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リアクション
偽アズール
ジークリンデ・ウェルザング(じーくりんで・うぇるざんぐ)と一緒にいた偽アズールは、ふらふらと立ち上がるとつぶやく。
「悠希と謙信だ……。それに、武。イーオンも」
そして、偽アズールはテレポートでジークリンデの前から消えた。
先を進む一行の前に、偽アズール登場が突然、現れる。
クイーン・ヴァンガードの隊員が叫ぶ。
「偽アズールだ! 殺してかまわん!」
武器を構え、隊員たちが襲おうとする。
イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)とパートナーのフィーネ・クラヴィス(ふぃーね・くらびす)が道を塞ぐ。
「やめろ! あんな、哀れで愚かなヤツに、お前達は剣を向けるのか!」
「君達に女王候補親衛隊の誇りはないのか!」
「貴様ら、蒼空学園生の癖に邪魔するのか!
御神楽 環菜(みかぐら・かんな)校長の命令だぞ!」
イーオンとフィーネ、クイーン・ヴァンガード隊員が押し問答になる。
「……イーオン」
偽アズールもぼんやりとしたまま、魔法を放って最低限の身は守っている。
そこに、偽アズールに変装したレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)が現れた。
銀髪、青い瞳に幼い容姿という外見のレイディスは、さらにウィッグを付け、面識のある仲間に特徴を聞いてこしらえた衣装を身につけていた。
(あのデコ校長何言ってやがんだっ! 殺すだの殺さねぇの、あっさり言うんじゃねぇよ!
それを、あいつら、本気にしやがって……!)
レイディスは、「殺す」という言葉を安易に使うと環菜に怒りを抱いていた。
パートナーのヴァルキリーシュレイド・フリーウィンド(しゅれいど・ふりーうぃんど)は変装したレイディスを負ぶってバーストダッシュする。
「ハッハァー!! お間抜けッスねぇ!」
シュレイドが、襲おうとしているクイーン・ヴァンガード達の真ん中をつっきり、通路の奥の方に駆け去っていく。
「うわああああああ、こわいいいいいいい」
レイディスが偽アズールのふりをする。
「もう一人現れたぞ!」
「どっちが本物だ!?」
クイーン・ヴァンガード達が混乱する。
藤原 すいか(ふじわら・すいか)が、謝罪の呟きとともに、パートナーが偽アズールを殺す隙を作るため驚きの歌を使う。
「ごめんなさいです。ですがこれが一番確実ですので」
「うはうっ!? 今だッ! 俺は鳥になるッ!!」
「うきゃああああ!? ……シュレ、何言ってんの」
驚かされて声をあげるシュレイドとレイディスだが、レイディスは必死で裏声を使い、女のふりをした。
(俺をリラックスさせて作戦成功のためにやってるんだよな……多分)
レイディスは思う。
すいかのパートナーのイーヴィ・ブラウン(いーびー・ぶらうん)は、クイーン・ヴァンガードとして偽アズールは殺すしかないと、変装したレイディス達を追う。
「救助はジークリンデだけで精一杯。なら偽アズールは殺すしかないでしょ。
私は……クイーン・ヴァンガードなんだから」
イーヴィが悲壮な決意でサンダーブラストを放つ。
「儀式なんて絶対阻止よ。
ジークリンデや、他の皆……世界を救うためには、こうするしかないのよ!」
「わーっ、わーっ! 俺っち、超ピンチーッ!」
「きゃああああ、助けてええ」
シュレイドが大声を上げ、レイディスが演技する。
甲斐 英虎(かい・ひでとら)は、自分はクイーン・ヴァンガードだが、偽アズールを助けたいと思っていた。
「瞳がきれいな蒼だから、自称アズールで偽アズールじゃないよね!?
