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リアクション
ナラカ城内部への潜入
一行がそうして、さらに城の奥へ進んでいくと、芦原明倫館の忍者らしき学生が現れた。
「奥に通じる入口を見つけた。どうもこの奥にジークリンデ達がいるようだ」
忍者は黒い覆面で顔を覆っていたが、
久世 沙幸(くぜ・さゆき)とパートナーの藍玉 美海(あいだま・みうみ)、
小林 翔太(こばやし・しょうた)は、正体に気づく。
「ディエム!」
鏖殺寺院で砕音の部下のグエン ディエムであった。
「よかった、また会えて!」
翔太が再会を喜ぶ。
「ああ、おまえ達が来てくれたのか」
そう言って、ディエムは、覆面を外し笑顔を見せる。
「ねえ、私、ディエムに会ったら確認したいことがあったの」
沙幸は、真剣な表情で言う。
「今までのディエムは、空京市長令嬢のユーナちゃんを助け出そうとしたり、
ダークヴァルキリー復活の儀式から生贄の女の子を助け出そうとしたり、
いま鏖殺寺院がやろうとしていることとまったく逆の事をやろうとしているんだもん。
ねぇディエム、
君は本当にアズール達と一緒になって世界を破壊したいと思っているの?
そもそも君はいったい鏖殺寺院で何をやりたいの?」
「そういえば、ディエムさんは
『鏖殺寺院はシャンバラ建国反対を目的とする組織』っておっしゃってましたわね。
そもそも、その事と世界を破壊する事にどういう繋がりがあるのかしら?
もし世界が破壊されたら建国阻止どころの話ではなくなってしまいますし、
それに、建国を反対すると言う事には何か理由があるのですわよね」
美海は、沙幸の肩に手を置きつつ言う。
「別に、俺は世界を滅ぼしたいわけじゃないさ。
これが大勢の人を助けるためって、ラングレイ様が言うからな」
「ラングレイ……砕音先生が?」
沙幸の言葉に、ディエムはうなずく。
どうやら、正体を明かした後も、ディエムは今までの癖で砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)のことを「ラングレイ様」と呼んでいるらしい。
「ただ、細かなことを聞こうとすると、ラングレイ様が苦しそうになったので、
俺はそれ以上は聞かないことにした。
あんなに優しいラングレイ様が言うことなんだから、
きっと、その通りなんだろう」
ディエムの言葉には、砕音への強い信頼が感じられた。
「美海ねーさま……」
「嘘をおっしゃっているようには見えませんわね。
それにしても、砕音先生は、何か、秘密を話すことができないとでもいうのかしら?」
沙幸と美海は、顔を見合わせた。
「待てよ、グエン ディエムだと? 鏖殺寺院だろう?」
近くにいたクイーン・ヴァンガード隊員が言う。
皇 彼方(はなぶさ・かなた)が、それを制止する。
「久世達の友達なんだろ。信用できるはずだ」
先輩格の隊長である彼方の指示で、ディエムは同行できることになった。
一行がディエムについていくと、無人の豪華なベッドルームがあった。
この部屋は、城主の寝室として作られたらしい。
最近、このベッドルームが使用された形跡はない。
ベッドルームに備え付けられている、巨大なウォーキングクロゼットの奥が隠し扉になっていた。
隠し扉の向こうは長い通路だった。
窓はなく、わずかに螺旋を描きながら地下に向かう。
我先へと奥に向かうクイーン・ヴァンガード隊員や、蒼空学園生が、落とし穴や、回転扉の罠に引っかかる。
「安心してくれ。この罠を作ったのはラングレイ様だ。
足止めして進攻を妨げるためのものか、城の外に強制排出するもので、致死性のものはないはずだ」
ディエムが言う。
たとえば、どんでん返しの壁の向こう側に送られてしまった者は、裏通路に送られてしまい、
壁が戻らないので、迷ったあげくに城外に出されてしまうのであった。
「砕音先生の罠……!?」
薔薇の学舎の学生である、小林 翔太(こばやし・しょうた)は、
砕音が学舎に講師としてやってきたときの話を、級友から聞いている。
金ダライがいくつも降ってきて、前方を歩いていた学生達の頭に直撃し、そのまま落とし穴に落とされていった。
「ホントに、あんなコントみたいな罠が仕掛けられてたんだねー……」
翔太は、城内の罠に対処するため、光学迷彩を使用しながらピッキングを使用し、
閉ざされて回り道を余儀なくされた場所を開けたりして、
この場の功労者となった。
「パートナーと離れているなんて、そんなの悲しすぎるんだよー……。
だから、救助して理子さんとジークリンデさんが一緒にいられるようにするんだ。
ピッキングなら任せてね!」
翔太のパートナーの佐々木 小次郎(ささき・こじろう)は、
ジークリンデを殺害しようとする者がいないか心配していた。
(パートナーを大切に思う気持ち、私にもわかります。
ですが、今回は危険なようですね。
救助がうまくいくといいですね……)
小次郎は、大量の金ダライの直撃にあって目を回している者にヒールをかけた。
銃型HCのオートマッピング機能で、城の地図を把握していた渋井 誠治(しぶい・せいじ)は、
逃走経路や敵の挟み撃ちに備え、横道の確認をする。
誠治は、懸念していることをクイーン・ヴァンガードの小隊長に伝える。
「万が一、ジークリンデさんが死亡した場合、パートナーの理子さんにも影響があると思うんだ。
そのせいで、理子さんの魔剣が暴走したりしたら大変だし、
ジークリンデさんが死ぬようなことは絶対に避けるべきだと思う」
小隊長は、新日章会メンバーの方を見て、声を潜めて言う。
「環菜校長は殺してもかまわないと言ったんだ。
我々は作戦を遂行するためにここに来ている。
余計なことは考えるな」
「だけど……!
