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戦乱の絆 第二部 第二回

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戦乱の絆 第二部 第二回
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リアクション


ドック・攻防


 ドックの入り口を目指すカンテミール達の前に、スッと立ったのは、冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)だった。
 後ろに、エンデ・フォルモント(えんで・ふぉるもんと)が控えている。
「イナンナの加護と殺気看破で、私の気配を察したのか?
ドックから」
 カンテミールの機械の目は、面白そうにエンデをとらえる。
「トレジャーセンスを使ってみたものの、
 それでは駄目だと察して、切り替えたか。
 頭の良い奴だな」
 はっと顔を上げたのは、エンデ。
 言いもしないのに、なぜそんなことまでわかったのだろうか? この男は。
「君達が相手にするのは、そういう男だよ?」
 ふっと笑って、カンテミールは小夜子に目を映した。
「いくらラズィーヤの命とはいえ、勝ち目はないと思うけど?
 白百合団のお嬢さん方」
 小夜子はフラワシ準備をしつつ、警戒を強める。
「そして、君は……どうやら戦うことばかりが目的ではなさそうだが?」
「ええ、あなたにお尋ねしたい事がありまして。
 それで、こうして探したのですわ」
 隠した所で、どうせ察してしまうのなら、好都合と言うもの。
 小夜子は、当初の予定通り、単刀直入に疑問をぶつけてみた。
「……カンテミール。
 貴方は、ゾディアックを使い何をするつもりですか?」
「ふむ、良い質問だ。
 それに、どのみち君達に教えるつもりだったしね」
 カンテミールは悪びれずに、率直に答える。
「私はね。『機械の女王』で『永遠の平和』を得ようとしているのだよ。
 つまり、ゾディアックを基に、人為的な女王を創りだすことによってね」
「『永遠の平和』?
 貴方の言う平和とは何なのです?」
 小夜子は眉をしかめて、カンテミールに問い返す。
 だが、一筋縄ではいかぬらしいこの紳士は、憐みを帯びた冷笑で小夜子に問い返す。
「では、君はこのシャンバラが『平和』だとでも思っているのかい?
 この戦乱に満ちたシャンバラの国が!」
 小夜子は唇を噛む。
 確かにカンテミールの指摘は正しいから。
「ありがとう、ここまで答えて下さって。
 けれど、ここから先は通させませんわ!」
 言った瞬間に、小夜子は焔のフラワシでカンテミール達を狙う。
 もちろん、カンテミールにはキズ1つない。
 だが、クローンは一体は傷ついてしまった。
 消失しなかったのは、カンテミールがとっさにかばったから。
「ああ、私の大事な娘が!
 これから必要な『十二星華』の代用品だというのに……っ!」
「代用品? 娘として大事という訳ではなさそうですわね?」
「小夜子様、気をつけて。
 私も加勢します!」
 エンデはイナンナの加護や殺気看破で周囲からの襲撃に備える。
「だが、本気の私にそんなものは利かんよ!
 まして、君達は私を怒らせてしまったからなぁ」
 ぶんっと腕を振る。
 だが、実際にはカンテミールは2人を気絶させただけで、道の脇に置いた。
「あのラズィーヤの知り合いだからな。
 この辺りでとめておくことにするよ、お嬢さん方」
 
 視界の薄れゆく小夜子の脇を通り過ぎて、カンテミールはクローンと玖朔らに指示を出す。
「じゃ、先にドックの中の連中をたたいてくるぜ!」
 玖朔は片手を上げると、クローン達と共に意気揚々として歩を進めるのであった。

 ■
 
 警報が鳴る。
 ラズィーヤの両目が入口に注がれる。
「皆様、来ましてよ。
 招かざる『お客様』の一行が!」
 
 ■
 
「客、か……
 だが、何者であろうと、ここで食い止めなければならないな!」
 【鋼鉄の獅子】の一員として!
 月島 悠(つきしま・ゆう)麻上 翼(まがみ・つばさ)と共に、入口の前で立ちはだかる。
「ココから先に進ませたら、後は守る者がほぼいませんね!」
 
 パワードレーザーでの射撃!
 のっけの全力攻撃で、正面突破を図ろうとしていたクローンの一体が負傷した。
 攻撃の手は止まない。
 翼は弾幕援護を無意識のうちに張って、支援に努める。
 
