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リアクション
第四章・機械少女の懺悔
――トロイア基地上空。
《ミネルヴァ軍! 誰か応答しろ! こちら綺雲 菜織(あやくも・なおり)だ!》
菜織は叢雲から通信を基地司令室へと飛ばす。しかし、返答がない。
「通信整備は前のままだから、繋がっているはずなのに。やはり基地で何かあったのでしょうか」
有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)が言う。そうとしか考えられない。現状で軍隊が完全沈黙しているのはまるで不気味だ。
「基地に行ってみるしかないか――、貴様そこを退け!」
菜織は眼前の障害たるスフィーダの機動を正確に捉えるためにアクセルギアを作動させ、【ビームサーベル】で切り捨てた。そしてそのまま基地の滑走路へと降り立った。
――トロイア基地内部
おそらくそこは、彼らの知るこの世界の中で最も悲惨な場所だった。
「なってこと……!」
サツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)は惨状に息を飲んだ。
多くの兵士たちが負傷及び死んでいた。正気を失った多くの兵士たちが携帯武装で暴れた結果がこれだった。壁に塗りたくられた血痕が生々しく惨劇を彩っていた。
「息のあるやつを集めろ! 出来るだけ鳳翔に回収するんだ! 梓は負傷者の手当を頼む」
湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)の命に高嶋 梓(たかしま・あずさ)が頷く。
「やっぱりRAR.は基地の人間を守護対象とみなしてなかったのか」
新風 燕馬(にいかぜ・えんま)が負傷者を見て呟く。しかし助かる見込みがない。
「……燕馬、気をしっかり持ってください。負の感情は危険です!」
燕馬がやろうとしていることをサツキが止めた。
「けどなサツキ、もう彼は自分で自分をも判断できていなんだよ」
その兵士の傷は自らで自らを撃ったモノだった。正常な判断ができなくなる最中に行った、これ以上の被害を拡大させないための行動の結果だった。
「救える奴はできるだけ救おう」
救う手段はいつも正しいものではないが。
「ロンバート大将!」
菜織が大将の部屋に入ると、二人の兵士が倒れていた。死んでいる。
ロンバートも、いや生きている。椅子に座り、息が荒い。肩を負傷している。
「ああ、君たちか――」
「どうしたんですかその怪我は! 基地の状況も!」
美幸が尋ねるとロンバートが事のあらましを伝えた。
「突然と部下が正気を失って暴れ始めてな……。私も負傷して、優秀な部下を二人失った」
菜織の目が机に置かれている拳銃に向いた。
「おそらくこの世界が崩壊している影響でしょう。大将も早く避難を。貴方が『伝承』を持つ子孫なら……!」
菜織の言葉に大将は頭を振った。
「残念だが、私の生まれはオリュンズではなく、ここより海を隔てた国で生まれた。察するに、助かるのはマシューと同じオリュンズの出身者だけだろう」
そう。この軍は別国からの派遣部隊であり、殉職の兵団だ。それこそ助けられない。助けられるはずのない存在が彼らなのだ。
「私もこの負傷で正気を保っているだけだ……。再び正気を失えば、君等を殺すかも知れ――。私たちのことは諦めろ。それが君等のためだ」
――ただ、
「マシューの事を頼む……」
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