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リアクション
砕音
砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)は城内の監視室で、古王国期のモニタで城内各地を見ていた。
状況に応じて防衛装置を動かしたり、壁を動かして通路を隠したり現したりしているのは、砕音であった。
「やみくもに突撃するのではなく、
仲間の不安を取り除いたり、予想される脅威に備えたりすることがきちんとできているようだな」
砕音はモニタを見て、微笑を浮かべる。
活躍する生徒を評価するのは、教師としての目線であった。
「だが、このエリアに侵入できた者が少ないのは……蒼空学園が他校の協力を取り付けられなかったのは痛いな。
御神楽 環菜(みかぐら・かんな)校長を支えてくれる者が増えてくれるといいんだが」
「学校側不利の状況を憂えるなんて先生らしいな」
メイコ・雷動(めいこ・らいどう)は、そう言いつつ、パートナーのマコト・闇音(まこと・やみね)とともに部屋に入ってきた。
メイコとマコトは、鏖殺寺院メンバーとして、ナラカ城内にいたのである。
「あたしは、命に代えてもアズっちを守ってみせる。
先生には策があるんだろ?
アズっちをイルミンの制服にポニーテールにして変装させようと思ってるけど、
先生の作戦を手伝うよ」
強い意志を秘めた蒼い瞳で、メイコが砕音を見据える。
「ジークリンデ殿をこの剣にかけて守ってみせる」
ヴァルキリーのマコトは、バスタードソードを掲げる。
「我は、こう考えたのだ。
闇は、元々人が抱いたものであり封じ続けることも世界崩壊につながるのではないか。
女王が封じたのなら女王もまた呪いを受けているのではないかとも思う」
「鏖殺寺院が本当に世界を壊したいのか、自分の信じて来たものは嘘なのか、知りたいんだ」
メイコも言う。
「よく考えてきたな。これで少しは話せそうだ」
砕音がマコトにねぎらいの言葉をかける。
「鏖殺寺院は世界を壊したいわけじゃない。
マコトが言うとおり、世界を滅ぼす闇は元々、人々が抱いたものだ。
闇は女王が封じて、そのために女王は死んでしまった。
だが、封じ続けると世界崩壊に繋がるわけじゃない」
砕音は、そこまで話すと咳き込み、煙草に手を伸ばす。
「先生!」
「ラングレイ殿!」
メイコとマコトが駆け寄る。
「砕音……!」
スーツとサングラス、黒の皮手袋を身につけたラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が、
砕音の身体を支える。
ラルクのパートナーのアイン・ディスガイス(あいん・でぃすがいす)が、
その様子を見守る。
ラルクは、ひざまづいて片膝の上に砕音を座らせると、発作がおさまるのを待ち、切り出した。
「砕音……覚悟はできてるんだよな?」
「正体を明かした時から、そのつもりさ」
「だったら、俺がやるべき事はひとつだ。
俺はお前を守るために戦う。勿論、知ってる奴らとも戦ってみせるぜ」
「……殺すなよ。そして、おまえも死ぬな。絶対にだ」
覚悟を語るラルクに、砕音は沈痛な表情を向ける。
「誰かを殺すのは、おまえと、
それにジークリンデ様とアズールだと自称している娘に命の危険がある場合だけだ」
「お前が入ってないじゃねえか」
ラルクが反論する。
「俺も生き残るが、砕音にも生きててほしい。
じゃねぇと医者を目指して砕音の後遺症を治すことができなくなっちまう」
ラルクの思いがけない言葉に、砕音は息を飲む。
「まぁ、こいつ言い出したら聞かないからよ。諦めた方が賢明だぜ?」
アインが言う。
「俺は……何時でもお前と一緒だ。世界を敵に回そうともな」
「ありがとう」
ラルクに抱きしめられ、言葉を詰まらせながら、砕音は答えた。
「先生!」
藍澤 黎(あいざわ・れい)が、部屋に飛び込んできた。
パートナーのフィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)は、
「ああっ、白馬の群れに踏み殺されるで!」とわめいたが、激情に身を任せる黎の耳には届かない。
フィルラントは、煙草の香りがする方に砕音がいると考え、捜索した結果、この部屋にたどり着いたのだ。
しかたなく、話は黎に任せ、フィルラントは禁猟区で警戒する。
メイコとマコトは、顔を見合わせる。
「どうして……どうして貴方がラングレイなのですか!