 だが玖朔とハズキはともかく、クローン達は総て揃っているため、数が多すぎる。
 1体を倒すのがせいぜいのようだ。
 最終防衛ラインが突破される寸前、悠は連絡を入れてドックに下がった。
 
「隊長!
 クローンを一体足止めしましたが、入口は突破されてしまいました!
 私達はこれから、ドック内部の迎撃隊と合流します!」
 ふと思った事を、横合いから翼が付け加える。
「それから、クローンのことだけど。
 ボク、剣の花嫁なのに、目もくれなかったんだ。
 気のせいかな?」
 
 ■
 
 11体のクローンと玖朔達はドック内部へ侵入を果たした。
 円滑に侵入できたのは味方が多かったためだが、その際複数の機晶姫達と共に、なぜか鏖殺寺院の兵達が混ざっていた事も特記しよう。
 
 一方で。
 やや離れた位置から事の次第を静観していたカンテミールは、通路で倒れたままのクローンを抱き上げ、わなないていた。
「なんてことだ!
 お前がいなくなってしまったら!
 私の計画は完璧ではなくなってしまう!
 ……うむ、事と次第によっては玖朔を下がらせて、私とオリジナルが直々にドックを攻略するしかない、か?」
「一体くらいが何だというの?」
 声は背後から聞こえる。
 カンテミールはさして驚いた風もなくふりむいた。
 メニエスが、不敵な笑みを浮かべて立っていた。
 片手は、脅えて涙を浮かべたティアの首を掴んだまま。
「あたしの、このパートナーがいる限り、あなたの計画は完璧だわ」
「やあ、頼もしいお嬢さん!
 君がそう言いだしてくれるのを待っていたんだよ!!」
 カンテミールは満面の笑みで、グッとメニエスの両手を握る。
「長い間、『星剣』を体内に収めていた、この体!
 なに、チョット改造すれば、我がクローンの代用となりうだろうさ」
「『星剣』? 『体内?』? 何のことかしら?」
 とぼけてみせたが、カンテミールは余裕綽々たる様でニヤニヤとしている。
 メニエスは不快に眉をしかめた。
(この男。
 あたしの考えを、見通していたとでもいうの?)
 ゾディアックの奪取するため。
 いざとなったら、12体の一体を我が手で消してでも、ティアを参加させようとしていた――その考えを。
 
 ならば、と考えを変える。
(好都合というもの。
 この機会を利用させて頂くとするわ、カンテミール?)
 最後に笑うのは自分でなければならない。
 例え神が相手であろうとも。

「さすがは選帝神ね?
 それで、ティアをどう改造するの?」
「ああ、十二星華の血を借りて、疑似十二星華化させることとするよ。
 幸いに持ってきて下さっている方もいらっしゃる事ですし……」
 ティアを乱暴に引き摺って、カンテミールに渡す。
「ひっ……ど、どこに連れて行くの……っ!?」
 憐れなティアは泣き叫ぶばかりだ。
 
 ときの声――。
 
 通路が揺れる。
 ドック内でゾディアックを巡る攻防が始まったのだ。
 
 ■
 
「【鋼鉄の獅子】、作戦開始!」
 優雅に片手を上げて指示を下したのは、指揮官のレオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)
「撃てっ!」
 狙撃手に合図。
 
 ドドオオォ――ンッ!
 
 侵入者達目掛けて、銃弾が炸裂する。
 
「【鋼鉄の獅子】にばかりに、手間をかけられませんわね?」
 レオンハルト達の戦いぶりに、ラズィーヤは勝機を感じ取ったらしい。
 周囲の者達を見回す。
「攻撃は最大の防御ですわ。
 どなたか勇気のある殿方はいらっしゃらなくて?」
「私が行きましょう、お嬢さん」
 スッとラズィーヤの前に進み出たのは、斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)
 彼はドックを守るため、ネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)と共に戦いに参加していた。
「ではお願いしますわ、邦彦さん」
「まぁ、あまり期待しないでください。
 クローンがせいぜいかもしれませんし」

 果たして彼の言は現実となる。
 隠れ身を用いて気配を消した邦彦の活躍は、それは目覚ましいものであった。
「確立は1/13、分は悪くない。
 たまには直感を信じて、クローンにぶつかれることを祈ろうか」
 彼が隠れている間に、ネルは精一杯栄光の刀で、クローン達をひきつけた。
「いまよ! 邦彦」
 そうして、油断をしたクローンの一体を仕留めた。
 が、その直後に現れたシャムシエルの星剣の餌食となったのであった。
 