救出すれば鏖殺寺院の目的は防げるじゃないか。
校長の「殺せ」ってのも最悪の事態を防ぐって意味で救出しろってことだと思うんだ!」
誠治が、小隊長ともめそうになるのを、誠治のパートナー、ヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)が止める。
「ここで騒いでもしかたがないわ。私達にできることをしましょう」
ヒルデガルトが冷静に言う。
「……わかったよ」
誠治は、小隊長の胸倉を掴まんばかりだったが、パートナーの言葉に引き下がる。
(御神楽 環菜(みかぐら・かんな)校長の発言は、
校長という立場上、非情にならざるを得ないのと、学生達に危機感を募らせるための発言でしょう)
ヒルデガルトは、環菜の発言にも一定の理解を示していた。
ヒルデガルトは誠治の後衛に位置し、後方からの不意打ちに備える。
ジークリンデに接触したら、簡潔に現状報告して、共に脱出できるようにするつもりであった。
小隊長と離れた後、彼方は、誠治とヒルデガルトにそっと言う。
「悪く思わないでやってくれ。あいつも、親友を寝所で亡くしてるんだ」
「彼方さんは、ジークリンデさんを助けたいって思ってるよな」
「ああ、もちろんだ」
誠治は、彼方の真剣な表情を見て、少し安心した。
そして、一行が通路をさらに進んでいくと、砕音が堂々と姿を現した。
「砕音だ!」
誠治と話していたクイーン・ヴァンガードの小隊長含め、戦闘で倒すことを考えていた者達が殺到する。
「砕音先生……?」
リコがつぶやく。
リコと、砕音と親しかった学生達は、この砕音に違和感を覚えていた。
砕音の周りにいた者達は、光に包まれ、姿を消す。
砕音と共に城外に強制的にテレポートさせられたのであった。
「あなた達のような考え無しに、彼を殺させるものですか」
砕音は女の声でそうつぶやくと、自爆した。
爆発の威力で、テレポートされた者達は大怪我を負う。
命は助かったが、戦線に復帰することは不可能となった。
一行が呆然としていると、その隙をついて、
メニエス・レイン(めにえす・れいん)とパートナーのミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が、
襲い掛かってきた。
「北条真理香とかいったかしら。
ミスター・ラングレイはリコを殺すんですってね。
邪魔なあなた達を始末してあげるわ」
メニエスがブリザードを使い、歩行を妨害した隙に、ミストラルが新日章会のメンバーに攻撃する。
メニエスとミストラルの攻撃を受けた者達は、急に足元の床が開き、城外退出の穴に落とされた。
「理子様! 北条さん!」
前原 拓海(まえばら・たくみ)がリコの盾になり、
フィオナ・ストークス(ふぃおな・すとーくす)は拓海のサポートをする。
「私の進む道を止めることなんて誰にもさせないわ。
痛いわよぉっ! 楽には死なせてあげない。
立ちふさがったこと、後悔するがいいわ!」
メニエスは、残虐な笑みを浮かべて、必殺の一撃、ファイアストームを真理香中心で放とうとする。
しかし、その瞬間、メニエスの額に浮かび上がっていた鏖殺寺院の紋章が光り、激しい頭痛が襲う。
「……ッ!?」
メニエスは思わず膝を折る。
「メニエス様!?」
ミストラルが叫ぶ。
「チャンスよ! 今のうちに倒してしまいなさい!」
真理香は、不意をつかれた新日章会の体勢を立て直し、メニエスに迫ろうとする。
「メニエス様には、このまま順調に進んでいただく必要がありますわ。
あなた達のような下等な種族に、邪魔されるわけには参りませんわ」
ミストラルは、カタールで真理香を牽制する。
「なっ……きゃあああああ!?」
その瞬間、壁に大きな穴があき、真理香は、新日章会メンバーと共に罠に落とされた。
「しかたありません。ここは一旦退きましょう」
「クッ」
ミストラルに連れられて、メニエスは逃走した。
新日章会メンバーは、真理香とともに、半分の十人程度が罠にかかってしまった。
「さっきから作動してるのと同じ、城外退出の罠だね。命に別状はないはずだよ」
翔太の言葉に、ディエムがうなずく。
リコは呆然としていたが、葛葉 翔(くずのは・しょう)が言う。
「まだ、俺達がいるから大丈夫だ」
「そうね。ジークリンデを助けるためだもの。絶対あきらめないわ!」
決意の表情を浮かべるリコに、翔は微笑むのだった。