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リアクション
ゾディアック始動
「レオンハルト、加勢するぜ!
機晶姫達は俺達に任せろ!」
アイシャの本隊は、主に機晶姫達の足止め(場合によっては掃討)を買って出る。
「助かった。こう数が多くては、我が【鋼鉄の獅子】の精鋭とはいえ、手に余る」
こうして、【鋼鉄の獅子】は体勢を立て直し、本来の任務を遂行するのであった。
「シャムシエルとザコ共は我々が料理する。
これからが、本番だな」
これにより、カンテミールとシャムシエル・サビク、それにクローンと機晶姫の2グループは完全に切り離された。
「パパを守るのは、ボクだけ?
十分だね!」
オリジナルは星剣の形態を変形させて、蛇腹とする。
「いいや、キミの相手は我々だな。
それとも怖気づくのかい? シャムシエル・ザビクのオリジナル」
オリジナルの前に、挑発的に立ったのは、レオンハルトとカオル。
「もう、またキミ達かい?
しつこいねえ!」
いらだったオリジナルは、2人の挑発に乗る。
クローンのグループの内、一体は琳 鳳明(りん・ほうめい)と南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)が引き受けることとなった。
きっかけは、そのものが、よりによって鳳明の敬愛するジャレイラのコスプレをしていたから。
「あれが、クローン? ジャレイラさんの?」
信じられないとばかりに、鳳明は頭を振った。
「駄目だよ! そんなの。
ジャレイラさんはもういないんだ!
彼女を冒とくすることは、絶対に許さない!!」
鳳明は彼女が何らかのジャレイラに関するデータを持っているものだと考えていた。
そんな風に、命をもてあそぶことは許されない。
「ジャレイラさんの死に未練はきっとあると思う。
あの人は、私のもう一つの可能性だったから……。
それで私は、もう一人の私の眠りを、辿った人生を、護るんだ!」
鳳明は【神速+軽身功+先の先+ダッシュローラー】で、考え得る限りの超高速化を図る。
目にもとまらぬ速さで、自ら討って出た。
六号大槍は、偽ジャレイラの命を確実に奪う。
その傍らで、ヒラニィはアイシャに向き直って叫んだ。
「十二星華の一人ジャレイラ……行く当てのなかった己を迎え入れた、
その恩義に報いる為に女神として崇められ、戦い続け、
そして誰知れずその命を散らした女だ。
そのジャレイラが生涯の大半を過ごした黒羊郷の、ヒラニプラ南部地域の地祇として女王アイシャ殿に問いたい。
ゾディアックとやらの起動に必要な十二星華、その中のジャレイラという空席を如何として埋めるつもりだろうか?
どうか……どうか彼女の死を辱めぬ答えを頂きたい」
答えを待って、ヒラニィは佇む。
だがアイシャは静かに両眼を閉じるのみであった。
かの空席は何者にも埋められぬ――。
その事実を、女王は今、知ってしまったから。
そして、1人残ったカンテミールは、グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)、ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)、四谷 大助、四谷 七乃(しや・ななの)、緋山 政敏、カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)の計6名からなる討伐隊に囲まれてしまうのであった。
「1つ尋ねてみるかな?」
カンテミールは、合点がいかないという風に、機械の目の色を変える。
「諸君らは女王の本隊とは別に行動していた、単独組のようだが。
なぜ、迷わずにここへ辿り着けたのかね?」
「カチェアのお陰だな」
一同はポニーテールの少女に目を向ける。
カチェアは携帯を取り出して、画像を現わした。
「あらかじめ見取り図を端末からダウンロードして、学生たち全員に送信しておいたのよ。
ラズィーヤさんからの許可をもらってね」
「ちなみにドック内から指示を出していたのは、俺」
政敏が片手をあげる。
彼は本来、ドック内の迎撃役だ。
「機晶姫といい、ドックといい、怪しいことだらけさ。
だがアイシャの為に、何とか道を残さなくちゃいけない。
内と外から連携したら、怖いもんなしだろ?」
「なるほど」
カンテミールは溜め息と共に頷いた。
「簡単だが、やられてしまうと、敵にとってはイタいからくりだな。
極力穏便に、ゾディアックを手に入れたかったのだがなぁ……」
「ゾディアックは渡さない!」
宣言したのは、グレン・アディール。
だがその姿は、光学迷彩で姿をブラックコートで気配を消してある。
「カンテミールさん!
私が相手です!」
はっ! とソニアはローラーダッシュ!
毒虫の群れを展開させる。
「どんな機晶姫もクローンも、一つの『生命』です!
『物』などではありません!
その『生命』を『物』として扱う権利なんて誰にもありません!
たとえ創造主や神様だとしても……」
六連ミサイルポッドを向けた。
「これから私は罪を犯します…神殺しという名の罪を…」
バババアァ――ンッ!
全弾命中。
煙と共に、毒虫の群れがカンテミールを埋め尽くす。
だがそれでも、カンテミールの動きを封じるには、今少し及ばない。
「詩穂が加勢するね☆」
駆け寄った。
その一瞬、アイシャの強張った顔が目に映る。
詩穂は無意識のうちに【慈愛】を握りしめた。
(詩穂が戦っている姿、見たくないよね……)
けれど、と思う。
幾度も幾度も自分に言い聞かせたのだ。
アイシャ直属ロイヤルガードとして!
