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リアクション
ユ・ズーキ魔法団の本気?
「助けて下さい……助けて下さい!」
戦闘を終え、休憩をしていたまゆみ達のもとへ、ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)が駆け寄ってきた。
「ど、どうなさったのですか? 見たところ、村の方のようですが、なぜこんな所へ?」
ヴェルチェは肩で息をしながら、必死に訴えた。
「私は……攫われた娘の姉です。なんとか自分で助け出そうと、こっそりと忍び込んで、妹の居場所を見つけたのですが……とても強そうなモンスターがいて、助けられないのです」
ハンカチで涙をぬぐうヴェルチェ。
「……大変! すぐにそこへ連れて行ってください! 妹さんを助けましょう」
まゆみは立ち上がり、ヴェルチェを励ますように肩に手を置いて言った。
「さあ、一緒に行きましょう」
「はい。ではご案内します」
ヴェルチェの案内で、まゆみ達は洞窟の奥へ奥へと進んでいった。
「妹さんが捕まっているのは、どのあたりですの?」
「もうじきです、もうじき……」
やがて一行は、広い空間に出た。だがそこは、行き止まりだ。
「行き止まり? あの……妹さんはどこに?」
ヴェルチェは立ち止まり、そして……にやりと笑った。
「引っかかったわね! じゃじゃーん!」
ばさっと、ヴェルチェは着ていたコートを脱ぎ捨てる!
コートの下には、パーティグッズの魔女コスチュームを着ていた。
「ユ・ズーキ魔法団の刺客、ウソツキ魔女のヴェルチェよ!」
「そ、そんな……。騙したのですか?」
呆然と立ちつくすまゆみ。
「はーっはっはっは! ヴェルチェよ、よくやった」
姿を現したのはゆずき……だけではない! まゆみ一行は周りをすっかり囲まれてしまっている!
「罠……!」
まゆみは、自分たちが騙されていたことを悟った。
「勇者まゆみよ、ここで一気に決着をつけてやる!」
周囲に緊張が走る!
「それでは、私がお相手をさせていただきましょう」
変熊 仮面(へんくま・かめん)が、薔薇の花を手に、まゆみの前に進み出た。
「な、な、な……?」
「私が挑戦するのは、あなたの精神力。すなわち心です!」
薔薇をまゆみに手渡す。
「この薔薇の貴公子、変熊仮面の魅力に勝てるかな?」
変熊はふわりとマントを広げ、岩の上に舞い降りようとした!
そのマントの下には……何も身につけていない!
まゆみも、ゆずきも、ぽかーんと口を開けて見ている。
「ふふ、私を見ているな。ならば……じっくりと見てもらおうか!」
たった一枚身につけたマントすら脱ごうとする変熊! これはまずい。絶対にまずい! いろいろとまずいっ!
「この美しき肉体に、あなたは剣を突き立てることができますか? さあ、勇気があるならどこからでもかかってきなさ……」
「こ……この変熊あぁぁぁ!」
はらりと全身が見えそうになった、その瞬間。
「ふざけるなああぁぁ!」
変熊と同じユ・ズーキ魔法団員のはずの葉月 ショウ(はづき・しょう)が、『バーストダッシュ』で変熊に飛びかかった!
ちなみにお遊び用に準備した武器・モップではなく、ライトブレードを手にしている。
「この恥知らずがああぁ!」
同じく魔法団員の本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)も、本気でロッドを振り回した!
「ちょ、ちょっと! 私たち味方でしょ、みか……ぐはっ!」
どかばきごぼぐちゃ。
砂埃がおさまった後には、先ほどまで変熊だったはずの物体が、ごろんと地面に転がっていた。
「薔薇の貴公子・変熊仮面……美しきあなたとは、また会いましょう……ぐふっ」
「どうも、ウチのが失礼しました」
ショウと涼介は、ぺこりとまゆみ一行に頭を下げた。
「さて……」
二人の表情が変わる。ここからはいよいよシリアスな場面だ!
「改めて……この魔法剣士ショウがお相手するぜ!」
まず前に進み出たのはショウ。
変熊を切り刻んだ剣ではなく、とがった所のない、軽いモップに持ち替えている。
「受けて立ちますわ!」
まゆみは剣をかまえた。
「……いくぜ!」
カンカン、カンッ、カキン!
モップの柄とプラスチックの剣がぶつかり合う音が響く!
「お? けっこう上手いじゃないか……」
ショウは、まゆみが意外と自分の動きについてきていることに気がつき、感心した。
ここまでの道中、いくら『ごっこ』とはいえ、いくつもの苦難を乗り越えてきたまゆみは、若干ではあるが戦闘能力がアップしているようだ。
「なかなか……楽しませてくれるじゃないか!」
だが、さすがに体力が違う。まゆみが息切れしてきたことに気付くと、ショウは潮時と判断して後方に飛び退いた。
「へへっ。手こずらせてくれるもんだから、俺の魔力が尽きちまったぜ。あとは頼むわ」
そう言うと、今度は涼介に舞台を譲った。
「ふふ。今度はこの『氷結の涼介』が相手だ」
黒いローブを引きずり、涼介がまゆみの前に進み出た。
「か、かかってきなさいっ!」
肩で息をしながら、まゆみは涼介に向かって剣をかまえた。
「あわてるな。私は、あなたが勇者にふさわしい『運』を持っているかどうか確かめたいんだ」
「運?」
涼介は、6面のサイコロを2個、懐から取り出した。
「ルールは簡単だ。サイコロを2個振って、出た目の合計が大きい方が勝ち。あなたが勝てば、私は引き下がろう。私が勝ったら、この洞窟出入り口まで戻ってもらう……いわゆる『ふりだしにもどる』だ」
「……わ、分かりました。受けて立ちましょう。私も勇者。きっと運が備わっているはず!」
まゆみは剣をおさめ、サイコロ勝負を了承した。
「では、振ってみろ」
涼介から手渡されたサイコロを、まゆみはじっと見つめた。
「お、お願いします……サイコロの神様! ええいっ!」
ころん。
1つ目のサイコロの出目は「3」、2つ目のサイコロの出目は「2」。合計は「5」だ。
「ああ、い、イマイチかも……」
思ったより大きな数字が出せず、まゆみは青ざめた。
「ふふふふふふ。これはふりだしに戻ってもらうことになるかなぁ。次は私の番だ」
涼介はサイコロを放り投げた!
