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リアクション
先へ進むのはどっち?
ユ・ズーキ魔法団を壊滅させたまゆみ一行は、先を進んでいることのは一行に追いつくべく、移動速度を上げて進んでいた。
そして……。
「ああっ! いましたわ!」
とうとう、ことのは一行の背中を捕らえたのである!
「ちっ……まさか追いつかれるとは。途中の罠に時間を取られ過ぎだったな……」
悔しそうに舌打ちをすることのは。
もちろん罠に時間を取られていたわけではなく、予定通りこの場所に待機していたのだが。
戦闘モードなのか、動きやすいように、今まで身につけていた甲冑は脱いでいる。
「決着をつけましょう……。どちらが、この先に進むにふさわしいのか」
「……最後は剣と剣のぶつかりあいで決めるか! ふん、それもいいだろう。我らは負けない!」
ことのはとまゆみ、双方が剣を抜いた。
「行きます!」
「行くぞ!」
カンッ!
まゆみのプラスチック剣と、ことのはの細い木刀がぶつかる!
「うう……」
ここまで戦いを重ねてきたまゆみは、少し疲れているようだ。
ほぼ腕力は同じであろうことのはに押されている!
「はあっ!」
どんっ! ことのはがまゆみを突き飛ばした!
「まゆみさん!」
神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)が、転びそうになったまゆみを素早く支えた。
有栖は、まゆみにいつ何があっても対応するため、注意深く見守っていたのだった。だから、反応も早かった。
「ふう、間に合いました。お怪我はありませんね」
「あ、ありがとうございます……」
有栖はまゆみを立たせ、ささっと服を整えた。
そして、落ちていたプラスチック製の伝説の剣を拾い上げ、再びまゆみの手に持たせた。
プラスチック製のためもちろん切れ味はゼロなのだが、刃に触れないよう気をつけて、柄の部分を持って渡すあたり、有栖の細やかな気配りが感じられる。
「さ、見せ場ですよ。あと少し、頑張ってください!」
「有栖様……。だけど、相手がとっても強くて……」
まゆみは、見事に突き飛ばされたことで自信を失いかけている。
「大丈夫! ほら、周りを見て下さい」
有栖に促されて周辺を見ると、いつでも飛び出せる体勢で、まゆみの仲間たちが見守っていた。
「私もすぐ後ろで見ていますから、安心して……思いっきり戦ってきて下さい!」
「……はい!」
有栖に背中を押され、まゆみは再びことのはと向き合った。
「まだまだ……行きますっ!」
「もう一度吹っ飛ばしてくれるわ!」
ダダダダ……。双方走り寄る! そして……。
ガアンッ!
再び、まゆみとことのはの剣が激しくぶつかり合った!
「きゃあっ!」
「うわっ!」
今度は二人ともがバランスを崩し、よろけた!
「おっと!」
よろけたまゆみは、再び有栖が支えた。
「危ない!」
ことのはは、水神 樹(みなかみ・いつき)が素早く受け止めた。
「立てますか、ことのはさん」
「はい。助かりましたわ、樹様」
ことのはは、樹の手を借りて、体制を整えた。
「ここで怪我をしては、最後笑えなくなりますからね。盛り上げたい気持ちは分かりますけど、無茶はなさらないように」
先ほどまでと違い、ことのはは重たい防具を身につけていない。
動きやすいかわりに、やはり怪我をしやすいのも心配だ。
樹は、ことのはの手やひざなどに傷がないことを素早く確認した。
「大丈夫そうですね。まだ頑張れますか?」
「……はい! ここが、ことのはパーティの見せ場ですから!」
ことのはは元気に、樹に向かって微笑んだ。
「……でも、だいぶ疲れているようですね」
樹は、ことのはが肩で息をして、じわりと汗をかいていることを見逃さなかった。
「少し休んで下さい」
「で、でも……まだ対決中ですわ!」
ことのはが首を振る。
だけど樹は、そんなことのはを落ち着かせるように、優しく微笑んだ。
「こういう時こそ、仲間を頼って下さい。この場を繋いでくれる仲間がいますから。ほら」
樹が指さした方。
そこには、既にことのはの仲間役・日下部 社(くさかべ・やしろ)が、この場を繋ごうとスタンバイしているところだった。
「……分かりました。ここは、わたくし自慢の仲間にお任せしますわ!」
「ふぅ……」
疲れているのはまゆみも一緒だった。
再び有栖に受け止められ、転んで怪我をしてしまうことは避けられたものの、かなり体力を消耗しているようだった。
だが、ことのは側と違い、まゆみは勇者……主人公。代役はいないのだ。
「まゆみちゃん、疲れちゃった?」
まゆみの様子を案じて、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が駆け寄った。
「ええ……。実はちょっとだけ、疲れてしまったみたいです……」
意地を張る元気もないようで、まゆみは素直に認めた。
「それなら、詩穂の出番だよね!」
「え?」
「詩穂はプリースト役だよ! 疲れた勇者様を治療するのが役目だもん」
詩穂はぺとぺとっと、まゆみに近付いた。
「あ、あの……詩穂様? 治療するにはちょっと距離が近いのでは……?」
「だぁいじょうぶ! これが一番元気出るんだからっ」
そう言うと、詩穂はまゆみのほっぺに『アリスキッス』をした!
