空京

校長室

【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い

リアクション公開中!

【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い
【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い 【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い 【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い

リアクション

 ――オリュンズ市内

 それは嘆くように、黒く染まった空を見ていた。
 第三階層の庭園広場にて、自らが引き起こした結果をアセトが悔やんでいた。
「どうしよう……こんなことに成るなんて……」
 ただ、自分は自分の感情が知りたかった。壊れたハルを見た時の不安感。死への感情。死を思うと言うその意味を知りたかっただけだ。
 しかし、それを感情のないRAR.にしたのは間違いだった。
 RAR.は自動的で利己的。いや合理的だった。そうでなければ、アセトの音声を自動照合して『最終兵器』の封印を解いたりはしなかっただろう。
 だから、アセトが絶望するだろう事に何の躊躇いもなかった。アンドロイドが絶望するとも思ってもなかった。
「あ〜いました、いました。アセトさん」
 アセトを見つけて水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)が彼女へと近づいてきた。
「あなた達どうして――」
「あら? 正気を失ってはいないみたいですね。でも落ち込んでいたりしているところを見ると瘴気に中てられているのかな?」
 哂う。睡蓮。
「……」
「調べないとね。プログラムに異常があるのかも」
「私のプログラムに異常が――」
「ええ、だから調べさせてください」
「――!?」
 コンソールをアセトに繋ぐ。AirPADを使ってプログラムを直接抜き出す。彼女の基礎プログラムの羅列がディスプレイ表示される。
「凄い・・・プログラムの羅列がありえないわ……」
 しかし、全てのプログラムソースを記録していく時間はない。この世界のシステム及び物的事象はゲートをくぐったときに消失してしまう。だから情報を持ち帰るためには紙媒体に書記するしかない。
 感情プログラムコードを優先表示させる。すると、プログラムには影響しない列の部分に不可解な数式が浮かんだ。
 オイラーの等式。自然数eと円周率π、そして虚数iにより導きだされる式だった。
「これがキョウマさんが彼女に埋め込んだ基礎概念ですか」
 人間の感情と答えを導き出すための曖昧事象。それを虚数域で示していたと言うわけだ。
「こらー! アセトになにしてるの!」
 《バーストダッシュ》からの飛び蹴りが襲う。
 九頭切丸が《歴戦の防御術》で小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の蹴りを止めた。
(しかたないですわね。ここまでですか……)
 睡蓮はアセトへの接続を中断し、いつもの顔で振り向く。
「あら美羽さん。何事ですか?」
「睡蓮!? アセトになにしていたの?」
「何って、アセトさんが瘴気に中てられていないか調べていたのよ。大丈夫。アンドロイドには影響はないみたい」
「そう――よかった」
「もう美羽さん! いきなり人を蹴るものじゃないです! すみません、美羽さんがご迷惑をかけてしまって……」
 後から追いついたベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が美羽の代わりに謝った。
「えー! だってなんか怪しかったんだもん! それはそうと!」
 美羽はベアトリーチェから《浄化の札》を奪った。それをペシリとアセトの額に貼りつけた。
「万が一でもこれで大丈夫! なはずだよ!」
「あとは、戦いが終わるまで私たちがあなたを保護します。大丈夫、アセトさんがゲートを通過する方法もありますから」
「私を保護するって――この状況を引き起こしたのは私なのに……!」
 助けてもらう資格なんてない。例え偽りの世界だとしても、ここに住む者たちの平和を脅かし、封印を守ってきた者と都市のために戦った者たちの意思を踏みにじったのだから。
「それは違うぜ」
 嘆くアンドロイドに垂が声を掛ける。そして朔がそっとアセトの隣に膝をついて屈んだ。
「アセト。あなたが『最終兵器』の封印を解いてしまったのだとしても、そのことで自分を責めないでください」
「でも! この状況は――」
「『大いなるもの』が復活した今、それは同じ事です。RAR.の言うように『最終兵器』を手放したことでこの街を守ることが出来たもの紛れも無い事実だったと思います。でなければ、ここはすでにあの敵たちに襲われているはずです」
 朔が言うように、街には敵が襲ってきてはいない。無視するかのように、一体も攻撃を仕掛けては来ない。それにより、人々の避難も他世界より順調とも言える。
「後は私達『仲間』に任せてください!」
 朔の言葉にアセトは少しだけ救われる。原因が自分にあるというのに、その事を責めたりもせず、肯定し、あまつさえ救おうとしてくれる。ゲートを潜れば消失してしまう彼女を向こうの世界へと導く方法もあると言う。
 だからこそ、だからこそ――