 カンテミールとオリジナルの登場である。
 
「パパ曰くぅ。
 そんなに娘どもをいじめちゃいけないってさ!
 あ〜〜〜〜〜〜あ、こんなにしちゃって!」
 オリジナルは足下の泥をけり上げた。
 邦彦に惨殺された、クローンの残骸。
 その泥をすくって、カンテミールは今度こそ怒りに全身を震えさせる。
「おのれ、貴様ら!
 我が計画をことごとく邪魔しくさるとは!!」
「ふん、父親が相手……とは……な……」
 邦彦はガクリと膝をつく。
 彼に、肩を貸しつつ。
「引き際を見誤るなんて邦彦らしくないわね。……付き合うよ」
 ネルはなおも刀を振りかざして、シャムシエルに向かう。
 
 はあぁぁぁぁ!

 一閃。
 だがカンテミールはシャムシエル達の前に立つと、ネルに強烈な一撃を加える。
 2名の勇者は血だまりの中にとっ伏した。
 
「娘達、私の後ろに下がりなさい!
 もう、これ以上、君達を失う訳にはいかない」
「俺は、つき従うぜ。 最期までさ」
「では、娘達の方に」
 カンテミールは、玖朔にクローンの援護を任せる。
 一方で、メニエスはオリジナルと共にカンテミールの傍に控えた。
「客人と、大事な娘を守るのがパパの務めだからな」
 オリジナルにうっとりとするのよう笑みを向けるのであった。

 だが2人の距離は、不意の一発に離される。
 
「ようこそ、招かれざる客人達。
 そして名も無き偽りの十二星華、腕の傷は癒えたかね」
 レオンハルト・ルーヴェンドルフは冷笑で挑発する。
「ふん! あの時の嫌なキミだね!」
「矜持があるなら、気に入らない相手は自力で捻じ伏せて見せろ!」
「っ!
 い、言われなくても〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 単純なオリジナル・シャムシエルは、独り離れて、レオンハルトの元へと飛び込んで行く。
 
「シャムシエル!」
 追いかけようとした玖朔の前に、影。
「邪魔立て無用! 貴公の相手は自分が務めましょう」
 イヴェイン・ウリエンス(いべいん・うりえんす)が立ちはだかった。
「騎士は主命に従うのみ。
 獅子の騎士イヴェイン・ウリエンス……いざ、参る」
「ちっ!」
 玖朔はファイアストームを放った後、後方に下がった。
 彼は命により、クローン達を守らなければならないのだ。
 そうして難敵を退けたイヴェインは、カンテミールを探しつつ、より強力な敵と交戦し続けることとなった。
 
 一方で、レオンハルトはオリジナルとの戦いに専念する。
「どうした? シャムシエル。
 所詮はその程度の力か?」
 レオンハルトは鼻先で嘲笑った。
 受太刀と歴戦の防御術を駆使し、相手の攻撃を捌く事に専念する。
 だが一歩間違えば、自分の剣の方が弾き飛ばされかねない。
(さすがはオリジナル、といったところか……)
 クローン相手とはケタ違いのパワーだ。
 このままでは長くは持たない。
(せめて、時間稼ぎにさえなれば……)
 ただの、ではない。
「もう、おしまい? じゃ、本気で行くからね!」
 しびれを切らしたオリジナルが、一気に間合いを詰めようとする。
 平常心を削がれたところで。
「撃てっ!」
 狙撃手に合図。
 わわっ、と彼女はたたらを踏む。
 その隙にレオンハルトはソニックブレードを放ち、攻撃に転じるのであった。
(カオル……っ!?)
 オリジナルの背後からの気配に、彼は祈るような思いで目を注ぐ。
 
 その、奇襲班の橘 カオル(たちばな・かおる)は、出来る限り自然体でオリジナルを取り押さえようとしていた。
 殺気が感じられない為か、シャムシエル・サビクは気付かない。
 おまけに光学迷彩で見えなくする、という念の入れようだ。
 姿も見えなければ、気配もないとくれば、歴戦の勇者であろうとも気づくのは難しい。
 