破壊者を召還させないからジークリンデも殺しません。
裏切り者と思わないから砕音先生は倒さないよー」
「何を言っている!?」
他のクイーン・ヴァンガードに、命令違反ではないととんちでいい、英虎は、イーオン達とともに、偽アズールを守ろうとする。
「寝所ではこわがってたのにジークリンデからはがそうとしてごめんね。
赤ちゃんに名前をつける時って、色々な命名理由があるけど……雪野は生まれた日に珍しく雪が積もって野原が真っ白になったからだよ。俺が名付け親。
瞳が綺麗なアズール、蒼だから、本名がアズールでもおかしくないよねー、自称なんかじゃなくて、本当にアズールだと思うから助けたいよ」
英虎のパートナーの甲斐 ユキノ(かい・ゆきの)は、その様子を見ながら考える。
(優しい心だけでは、闇に侵された心に押し潰されてしまうかもしれません。
でも、優しい気持ちや、見返りは無くても誰かを助けたいと思える気持ちを失ってしまったら、世界は滅びに近づく……そんな気がするのでございます)
英虎に対して偽アズールは、口の中でぼそぼそと言っている。
「そうだ、私はアズール・アデプターだ……」
近づいても、アイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)が英虎にあらかじめかけておいた禁猟区は反応しない。
五条 武(ごじょう・たける)が、バイク形態の機晶姫イビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)に乗って偽アズールに接近する。
「チッ……ったく、『大丈夫だ。守ってやるから心配すんな』って言った手前、しゃーないから面倒見てやるよ!」
「武……」
偽アズールはまだぼんやりしている。
真口 悠希(まぐち・ゆき)も、一緒に洗脳を解こうと説得する。
(狙われたり殺していいなんて言われて……普通の人とは違う何かがあるのは分かるけど、でも……)
「ボクと同じです……男性を意識しちゃったり……同じ人間です。
だから、これからも恋をしたりとか……生きる権利がある筈ですっ」
悠希は、偽アズールを抱きしめた。
「御神楽環菜が殺してかまわぬと言うのも環菜なりの正義があるのだろうが……。
悠希にも戦国の義将と呼ばれたこの謙信にも、偽アズール……生意気な小娘だったが罪も無き人間を見捨てられぬという正義がある。
この謙信の力、貸してやる……だ、だが勘違いするんじゃないぞっ!」
悠希のパートナーの上杉 謙信(うえすぎ・けんしん)は、仁王立ちして周囲をにらんで言う。
「悠希……謙信……」
偽アズールは虚ろな目をしている。
「あぁもう、目ぇ覚ませ! お前の為に皆が命張ってンだ、勿論俺もだ!
分かったらさっさと意識を取り戻せ!」
武が、偽アズールの肩を揺さぶる。
「畜生、嫌がるなり突き飛ばすなりなんなりしやがれってんだ!」
「武さまがさわったらびっくりして戻るかもと思ってたけど……ボク達が再び守ります……そして何か手を打ちたい……もう誰にもさらわせもしませんっ!」
武も、悠希も、必死で呼びかける。
「あなたの本当の名前はなんというのですか?」
「私はアズール・アデプターだ……」
「アズール、では不便でしょう。名前を贈らせてはいただけないでしょうか?
アズールは、蒼を意味する言葉です。
蒼から空、空から天空を意味する『セレスティアーナ』というのはどうでしょうか」
イビーの提案に、偽アズールは混乱したように頭を振る。
「何を言う。私は……アズールだ。……しかし……その名で呼ばれるのも……いや、私は、私はアズールなのだ……」
イビーに向かって、偽アズールが助けを求めるような視線を送る。
「そうです、セレスティアーナちゃんですっ」
悠希は、偽アズールの手を取り言う。
「なんとか脱出して正気に戻してやりたかったが……。
こうゴチャゴチャしてたんじゃ、逃げられねえな……!」
武は、イビーに乗って逃走しようと考えていたが、偽アズールを守ろうとする者と襲おうとする者がお互いを牽制しあう状態でうまくいかない。
鈴木 周(すずき・しゅう)は、誰も死なせたくないと、クイーン・ヴァンガードと押し問答する。
「ジークリンデみたいな美人さんが死んでもいいとかありえねぇ!
