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リアクション
第四章 覚醒4
「くそ……どこに消えたんだ、将軍は」
御従人である篠宮 悠(しのみや・ゆう)は雨の中をひた走っていた。
将軍を一番近くで守る立場として、誰よりも先に見つけたい。
「モトハル、タカカゲ。そっちはどうだ?」
悠のパートナーである精霊三姉妹の次女、モトハル・キッカワ(もとはる・きっかわ)とタカカゲ・コバヤカワ(たかかげ・こばやかわ)が同時に首をふる。
「西の方には居なかったわ。お庭番も探してはいるけど……」
と、モトハル。タカカゲも息が荒い。
「もみぢ山もですわ。手がかりがまるでありません」
彼女たちはすでに全身がずぶ濡れである。
「とすると、まだ屋敷内に居るのか、それとも連れ出されたか」
悠は今日一日の将軍の様子を思い出していた。
貞継は朝からずっと寝所で眠っていたが、昼に昼食に知らせを来たときには、すでに将軍の姿はなかった。
たまたま手洗いに出ていたというアキラは無事だったが、側にいた他の護衛やお小姓はことごとく倒されていた。
今は小次郎や牙竜も追っているという。
「上様の身も心配ですが、私は老中の動きも気になります。上様が危険かもしれないというのに、警備や捜索人を増やさないのですから」
タカカゲの内部への不審に悠も気がついていた。
老中楠山は城門や要所の鍵を下ろさせた後、騒げば一大事になると極秘に捜索を命じていた。
「将軍が行方不明なのは一大事じゃないって言うのか、あの古狸は。上様は案外、敵の多いお方なのかも知れないな……ん、あれは!?」
悠の目をこらした先に、三姉妹の長女タカモト・モーリ(たかもと・もーり)の姿があった。
彼女はこの暴雨風の中、城の屋根に登ろうとしている。
彼は慌てて下からタカモトを呼んだが、この声が聞こえないのかタカモトは一心不乱に屋根を伝う。
仕方なく、彼らは彼女を追った。
「貞継様……!」
タカモトは屋根の上で両手を広げ、天守閣のへ向かって呼び続けていた。
「私が命に代えても貞継様をお守りします。ですから、どうぞ降りてください。貞継様を……返して!!」
「危ない!」
タカモトがバランスを崩した。
屋根から滑り落ちそうなのを、間一髪で悠が支える。
「……手を離すなよ、悠。今から二人とも切り刻んでやるからな」
悠はその低い声を聞いてぞっとした。
聞き慣れた声であったはずのに、まるで別人であった。
天守閣に浮かびあがる人影は刀を向け、ゆっくりと近づいてくる。
「鬼……いや、あんたは……!?」
視界の悪い中で、悠は我が目を疑った。
目は血走り、髪は逆立ち、頭には鬼の証である角が見える。
しかし、その衣装、刀、家紋は否定できなかった。
「将軍様なのか?!」
それは貞継の変わり果てた姿であった。
将軍は鬼となり明らかな殺意を向けている。
「その姿はどうしたんだ。なぜ、そんな」
「……忌々しい糞坊主が朝から晩までわんわん云ってるのに、ゆっくり寝てなどおれぬわ」
「鬼か……貞継様をどこへやった!」
「どこへやっただのない。本来の姿がこれだ。元々が鬼なんだからな、ああ清々する」
鬼将軍はからから笑いながら二人を見下ろした
「仲良く、その腕一本づつ、はね飛ばしてやろう」
貞継の刀が振り下ろされた。
悠はタカモトを庇い、手を離して避ける。
彼女は落下しかけたが、下では姉妹が抱きとめていた。
貞継の一撃は屋根を直撃し、辺り一帯の瓦を吹き飛ばす。
「本気で狙いやがったのか!」
崩れる屋根と共に落下していく悠。
鬼将軍が丸腰の悠に止めをさそうと再び刀を振り上げたとき、足下をめがけて銃声が鳴り響いた。
ばらばらと木片と瓦が飛んでいく。
貞継はにやりと笑うと身を翻した。
屋根づたいに走り去る。。
「まずいな、あの方角は……大奥が!」
悠は仲間に知らせるため、受け身の痛みに耐えながらも大奥へ向かって走り出した。
・
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・
「こんなの、房姫様にどう報告したらいいの!?」
ローザマリアは暗視スコープで一部始終を目撃していた。
「将軍様が鬼になってるだなんて……こんなこと」
「ふん……純粋なマホロバ人なら大して驚くことでもあるまい。ましてや鬼の血脈とされる将軍家なら尚のこと。貴殿はよそ者か」
いつの間にか雨の中を浴衣姿の小さな少年が立っている。
不思議に思う間もなく、ローザマリアは飛びつかれると両手で口をふさがれた。
「儂と契約せい。マホロバ人と結びつけば、鬼について身近に感じることができよう……もっと……知りたくはないか」
マホロバ人羽搏輝 翼(はばたき・つばさ)は捕らえた少女に意識を集中する。
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