「……ん、まゆみちゃんのほっぺたあったかいよぉ」
「ひゃあっ……」
周囲にいた男性たちはフリーズして見守っている。
どこかで見たことがあるようなないような、そんな場面だ。
「……はい。これで元気になったね?」
「えっと……元気というか……くらくらします……」
その後、詩穂は真面目に『ヒール』などでしっかりとまゆみを回復させた。
「本物の冒険者様たちの回復方法って……その……ちょっと変わっているのですね。と、とりあえず、元気回復です! まだまだ戦えますよ!」
「ふふん。ええところで出番がまわってきよったわ!」
社は、待ちくたびれたと言わんばかりに、軽くストレッチをしながら前へ進み出た。
「ほなまゆみちゃん。俺と勝負しよか」
「望むところですわ!」
元気を取り戻したまゆみは、社の勝負に乗った!
「俺との勝負は……これや!」
社が取り出したのは……ボールとバットだ。
「それは……野球をするための道具ではありませんか?」
首をかしげるまゆみ。
「そや。今から俺と、一球きりの野球勝負をするんや!」
「え、ええっ! 私、野球なんてしたことがありませんわ」
まゆみはボールもバットも、実物は手に持ったことすらない。
「まゆみちゃんは勇者やろ? 勇者は万能や。この勝負……逃げたらあかんで!」
ぽーんっ。社はまゆみにボールを投げ渡した。
「わ、わ、わっ!」
それをどうにか受け取るまゆみ。
「一球や。まゆみちゃんが投げて、俺が打つ! 打てたら俺の勝ち、打てなければまゆみちゃんの勝ちや」
「ど、どうやらやるしかなさそうですね……」
まゆみちゃんはボールを握り、じっと見つめてつぶやいた。
「ボールさん……お願い。一度だけでいいから、まゆみにチカラをください……」
その姿は、少し離れた所から見ると、かつて日本最高峰の球団で背番号18をつけていた、伝説のピッチャーのように見えたという。
「行きますっ!」
「来いやぁ!」
「大リーグボール……7号ーーーーー!」
これは後にまゆみが語ったのだが、何故あの時「大リーグボール」という技の名前が出てきたのか、そもそもなぜ「7号」なのか、自分でも全く分からなかったが、ボールを投げるときに自然に出てきた……そうだ。
ふわんふわん。まゆみが投げたボールはゆっくりと、かろうじて社の方向には飛んでいった。
「こ、これは……遅すぎてホンマに打てへん!」
ぶんっ!
社のバットは、空を切った……。
「ま、負けや……。俺の負けや! 見事やったわ」
もともと、どんなボールが飛んできても絶対にバットを振るつもりでいた社だが、まゆみのスーパースローボールに、少しだけ野球の才能を感じたのだった。
「勇者まゆみ……まさかここまで強いとは……」
社たちが場を繋いでいる間、休憩して回復したことのはは、すっかり元気になって演技に戻った。
ことのはは神妙な面持ちで、足元に転がってきた野球ボールを拾い上げた。
「私は、人を助けなければなりません! そのことが、大きなチカラになっているのです!」
剣士ことのはは、しばらく考え込んだ……。
「人を助ける気持ち……か」
そして、顔を上げた。
「勇者まゆみよ。今回は我らの負けだ!」
「こ、ことのは……」
「我らがなぜ、勇者まゆみにかなわなかったか。それは、気持ちの強さが負けていたからかもしれない……。確かに、我らが争うより先に、助けを求める娘のことを考えるべきであった」
ことのはは、まゆみの方へ歩いてきた。もう敵意はない。
「攫われた娘を助けるのであろう。今更だが……我らも同行し、手伝わせてもらおう」
ことのはは剣をおさめると、まゆみに握手を求めた。
「……ありがとう!」
まゆみはしっかりとことのはの手を握った!
まゆみとことのは、双方のパーティメンバーが、拍手でこの和解を歓迎した。
「おそらく、村を襲って生け贄を攫っているのは、この洞窟の最深部に住む魔物と、その手先だろう。一緒に進もう」
「ええ、行きましょう!」
『ライバル剣士・ことのはと手を取り合った勇者まゆみ! いよいよ最後の敵へと挑んでいく。この先に待ち受けるのは、どんな敵なのだろうか……』
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