偽アズールだってかわいそうじゃねえか!
誰だろうが、死んでも構わねぇとか言うんじゃねぇよ。
カンナ様だって、ホントはいい子だしな。俺は本心から言ってるんじゃねぇって思ってる」
「いいかげんにしろ! 環菜校長は殺せと言ったんだぞ!」
「のぞき部のくせに!」
周は、殴られるが、戦闘になるのは避けて耐える。
(あー、なんか、理不尽なこと言ってら……。
それにしても、偽アズールっておっさんだと思ってたのに、あんな若かったのか?)
周は目の前に火花が散るのを感じながら、そんなことを考えていた。
パートナーのレミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)は考える。
(うん、どんなにスケベでナンパで不真面目な周くんでも、ジークリンデさんや偽アズールさんを見殺しにはしない人だと思ってた。普段は恥ずかしい契約者だけど、こういう所はちょっと誇りに思ってるよ。だから、あたしは周くんを全力でサポートするね)
「周くん、がんばって!」
レミは、周にヒールをかける。
本郷 翔(ほんごう・かける)は、偽アズールの身体に何か仕掛けられてないか調べようと近づく。
「こういう悪の組織の定番として、人質に何かをしかけておいて、救助に来た人々も巻き込んで一網打尽にするって言うのは、よく聞くんですよね。
怪我をしているかもしれませんし、身体に何か仕掛けられていないか、確認させてください。
偽アズールと言うぐらいですから、偽人質なんて存在もいかねないと考えます」
パートナーのソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)は、女好きのため、ジークリンデの検査を楽しみにしていたが、この場は真面目に検査しようとする。
「あんなことやこんなことを、と思ってたけど、さすがに真面目にやらないと危ないもんな」
「あ、待ってくださいっ!」
悠希が制止しようとしたが、ソールは、偽アズールの懐に手を入れる。
すると、胸から球体が転がり出てきた。球体の内部には、黒雲のように闇が渦巻いている。
「……やわらかい。ツルペタだけど、かわいこちゃんだった……って、ぐはあ!?」
ソールは、翔に殴られる。
周は跳ね起きる。
「何ぃ!? おっさんじゃなくて、女の子だっただと!? 一生の不覚だ!! 絶対殺させねえぞ!」
「違う……私は男だ……」
ぼんやりして恥ずかしがるどころでない偽アズールを見て、悠希は決意する。
「絶対助けます! 静香さまもそれを望んでるはずです!」
「そこをどけ!」
クイーン・ヴァンガード達がわめくが、酒杜 陽一(さかもり・よういち)が仲裁に入る。
「御神楽校長を非難してる奴らもいるようだが、校長の判断は政治的には当然だ。リンデの生存で大勢が死の危機に晒されるなら、最悪の事態を考え、最大多数の利益を守る為、何かを切り捨てる事を迫られるのが、政治家としての校長の立場だ。一見冷酷だが、校長が考えて選んだ結論を一方的に責められるか?
だが、校長は何が何でもぶっ殺せと言ってる訳じゃない。
不自由な立場の校長に代わりリンデを救うのが、俺達現場の仕事。
校長を責めてる奴らは、そのエネルギーを校長じゃなく鏖殺寺院に向けろ。
こうやって、内輪で揉めていては、それこそリンデ救出は遠のく。真の敵を見紛うな」
パートナーのソラ・ウィンディリア(そら・うぃんでぃりあ)もうなずく。
「陽一くんの言うとおりだよ! わおーん!! 頑張るぞーー!!!!」
「皆、落ち着け! 味方同士で争ってる場合じゃないぞ!」
皇 彼方(はなぶさ・かなた)も言う。
しかし、場はおさまらず、混乱は続く。