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リアクション
――ここは?
ヴェロニカは周囲を見渡した。
どこまでも広がる、地平線。
「ここは、境界。全てが始まり、終わりゆく場所」
「……ニュクス?」
そこにいたのは、白い服を着た、翼持つニュクスそっくりな少女だった。
「そう。だけど、わたしは思い出したわ。自分が何のために、存在したのかを。そして、ここにいるわたしが誰なのかを」
彼女は、ニュクスであり、ジズであり、ナイチンゲールであり、そして――、
「わたしは、セラ」
「セラ?」
「そう。あなた達が言う『代理の聖像』の起源となった――熾天使」
イコンの元となった種族がいるという話は聞いている。
それが今、目の前にいた。
「けれど、わたしはそれを見ることが出来なかった。けれど、わたしが約束をしたばっかりに……あの二人を苦しめてしまったわ」
哀しそうに、セラが目を伏せる。
「ここからは全ての『可能性』が見えるから、分かるわ。代理の聖像が、わたしの望まない使われ方をされるようになったのを憂えた彼が、わたしの望んだ世界に導こうとしたのが。正確には、それが実現される『可能性』が、最も高い世界に。そこに到達したとき、わたしの意識が目覚めるようにしていたのでしょう。でも……」
彼女と目が合った。
「わたしは違う立場から、いろんな世界で、いろんな人を、その人達の想いを見てきた。確かに、わたしにとっては悲しいこともあったけど……必死に、守るために、希望を信じて生きているたくさんの人がいた。間違えようと、過ちを繰り返そうと、立ち上がり、よくしていこうとする人達がいた。綺麗なことばかりではないけど、それでも前を向いている人達がいる。
理想の世界……とはいかないけど、たくさんの『可能性』がある世界。わたしはそれを知ることが出来たわ」
そして微笑みを浮かべた。
「だから、わたしに未練はない。あなた達を、あなた達の世界を信じてる。もう、あの二人も……苦しまなくて、悩まなくていい。ちゃんと迎えに行ってあげないと」
「待って!」
セラを呼び止める。
「セラは……ううん、ニュクスはこれからどうするの?」
「わたしは……還らないと。あるべき場所に」
「そんな……」
それは、ニュクスとの別れを意味していた。
「大丈夫よ、ヴェロニカ。あなたには、あなたを待ってる人達がいる」
「でも!」
「わたしは夜空に漂うサヨナキドリ。夜明けを迎えた今、わたしは飛び立つときなのよ。だけどきっと、まためぐり会えるときが来るわ。信じていれば、『可能性』は生まれる。奇跡だって起こるかもしれないわ」
セラはただ、優しい瞳で笑いかけてきた。
「行きなさい、ヴェロニカ。あなたのいる世界に」
ヴェロニカの視界から、セラの姿が消えていった。
そして、もう一人。
「ノヴァ、あなたの望みも知っているわ。だけど、考え直すことだって出来る」
ノヴァは、ジズだった少女に告げた。
「僕はあの世界には戻らないよ。あそこはもう、あの子達の世界だ。僕の居場所は――初めからそうだったんだろうけど、どこにもない」
「そう……いいのね?」
「うん。僕自身のままやり直せなくても、そこに『可能性』があるなら……次の世界に導いて欲しい」
「分かったわ。だけど、あなたはもう……一人じゃないわ」
セラに抱きしめられた。
それは初めて感じた、人の温もりだった。