リアクション
「ヴェロニカちゃん!」
館下 鈴蘭は、突如発生した光の中に、ヴェロニカの姿を目の当たりにした。
機体のマニピュレーターで、彼女を受け止める。
「良かった、無事で……」
しかし、ニュクスの姿はない。
「……ニュクスちゃんは?」
ヴェロニカが悲しげな顔で、言った。
「ニュクスは、もう……」
* * *
「全て……終わったようですね」
ローゼンクロイツが呟いた。
ミューレリア・ラングウェイのパラダイス・ロストをまともに食らったものの、辛うじて生き延びていた。
ギャラハッドの盾が、破られたものの多少緩和したせいだろう。
「ローゼンクロイツ、お前の本当の目的は……」
樹月 刀真は、声を発した。
「ええ、全ては……セラに、世界を見てもらうため……ですよ。希望を託すことの出来る世界の……姿を。この繰り返しは……そこに辿り着くまでに必要な……ものでした」
それから、ナイチンゲール――量子コンピューター「S.E.R.A.」が、セラを再現するための存在だったことを告げる。
「量子コンピューターには……こんな仮説があります……超高速の演算が可能なのは……並行世界の同じコンピューターでも……同時に演算が行われるからだと。ジズ、ニュクス、ナイチンゲールが繰り返しの中で……覚えているのも……不思議なことでは……ありませんよ」
全ては約束と願いのため。
この男はそのために、舞台を整え、悪役を演じてきたのだ。
「あなたは、どれだけ……馬鹿なの?」
罪の調律者が、涙を流しながらローゼンクロイツに駆け寄った。
「これは……君のためでも……あるのですよ。セラの親友であった……君の」
ローゼンクロイツが安心したように告げた。
「私の望みは叶いました……これで――」
そのとき、彼の身体を一本の剣が貫いた。
アスタローシェだ。
「では、契約の手筈通り……その魂を頂きます」
彼女がローゼンクロイツに近付いていく。パラダイス・ロストを食らって消えたかと思われたが、なぜか無傷で立っていた。
「テメェ……!」
「元々、願いを叶えるために繰り返しの中でも記憶を持ち越せるようにしたのは私です。その対価として、その者の魂を求めるのは、悪魔としては何も不自然ではないでしょう」
「悪魔……貴女の正体は、そんな生易しいものではないでしょう……」
ローゼンクロイツがカードをかざす。
「ここはじきに沈みます。こうなってもいいように、あらかじめ外部――以前訪れた海京に転送出来るようにしておきました。最深部以外のエリアにいれば、自動的に転送されます」
「待て、ローゼンクロイツ!」
術式が発動した。
罪の調律者は、それに影響されていない。おそらく、彼女が望んだからだろう。
「では……」
アスタローシェが手を伸ばそうとしたとき、彼女が光に包まれ――消えた。
――もう、大丈夫よ。二人とも。
「ナイチンゲール!」
刀真は、最後の瞬間に、その少女の姿を見た。
そこにあったのは、彼が初めて見るナイチンゲールの微笑みだった。
* * *
「博士!」
月夜見 望は最深部へ辿り着いた。
「ちょうど終わったところだ……全てが」
ホワイトスノー博士が言った。
「ローゼンクロイツも倒され、E.D.E.N.は、先程突然停止したとのことです」
ルカルカ・ルーが告げる。
「行きましょう。ここは、間もなく沈むそうです」
しかし、ホワイトスノー博士が首を横に振った。
「いや、まだやるべきことがある。先に行け」
「そうはいきません。博士はシャンバラ王国にとって必要な人です。どうしてもというなら、力ずくでも連れて帰ります」
一歩踏み込んだルカルカの前に、ワイヤーが張られていた。
「死ぬぞ」
博士が仕掛けたのか、それともノヴァがやったのか。
どちらにしても、下手に近付けない。
「月夜見!」
ホワイトスノーが、望に向かってUSBメモリーのようなものを投げた。
「私が戻らなかったら、そのファイルを開けろ」
「戻らなかったらって……」
「いいから、早く行け!」
博士が顔が見えないよう、背中を向けて怒鳴った。
「分かった……博士、生きててくれよ」
そう言葉にするのが、精一杯だった。
誰もいなくなった最深部で、ホワイトスノーはノヴァが戦っていた空間を見つめた。
「ノヴァ、今まで寂しい思いをさせたな」
そして、涙を流した。
「お前はもう、一人じゃない。本当に――すまなかった」
最後の瞬間、瞳に映ったのは、ノヴァと「天使」の姿だった。