 成功は、目前である――。
 
 が、マリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)は、なぜか不審そうにカオルの行動を見守っていた。
「なぁーんか、やな予感がするのよね?
 以前と似た様な、このパターン」
 だが表立っては、シャムシエルの誘導に力を注ぐ。
 彼女が近づくや、諸手を上げて逃げ始めた。
「あ〜れ〜、操られる〜。
 おたすけ〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 必死の形相で駆けずり回るマリーアは、剣の花嫁だ。
 彼女の目を見たオリジナルは、ふーんと察したらしい。
 案の定、マリーアを使ってレオンハルトを攻撃することを思いつく。
 待て! と追いかけはじめた。
 その背後から、カオル。
(一撃必殺っ!)
 手には、隊長のレオンハルトから渡された「獅子咬」。
 気合も十分に、必殺技の面打ちで、オリジナルを叩きのめそうとする……。
 
 ……と、なんと!
(わわっ、手がっ!!)
 カオルは焦った。
 両手が滑って、標的を拘束するような形となった。
 そのままよりによって、彼女の巨乳を鷲掴みに……鷲掴みに?
 
「2度も同じ手には、引っ掛からせませんよ? 諸君」
 ハッハッハッ!
 鷹揚な笑いと共に、カオルは広い背に阻まれた。
「げげっ! か、カンテミール!?」
 カオルの思考が一瞬固まる。
 オヤジの胸を鷲掴みにしてしまった!?
 あまりのショックに、光学迷彩は解除される。
 
「ありがとう! パパ。
 何かやらしいんだよね? キミ」
 シュンッ。
 カンテミールの肩越しに、オリジナルの星剣がカオル目掛けて放たれる。
 だが、カオルは間髪の差でかわした。
(獅子咬……あった!)
 大切な刀を拾い上げて、平静に戻った為だろう。
 スウェー、受太刀を使って、攻撃を器用に受け流す。
 安全地帯まで退避した後、ふうっと額の汗を拭った。
「超感覚に殺気看破。
 やっぱ、準備って、怠るもんじゃねぇよな」
 そうして再び光学迷彩を使うと、一撃必殺の機会を狙うのだった。
 
 カンテミール達の進撃は続く。
 クローンもかなりの強敵だが、オリジナルの比ではない。
 その上カンテミールもいるときては、さすがの学生達も押され気味のようだ。
 
「けれど、ここから先は通させません!」
 ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)は氷術を放つ。
「ナナ様、拙者がついて御座る!」
 音羽 逢(おとわ・あい)が、さざれ石の短刀で二刀の構えを取る。
 彼女は、カオル達奇襲班組の援護から戻ってきたばかりであった。
 カンテミールは、ゾディアックの保管室前に既に近づきつつある。
 レオンハルト達が駆けつける。カンテミール達の注意を引く。
 彼の攻撃のタイミングを図りつつ、ナナは即天去私でオリジナル・シャムシエルやカンテミールに狙いを定めた。
 されど、これではまだカンテミール達にとっては赤子の手を捻る程度のもの。
 おまけに、切り開かれた道をたどって、続々と機晶姫の生き残りが押し寄せる。
「な、ならば、いっそのこと!
 ゾディアックの破壊を!」
 あんなものがあるから、争いは起きるのだろうか?
 ナナはそんな事を考える。
 だが保管庫に向き直ったナナの手を、逢は止めた。
「ナナ様、早まるでない。
 それに、負けたと決まった訳でも御座らんよ」
 万一の時には、と逢は両目を伏せる。
「かの女王器を敵に奪われる時は、
 その悩み、拙者が実行し絶ち切ってくれよう」
「逢様……」
 
 ナナ達の防衛ラインは突破され、カンテミールは保管庫に近づく。
 
「ナナ!
 くそ、ナナに手を出させてなるもんか! 仲間達にも!!」
 ナナの後方から、恋人・ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)ソフィア・クロケット(そふぃあ・くろけっと)が加勢する。
 ルースはカモフラージュを使用し、レオンハルトの合図に合わせてスナイプで確実に脳天をぶち抜いていく。
 狙撃の対象はクローン。そして、機晶姫。
「最悪、倒せなくたって!
 アイシャが来るまでの時間稼ぎになればいい!」
「わかりました、任せてください!」
 ソフィアは答えて、行動に移す。
「はいっ!
 どこ見ているんですか? こっちですよーっ!」
 手を叩いて、機晶姫達を挑発する。
 だが1人で狙撃するには、相手の数が多すぎる!
「ここは、頭使おうぜ! ルース!」
 ウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)は、弾幕援護で一行の動きを支援する。
 弾切れを起こせば、パートナーのチョウ コウにショットガンを渡して、今度は肩掛けしていた【光条兵器】のマシンガンに持ち替える。
 コウは【ヒロイックアサルト】を発動させ薙刀を振るっていたが、いまはウォーレンの弾充填係に専念していた。
「……充填完了」
「よし、行くぜ!」
 ウォーレンは光条兵器で光の幕を張る。
 敵は自分達の姿を見失って、動きがとまる。
 ルース達の狙撃が始まる。
 その隙に、ショットガンをコウから受け取るのであった。
「狙撃手を守らないと、だからな。
 通るなら弾の海を越えてみるこった♪」