砕音でいた時の先生は嘘だったというのですか」
黎は、どうしても砕音のことを「先生」と呼んでしまう。
大切な「先生」を「ラングレイ」と思いたくないのだった。
「このまま鏖殺寺院として進んだ先に、貴方に何が待っているというのですか」
黎は砕音を見据えてさらに続ける。
「先生の真意が、知りたいんです。本当のことを教えてください。
先生を背に庇って戦ったあの時、本当はこの背に向かって銃を撃つ気でいたのかどうか」
「……藍澤、俺は、本当にいい生徒を持ったと思うよ」
「そうおっしゃるなら、どうしてなのですか!」
黎に、砕音がさらに何か言いかけたとき、そこに、さらに人影が現れた。
フィルラントの禁猟区は反応しない。
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)とパートナーのセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)であった。
「『砕音・アントゥルース』ご主人様を先生と信じていた学生も多いんです。
詩穂は鏖殺寺院最強の戦闘力を持つ『ラングレイ』ご主人様を倒すことで解決するだけなら戦ってみたい、正直に言うと。
でも、何か思いつめていません?
詩穂は、蒼空学園の生徒として元・蒼空学園の砕音先生とお話をしたいんです」
「環菜様からこう告げられています。
『偽アズールは殺してかまわないわ。ジークリンデも、破壊者を召還させるくらいなら殺していい。裏切り者の砕音・アントゥルースは、我が校の名にかけて倒しなさい』と。
でも、先生なら環菜様の言葉の裏が理解できるでしょう。私は全員を無事に蒼空学園に取り戻したいのです。
それに先生、たまに寂しそうな顔している……」
詩穂とセルフィーナが真剣に言う。
「心配かけてすまない」
砕音の言葉に、詩穂は言う。
「そういうのが心配なんです。詩穂はご主人様のためならなんだってしますよ?」
そこに、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)とパートナーの天穹 虹七(てんきゅう・こうな)が現れる。
「アナンセさんもこの儀式に加担しているのですか!?」
「……アナンセお姉ちゃんが心配なの……」
アリアは、空京を守るのに尽力したからには、理由があると信じていた。
虹七も、砕音を見上げて言う。
「教えてください、アナンセさんは今、どこにいるんですか」
必死で問いかけるアリアに、砕音は言う。
「アナンセのことを気づかってくれてありがとう。
アナンセには、地球で人々を守るために行ってもらっている。おまえ達が心配していたと、彼女に伝えておくよ」
アリアと、虹七は、安堵した表情を見せる。
「……またなでなでして……アナンセお姉ちゃん……」
虹七は、地球に思いをはせて、アナンセの無事を願いつつ呟いた。
クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)も話を聞いて混乱していた。
(と言う事は、アナンセも先生がラングレイって知ってたのかな……)
これまで砕音に同行して守ってきた身だ。いきなり鏖殺寺院の幹部だと知っても、そうそう簡単に気持ちを切り替えられるものではない。
(これも先生の課した宿題なの?)
クリスティーは生徒と戦う砕音を、悲しげに見つめた。
「ヒャッハー!!」
「ドルンドルンドルルルルルルルルルルルルルルルンッ」
南 鮪(みなみ・まぐろ)とハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)、
坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)と姉ヶ崎 雪(あねがさき・ゆき)が現れる。
「ヒャッハァ〜性帝陛下の正体なんざ判り切ってたのに今更殺せとは恐ろしい連中だな、怖え怖え。
ヒャッハァ〜俺がず〜〜〜っと前から言ってただろう、性帝砕音陛下は真の姿を隠しておられるとォ!
俺らは鏖殺寺院に付くんじゃねえ。性帝陛下の味方をするのだ!」
「武士道とは忠義を誓った相手をコロコロと変える事は出来ぬ不器用な生き方なのでござるよ。
本当に信じてきたのならば、とことん信じてみるでござるよ」
【性帝砕音軍】の鮪と鹿次郎は、どこまでも砕音についていくつもりであった。
鹿次郎のパートナーの雪は、考える。
(ああ、この人は本当に馬鹿で不器用ですわね。でも、しかたないですわ)
雪は、鹿次郎が主君と認めた砕音の真意を知りたいと、注意深く様子を見守る。
「ヒャッハァー始末しちまうのは勿体ねえ、リコは俺にくれよ。おっとエリザベートも来てるんだよな! 是非捕まえてご褒美に貰いたい所だぜぇ〜」
「ドルドルドルドルン、ドルルルルルルルルルンッ」
女は殺さず自分のものにしたいという鮪に対し、ハーリーが、
砕音に味方するのに異論はないが命をとるのはどうかと思うので、鮪が理子を拉致るなら協力する、という趣旨のことをバイク語で言う。
鮪やラルク達に、砕音は何事か告げる。
「お前らしいな」ラルクは苦笑する。
「先生……」黎は安堵する。
「さすが性帝陛下だぜェー」でござる!」鮪、鹿次郎が同時に言う。
(この人はどうしようもなく馬鹿ですけれど。信じられる相手を見つけられてよかったですわ)
雪は、そんな鹿次郎の様子を見ながら思う。