自らゾディアックに赴いた、アイシャの『願いを護る為』に、
自分は戦うのだと。
「恐れないで、戦う事!」
詩穂は軽身功で壁を自在に走り始めた。
「アイシャちゃんが自らここまで赴いた姿も、
人と人が争わない世界への願いを込めた『戦いの形の1つ』だって!
信じてるよ」
「詩穂……」
アイシャはそれでも心配そうに見守る。
詩穂はうん、と頷くと、『龍飛翔突』の電撃で機械部分を狙い撃つ。
衝撃とダメージの蓄積から、カンテミールは身動きが取れなくなった。
「すまない、皆……」
グレンは礼を述べつつ、さざれ石の短刀に持ち替えた。
1人で色々とやらなければ、と考えていたが、仲間の協力で既に相手は動けない。
「……お陰で、石化だけに集中できる!」
生身の足を狙った。
カンテミールの動きが石化の為にとまる。
ソニアが選帝神の頭部を狙い撃ち始める。
グレンはライトブリンガーを掲げた。
「これで、終わりだ!」
頭部の生身と機械の間に刃を向けた。一気に振り下ろす。
メリメリメリッ
体が切り裂かれる音。
毒虫の群れが退いて、中が露わになる。
二つに切り裂かれたカンテミールの姿が、そこにはあった。
機械と生身を切り分けられた、この世のものとは思えぬ男の姿が――。
ハアッと深く息をつく。
グレンは冷ややかに半身に語りかけた。
「どうだ? カンテミール?」
「……ふむ。
身軽になったかねぇ」
……っ!!
生きているっ!?
一同はその強靭な生命力に目を剥いた。
だが驚くのはまだ早い。
カンテミールの半身はみるみる再生し、元通りとなってしまった。
「ふう、でも大分再生に体力と魔法を使ってしまったよ。
なかなかやるね? 君――そう、グレン君だったかな?」
程なくして光学迷彩を解除したグレンが、姿を現す。
「実に目障りだ、終わりにして差し上げよう」
背後から殺気。
グレンがかわした時には遅かった。
ちっ、と舌打ちしたのは刹那。
隠れ身と機晶姫達で姿を隠し、ブラインドナイブスからの攻撃を仕掛けたが、掠り傷で終わってしまった。
そのままアルミナとともに、カンテミールの前に立つ。
「こちらも仕事なのでな……」
「おまえは……シャンバラの学生ではないのか?」
刹那は冷ややかに答える。
「金で買われた身だ。
悪く思うなよ」
彼の傍らでアルミナは怒りの歌を歌った。
次いで、驚きの歌で刹那の精神力を回復させる。
前者は、カンテミール達の為に。
後者は、大好きな契約者の為に。
(せっちゃん……仕事だもん、仕方がないよね?
でもボクは、どんな人に雇われても、せっちゃんの為に頑張るよ!)
膠着を破ったのは、毒虫達の群れによる。
「何だっ! こいつらは!」
3名は離されて、カンテミールは再び1人残された。
その隙をついて、四谷 大助は四谷 七乃に命じる。
「こい、七乃」
「はい、マスター」
七乃は頷いて、魔鎧のコートに変化した。
「じょおーきには指いっぽん触れさせませんよ!」
封印解凍で、大助をサポートする。
大助はカンテミールに魔拳ブラックブランドを掲げてみせた。
「これからも神級の敵はもっと現れるはず。
ここで止める事もできないなら、
オレたち契約者は、きっと戦争に負ける……」
だから、と神速で近づき、攻撃の体勢に入った。
「お前は危険だ。ここで確実に倒す!」
エイミングの拳――。
魔拳の家紋が光り輝き、唸りを上げて攻撃力強化する。
奇襲の、一撃!
カンテミールはよろけながらも、すんでのところでかわした。
だが大助の攻撃は強力な為、無傷とまではいかない。
片腕の関節が外れて、使いものにならなくなる。
ぐおおおおおおおおおおおおおおっ!
片腕を潰された屈辱に、カンテミールは低い唸り声を上げる。
「おのれ!
私の、再生したばかりだったというのに!」
そのカンテミール目掛けて、今度は政敏が襲い掛かる。
刹那が間に入ったものの、実践的錯覚を使用されて、間合いを外されてしまった。
トドメとばかりに、カチェアが光術で目を眩ます。
「し、しまった!」
気がついた時には、政敏は目と鼻の先。
機械化された側の方から、間合いを詰められていた。
飛び込むようにして、轟雷閃を放つ。
衝撃と共に、カンテミールはついに片膝をついた。
そこへ、ラズィーヤが剣を素早く振り下ろす。
カンテミールはかろうじてかわしたが、ラズィーヤは不敵な笑みを浮かべただけだった。
「これは、『フリ』ですわ!」
「な、なんだとっ?」
ミュー! ラズィーヤは呼ぶ。
影が伸びたかと思うと、ミューレリアの『狂血の黒影爪』が現れた。
リリウムのブラインドナイブスを併用したそれは、彼が気づく前にわき腹を直撃する。
流血と共に、カンテミールの呼吸は荒くなる。
あと一息!