 が、いくら連携の良い攻撃とはいえ。
 機晶姫達はともかく、この人数でカンテミールとオリジナルの動きを止めるのは難しい。
 かろうじて進行のスピードが落ちたくらいのもの。
 おまけにカンテミールらは、ルース達の前までは至っていない。
 そうこうしているうちに、カンテミールはゾディアックの保管庫の扉前まで来てしまった。
 そこではラズィーヤが、剣を構えてカンテミールを睨む。
 彼女の傍らに、姫神 司(ひめがみ・つかさ)グレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)

(何という威圧感なのだ!)
 司は一瞬不覚にもたじろいだ。
(これが、シャムシエルの「パパ」)
 愛娘と言いながら、それと同じ姿をした者が打ち倒されても、
 痛痒の表情すら見せない親――。
(そんな愛情は、ただの自己満足や一方的な押し付けではないのか?)
 半身が機械では、感情まで鈍るものなのか?
 不快に眉を顰める彼女の背後で、ラズィーヤは一太刀の機会を窺っている。
 邪魔にならぬよう、司は距離を取りつつカンテミールを睨みつける。
 
「お嬢さん、私に何か聞きたい事でもあるようだね?」
 口の端をつりあげて、カンテミールが司に尋ねた。
 片手を上げた。侵攻が止まる。
「カンテミール……」
 一瞬躊躇したが。
 スッと息を吸って、結局司は尋ねるのであった。
「……5000年前に、ゾディアックや十二星華に、地球とパラミタの間に何が起こったというのか……わたくしは、それを知りたい」

「ふむ、真実か……。
 まぁ、5000年前の事は、私もよく知らないがね」
 カンテミールは顎先に手を当てる。
「だが真実とは、時に残酷なものだ、お嬢さん。
 もっとも一部の見識者達はとうに勘付いている様だがね、ラズィーヤ」
 ラズィーヤは険しい表情で、カンテミールを睨みつける。
「ラズィーヤ様?」
 司は怪訝そうな目を向ける。
 彼女を面白そうに眺めて、カンテミールは以下のような事を告げた。
 
 司が察した通り、カンテミールはヒラニプラ家の血を引いている事。
 そして、本物のミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)はとうに殺されてしまっている事――。
 
「し、信じられないです!」
 司の隣で、グレッグは頭を振った。
 ツァンダ出身の守護天使である彼は、それゆえ聞き流す事など出来ない。
「ミルザム様が殺されているとは、どういう事なのでしょうか?
 先日も地球から配信された動画に、お元気な姿を見たばかりです。
 それはいつの事なのですか?
 ごく最近のお話なのですか?」
 第一、と考える。
 真実であったとしたら、ミルザムと同じく女王の血統に近いラズィーヤが、なぜ今まで黙っていたのか?
 そこまで考えて、はたとグレッグは思い至った。
 
 ラズィーヤは海底遺跡で、はっきりと告げたのだ。
 ミルザムの敵、と――。

「ふむ、気がついたようだね。
 だから、真実とは残酷なものなのだよ」
 カンテミールはグレッグに憐憫の目を向けた。
 
 そう、グレッグが気づいた通り、かのミルザムは「偽者」なのだ。
「本当のミルザム・ツァンダ」は国家神としての資質を持つ、アムリアナから5000年後に初めて誕生した女王の後継者であった。
 そのため、今から十二年前。
 地球と接触する直前のシャンバラでは、ミルザムを女王として建国する計画があったのだ。
 しかしカンテミールからすれば、それは「シャンバラの真の平穏」にはなりえない。
 
