴァイシャリーのような華やかさは一切ない、寂れた街だった。
 その街の入り口に馬車を止めて、木造の酒場のような建物へと早河綾は、皆を連れて歩くのだった。
 路上に座り込んでいる貧しい身なりの男女や、不良達が不審気に目を向けているが、襲い掛かってはこない。
「百合園の早河綾です。頭領、もしくはツイスダー様にお会いしに参りました」
 男は一同に視線を這わせた後、薄気味悪い意笑みを浮かべ、扉を開けて綾達を通した。
 薄暗いその先は、バーのようだった。
 扉の先で待機していた男が、扉を閉しめて塞ぐように前に立つ。
 カウンターや隅の席に座っていた男達もぞろぞろと一行の後ろに立ちふさがった。
「早河綾、来い」
 カウンターの奥から現れた男――顔に大きな傷跡がいくつもある、鋭い目をした青年が綾の名を呼んだ。
「申し訳ありませんでした」
 軽く声を震わせながら、綾は足を一歩、踏み出した。
「綾ちゃん……っ!」
 ミルディアが綾の手を取った。
 綾は無言でその手をすっと振り解き、ミルディアと綾の間には、柄の悪い男達が入り込む。
「綾さん」
「離れないで」
 メイベルと麻紀が声を掛けて手を伸ばすも、綾には届かず、彼女は振り向きもしなかった。
 柚子は何も言わずに静かに見守っている。
「先日の件は、私の認識不足でした。まさかあのような手段を白百合団がとるとは思いもしませんでした。私が百合園と通じて、攻め込ませたわけでは断じてありません」
「なるほど、で、それらが証明であり手土産というわけか?」
「はい。好きにしてくださって構いません」
 男の元に歩み寄った綾の言葉が、ミルディア、麻紀、メイベルの3人には理解が出来なかった。
 ただ、彼女が後に組んでいる手が、酷く震えていることだけがわかった。震えを止めようと、ぎゅっと握り締めているのにも関わらず。
「彼女達は百合園生です。既にお渡ししてある名簿で住所も確認できると思います。……心優しい百合園生です。あの件の責任は彼女達がとってくれるでしょう。私自身も白百合団がこのような行動に出ることを予想できず、責任を果たせなかったことに関する罰を一切抵抗せず、お受けいたします」
 ミルディアと麻紀とメイベルは、酷く混乱して、ただただ綾を見ていた。
 真奈は発動してある禁猟区の反応の多さに眉を顰める。
「ですから、百合園を揺さぶるのはおやめ下さい。私は皆様の仲間であり、幹部であるエール様の側近、忠実な組織の一員です。裏切ったりしてはおりません。……今まで通り、百合園には手を出さないで下さい」
 虚勢を張りながら背を向けて言う綾の言葉に、なるほどそういう訳かと柚子は吐息をついた。
 綾はより一層男に近付き、自分達を囲んでいる男達が手を伸ばしてくる。
 開耶は急ぎポケットの中にある携帯電話の通話ボタンを押した。既に番号は入力してある。これが合図だ。