「パパ!」
シャムシエル達が駆けつけようとする。
だがその大半は斬り伏せられてしまった。
オリジナルは、気が散った拍子にレオンハルトに背から斬られ、深手を負う。
すれ違いざまに、オリジナルの片手から瓶がするりと抜けおちた。
「おっと! あぶねぇ」
レオンハルトは瓶を地につく寸前でキャッチする。
鈴の大事な形見の品だ。
そのまま、鈴に放り投げて渡す。
「く、くそ! お前達
それに、こんな傷!
パパがいれば、パパさえいれば、何てことないもんね!!」
大切な瓶を奪われて、オリジナルは明らかに激高した。
赤い血をふりまいて、笑い狂いながら、カンテミールに駆け寄ろうとする。
「パパッ!」
その前をレオンハルトが、背後をカオルが、脇を双方のパートナー達が押さえようとする。
「おっと、俺の可愛いシャムシエルに手を出させる訳にはいかないぜ!」
2つの影が間に入った。
「玖朔……と、ハヅキ!」
「これ以上、近づくんじゃねぇや!」
玖朔はアシッドミストを発動させる。
相手を動けなくする程度に薄められた、酸の霧だ。
攻めあぐねているレオンハルト達の僅かな隙をついて、カンテミールが着地する。
かの男に毒虫の視界を遮るハンデは利かないらしい。
これで、4対4。
そのうちの一人は深手を負っているとはいえ、無敵の「選帝神」だ。
ブォンッ。
軍用バイクの音。
ハッとして、カンテミールは振り向いた。
入口付近。
リア・レオニス(りあ・れおにす)が、軍用バイクのサイドカーにアイシャを乗せる所だった。
レムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)に見守られながら。
鈴がアイシャに駆け寄る。
「アイシャ殿、これを……」
「十二星華、ジャレイラさんの血ですね?」
はい、と鈴は頷く。
アイシャにはそれだけで十分だった。
そっと胸元に抱きしめて。
「彼女の悲哀は受け取りました。
この血にかけて、その想いと共に、私もシャンバラを守りますわ。
その想いこそが、ゾディアックにもよい影響を与える事でしょうから」
まもなくアイシャを載せた軍用バイクは、ゾディアックの保管庫目掛けて発進する。
その直前、リアはブリリアントリングをアイシャに渡した。
アイシャは何事か告げようとしたが、リアは笑って首を振った。
「『心は君と共にある』、そういう意味だよ。
お守り代わりと思ってくれていい」
「……ありがとう、ございます……」
アイシャはキュッと握りしめて、今はポケットに忍ばせる。
「アイシャ行くよ! しっかりつかまって!」
消炎立ちこめるドックの中を、リアは軍用バイクを走らせた。
そのまま、保管庫目掛けて突破する。
「人がすぎますよ、リア」
レムテネルはリアの本心を思って、されど弾幕援護で敵を欺いた。
心の底では、深い溜め息をつきながら。
「それで、リアは……最期までボロボロになっても戦うのでしょう?
若き女王、アイシャを守りたい一心で」
そのために手に入れたイエニチェリの座であり、力だ……。
そこまで考えて、頭を振った。
「戦いが終わった時。
2人がうまく行ってくれるとよいのですが……」
歓声と共に、女王はゾディアックに近づく。
カンテミール達を囲む包囲網は、次第に厚くなる。
「引き際だ、カンテミール」
スタンッと影が下りた。
刹那だ。
雇い主の耳元で淡白に告げる。
うむ、とカンテミールは頷いた。
彼も馬鹿ではない。
未だ戦う気でいるオリジナルの鳩尾に軽い一撃を加えて、気絶させる。
「そうだな、ここは退くとするよ。
分が悪そうだ……」
カンテミール自身は苦痛に眉をひそめる。
「それと、誠に申し訳ないが、この傷だ。
君達には構っていられない。
健闘を祈るよ」
オリジナルだけを連れて、テレポートでの脱出を図る。
消えゆく間際、突然の成り行きに唖然とする玖朔を見据えて、憐憫の笑みを浮かべた。
「ヘクトルは我が帝国を裏切った上に、行方知れずになったそうだ。
腹を決める事だな」
「っ!!」
玖朔は目を見開いて、カンテミールに尋ねようとする。
だが、裾に伸ばしたはずの片手は、虚しく宙を掴んだだけだった。
「邪魔するんじゃねーよ」
カンテミールの影目掛けて、政敏の轟雷閃が放たれる。
その間に、アイシャは軍用バイクから下りて、ゾディアックに搭乗した。
「女王の勝ちだ!」
誰かが言った。
■
勝利に沸きかえる一行の中、玖朔、刹那、ハヅキの四名は捕えられる。
メニエスとティアも捕えられたが、メニエスは不敵に笑うのみだった。
「あら、あたしは脅されてティアを提供しただけですもの。
被害者なのに、加害者扱いかしら?」