「だから殺してしまったのだよ……我が手でね」

 ミルザムを殺した彼は、女王の力の一端を手にする。
 そして真の女王を誕生させるために、エリュシオンに渡ったのだった。
 その事実をツァンダ家は隠ぺいしようとした。
 新たにシリウスという踊り子の少女を連れてきて、“ミルザム”に仕立て上げたのだ。
 さらには地球とパラミタが再び接触したことで、アムリアナ女王が生存している可能性が取りざたされ始めた。
 そのため、“ミルザム”は真の女王 が見つかるまでの代役、「女王候補」とされたのであった……。

「……そうだろ? ラズィーヤ」
 親しみを込めて、カンテミールは少女の名を呼ぶ。
「ら、ラズィーヤ様?」
 グレッグはおそるおそる背後に目を向ける。
 ラズィーヤは白い顔を、更に白くさせて、カンテミールを見据えている。
 かの女性が、これほどまでに取り乱した姿は、未だかつてない。
 最早疑う余地はない。
 カンテミールは勝ち誇ったように笑うのだった
「ほうらね、そこのお嬢さんは知っているのさ。
 ミルザムと親友だったラズィーヤとバズラ・キマクは、ね」

 一行に動揺が走る。
 動きが鈍った一瞬を、カンテミールは逃さなかった。
 
 オリジナルとティアを連れて、カンテミールはテレポートを行う。
 現れた先は、綺羅瑠璃の前。
「もらったよ、キミの剣の花嫁!」
「な、何!?」
 沙鈴が庇った時には遅かった。
 オリジナルは瑠璃の目をとらえて、己の人形とする。
「これは、この娘だけの特別な能力でね。
 今のところクローンどもには無理だが、弱い諸君には彼女一人で十分だろう」
 カンテミールは蛇足だがな、と付け加えた後で、オリジナルを下がらせる。
「こっちへ! 戻ってくるのです!」
「駄目です! もう、か、体が……」
「無駄だよ、彼女はもう、ボクのお人形さんだもの! ふふふ……」
 オリジナルは無邪気に笑って、瑠璃の手を引く。
 そして片手を彼女の胸元に突っ込み、瓶を我がものとした。
「そ、それは…っ!」
「うん、手に入れたよ! パパ!
 十二星華、ジャレイラの血!」
 オリジナルはカンテミールに捧げる。
「もう、この女に用はない、ゆくぞ!」
 カンテミールはオリジナルと、泣き叫ぶティアを抱きかかえると、再びテレポートを決行させる。
 
 そこは奇しくも、ルース達の眼前であった。
「ふ、ふざけやがって!」
 だが、ルースの銃はオリジナルの星剣・還襲斬星刀によって絡め取られる。
 中空に弾き飛ばされるルースの銃。
 そして蛇のようにしなった星剣は、一瞬輝く。
 そのまま真直ぐな一本の剣となった。
 
 シュンッ。
 
 目にもとまらぬ速さで、ルースの喉元に切っ先が突きつけられる。
「そこをどきなよ、キミの負けだと思うけど?」
「ぐっ」
 ルースは抵抗したいが、身動きすらできない。
「ルース! この!」
 ナナが駆けつけて氷術を放つが、一瞬早くカンテミールが庇って片手を上げた。
 それだけで、魔法の氷は消失する。
 
 彼の下に、クローン達が集結しつつある。
 その様子を眺めて、カンテミールはティアの首根っこを掴んで、瓶を掲げた。
「さあ、飲むんだ。
 あとは、私が少しばかり改造して、偽ジャレイラとでもしてやろう!」
 
 ■
 
 バリバリバリッ。
 
 轟雷閃の一撃が、カンテミールに直撃する。
 ついで、周囲が見えない程の、毒虫の大群。

「そうはさせない! カンテミール、シャムシエル!」

 毒虫を放った四谷 大助(しや・だいすけ)と、轟雷閃を放った緋山 政敏(ひやま・まさとし)が叫んだ。
 カンテミールは毒虫達を振り払いつつ、ドックの入口に目を向ける。
「ふん、女王の登場、か」
 苦々しげに、吐き捨てる。
 大助達にまもられるようにして、いま、アイシャとシャンバラ軍の本隊が、ドックの前に辿り着いたのであった。
 
「制圧に時間がかかり過ぎた、か。
 だが、私は既にゾディアックの前。
 王手だな! アイシャ女王……それに、ラズィーヤ」