空京

校長室

建国の絆第2部 第1回/全4回

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建国の絆第2部 第1回/全4回
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ジークリンデと砕音

 客用の広い部屋にジークリンデ・ウェルザング(じーくりんで・うぇるざんぐ)偽アズールと共に監禁されていた。
 この時も砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)は、ジークリンデの説得にあたっていた。ヴァルキリーの女性騎士は、混乱した瞳を砕音に向ける。
「……意味が分かりません。人々を救うのに力を貸して欲しいなんて……シャンバラを滅ぼす事が助けになるなんて言うなら、お断りします」
「そうではありません」
 砕音は辛抱強く言った。
 蒼空学園教師とは世間をたばかる姿で、実際は鏖殺寺院報道官ミスター・ラングレイだと明らかになった今、ジークリンデが心を開かないのも理解できる。


「今『世界が滅んでもいい。むしろ、その方がいい』と思われているダークヴァルキリー様、貴女の妹君が世界を滅ぼす闇を地上に降臨させれば、おびただしい数の死者が出ます。
 本来、その降臨はもっと後の事だと考えていましたが……ダークヴァルキリー様は不幸にも、闇の封印を守護する者を手に入れ、貴女を見つけてしまいました。
 これまで、世界を滅ぼす闇を抑えきれないと降臨に慎重だった長を始めとする鏖殺寺院も、もう降臨を躊躇する必要がなくなったのです」
「私と彼女が、世界を滅ぼす闇の制御に必要という事……?」
 ジークリンデは、うつろな瞳をした偽アズールを抱きしめた。
「だったら今すぐ、私たちを解放なさい。私たちがいなければ、ダークヴァルキリー以外の鏖殺寺院は闇の降臨を止めるのでしょう?!」
 しかし砕音は暗い声で答える。
「今の学校勢力に、貴女方を捕らえに向かうダークヴァルキリー様を止める力はありません。それどころか貴女方なしで闇の降臨をいつ行なうかも分からないのです。今、あの方は幼子に戻ってしまったように気まぐれです」
「……」
 押し黙ったジークリンデに、砕音は床に膝をつき、深く頭を垂れた。
「無茶を言っているのは承知の上です。シャンバラの民、そしてパラミタと地球の無辜の民を救う為、力をお貸し下さい!
 ダークヴァルキリー様には貴女が必要なのです……」
 砕音の声は涙声だ。ジークリンデはすっかり混乱する。
「さ……ラングレイ、さん……なんで鏖殺寺院幹部のあなたが……」
 突然、偽アズールがわめきだす。
「私は鏖殺寺院の長アズールであるぞ! 長である!」
 砕音は飛び起きて、それを抱きとめる。偽アズールは相手を、どころか何をされてるかも認識していない様子だ。
 砕音は優しく、なだめにかかる。
「大丈夫だよ。きっともうすぐ、君の友達が会いに来てくれる。怖がらなくていい」
「……友……だ、ち?」
「ああ。君を怖いことから守ってくれる。だから君も皆を守らないとな? 難しくない。もう手順は頭の中にあるから」
 おとなしくなった偽アズールの背を、砕音は静かになでる。ジークリンデは戸惑いながら、その光景を眺めていた。


ディエムへの願い

「その忍者言葉は間違うておるぞ、ディエム」
「何の事でござるだべ?」
 悠久ノ カナタ(とわの・かなた)に耳元で言われ、明倫館の忍者装束の男はたじろいだ。
 城内に突入した生徒達は儀式場を探して奔走しており、彼らに注意を向ける様子は無い。
「ニンジャかぶれの亜米利加人を演ずるには良いやもしれぬが、おぬし、今は目立ってはならぬのではないか?」
 覆面をかぶって明倫館生徒に化けていた、鏖殺寺院のグエン ディエムは誤魔化すだけ無駄だと悟る。それにカナタからは敵意を感じられない。
「忠告ありがとう。普通の話し方でしゃべるようにするよ。
 ラングレイ様が特に気にかけてるヴァーナーって子と朱って人を、戦いが始まる前に探しておこうと思ったんだ」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)は安心した笑みを浮かべる。
「ヴァーナーなら、すぐそこにいるぞ。それにしても先生、やっぱり変わらないな」
 ケイはヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)を探しに行く。
 
 やがてがケイは、ヴァーナーの他に朱 黎明(しゅ・れいめい)エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)も一緒に連れてきた。
 ヴァーナーがにこにこしながら、ディエムに挨拶する。
「先生とお話したいって人たちをつれてきたです」
「いや、まだ会わせるとは……」
 セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)が「何を今さら」とばかり言う。
「この前、砕音先生の言うとおりにして神子情報を流したので、ヴァーナーは立場が困った事になったのですわ。次の指示をいただく為にも面会は必要ですわよ」
 ディエムは額を押さえる。
「……分かった。案内しよう。ただ戦う気満々の奴が紛れ込まないようにしてくれよ」
「ならば、私の舎弟に警戒に当たらせましょう」
 C級四天王の黎明が、配下の舎弟に他の生徒が紛れないよう見張るよう命じる。
 だが舎弟たちは、これから鏖殺寺院の幹部に会いに行くのだと察し、不安げに顔を見合わせている。
 ネア・メヴァクト(ねあ・めう゛ぁくと)が彼らを落ち着かせるように、ほほ笑む。
「ご安心下さい。皆様が御怪我するような事がありましたら、わたくしがすぐヒールいたします」
 ネアの言葉で舎弟も落ち着きを取り戻し、一行を隠す壁役を務める。
 先を進みながら、ディエムがケイに聞く。
「ケイは、俺やラングレイ様の事を……その、警戒したり恨んだりしてないのか?」
「そんな訳ないだろ。俺は、俺が正しいと思った道を進みたいんだ。
 ディエムや先生が世界を滅亡させる手助けをするなんて思えないし、いつも助けてくれた先生を信じているからな。
 以前、ディエムは学校へ行ったことがないのだと明かしてくれたが、立派な先生はいたのだと思う。
 ディエムが呼ぶ『ラングレイ様』って言葉からは、俺たちが『砕音先生』って呼ぶのと同じ、親愛や敬意みたいなものを感じた。
 砕音先生はラングレイとして鏖殺寺院にいながらも、やっぱり先生で、ディエムのような人たちにも色んなことを教えていたのだと思う」
 ディエムは驚き、そして嬉しそうに笑った。
「ああ……ああ、そうなんだよ! ラングレイ様の事を分かってくれて嬉しいぜ。
 そうだ、この前もあの口に乗ったユーって子やなんかと一緒に、計算や地図の授業もしてくれたんだ」
 その喜びから、彼が砕音を信頼しているのがケイにもよく分かる。
「先生は今もシャンバラや生徒たちを守るために行動してるんだろ? でもラングレイと名乗ってしまった今、先生に味方する人はずいぶんと減ったようだ。
 ディエムは先生を信頼し、行動を共にしている数少ない協力者だから……今度は俺も先生を助けたいんだ」
「そうか、ありがとう……心強いぜ。
 ……ラングレイ様、味方をどんどん更正させるから、いつまで経っても部下が増えないんだよな」
 ディエムの話によると、砕音は鏖殺寺院にやってきたテロリスト志望者を説得し、新たな仕事や住居を紹介して、寺院を辞めさせているそうだ。
 もっともシャンバラや先進国への恨みに凝り固まり、耳を貸さない者もいるのだが。
 カナタが呆れと心配をないまぜに、疑問を口にする。
「それで他の鏖殺寺院幹部から文句は出ぬのか?」
「……あくまで流血やテロにこだわった幹部は、一年前の抗争でラングレイ様が、打ち負かしたからな。その穴を埋める為に、よけいに寺院の仕事に追われるようになったけど」