「これが、これが本当の……ヒキの強さってものだああぁぁ!」
ころん。
1つ目のサイコロの出目は「1」、2つ目のサイコロの出目も「1」。見事なピンゾロだ……。
「……」
「……」
「……あのぉ、5対2ですから、私の勝ち、ってことでいいですわよね?」
まゆみが一応、遠慮がちに確認した。
「ど、どぞ。お通りください……」
涼介は、そーーーっと後方へ引き下がったのだった。
「そ、そういえば……。そうこうしている間に、魔法使いゆずきの姿が見えませんわね……」
まゆみがきょろきょろと周辺を見回した。確かに、ゆずきの姿がない。
「あら、あの通路……?」
行き止まりかと思っていたのだが、よく見ると小さな脇道があった。
「怪しい……行ってみましょう!」
まゆみは、その脇道の方へ歩を進めた。
一歩、脇道に足を踏み入れたとたん、まゆみは異変に気がついた。
「さ、寒い! それに……この道だけつららだらけ……」
その場所は今までいた場所よりも明らかに寒く、あちこちにつららや氷のかたまりができていた。
な……なの……どこ……。
「な、何か……何か聞こえますわ……」
遠くから聞こえてきた歌声は、やがて歌詞の内容を聞き取れるくらい、はっきりと聞こえてきた。
きぃ……きぃ。甲高い、ヴァイオリンのような音も聞こえる。
「どこ……どこ……なの……私の彼、彼がいないの……あ、あああああああ……そこにい・た・の・ね」
がばっ!
声と同時に、まゆみの目の前に島村 幸(しまむら・さち)が現れた!
「いやああぁぁぁぁん!」
半泣きで後ろに飛び退くまゆみ!
「なるほど、こういうときは『いやあぁぁぁん』と言って涙目になるのがカワイイ仕草なのですね」
どんな仕草がかわいいものなのか……幸はまゆみの動きを逐一メモっている。
「姉上、メモよりもここは演技の続きを!」
ヴァイオリンを手に、効果音を出していたのは藍澤 黎(あいざわ・れい)。今回は裏方に徹するつもりなのか、黒子の格好をしている。
「ふふふ。では、萌え仕草の実験のため……ではなく、ユ・ズーキ魔法団のため、ここで勝負してもらいます!」
「な、なんですって……! それなら私だって……あ、あれ? あれあれ? う、動かない!」
まゆみの足は、いつのまにか地面に凍り付いてしまっている!
「姉上、うまくいったようだ!」
裏方の黒子と思いきや、この氷は黎の仕業。
あらかじめ地面に水をまいておき、まゆみが通りがかったタイミングで、弱い氷術を放ったのだ。
「さあ、お楽しみはこれからですよ!」
戦闘開始! 黎のヴァイオリンが、戦闘用のテンポが速いBGMを奏でる。雰囲気は最高だ!
「これでもくらってください!」
ぴりぴり! 幸から、弱い雷術が飛ぶ! 出力は、静電気程度にセーブされている。
「ひゃん、いたっ! ぴ、ぴりぴりしますぅ……」
まゆみは避けることができず、体にぴりっとした刺激を感じた。髪の毛が跳ね上がってしまい、すぐに手ぐしでとかす。
「なるほど。語尾に小さな「ぅ」をつけることが、萌え言葉の基本なのですね!」
幸はメモ帳にペンを走らせた。
「あ、姉上! 戦闘を続けてください」
「今、戦闘よりも大切なことをしているのです! 攻撃を受けたら、回復前に髪の毛を……と」
「あの……姉上……」
「どうしたんですか、黎! 邪魔をしないで……」
「姉上、あれ」
黎が指さした方向。まゆみは、仲間に弱い火術で氷を溶かしてもらい、すっかり動けるようになっていた。
「あ……しまった」
「今度は、私の攻撃ですっ!」
まゆみが既に剣をかまえている。
「姉上! ここは撤退でよいのでは?」
「そうですね。既に充分なデータがとれました。それでは、我らはここでお別れです!」
黎と幸は、周辺に落ちているゴミを拾い、さっと荷物をまとめ、走り去った!
「……ちょっとピンチでしたわ」
まゆみは、さっきまで凍り付いていた足をもう一度確かめ、ぴょんと一度跳ねてみせた。
「ああ、最後の罠まで……」
いつからそこにいたのか、ゆずきが呆然と立ちつくしていた。
「全員倒されてしまった……我がユ・ズーキ魔法団はおしまいだ!」
ゆずきは、頭を抱えてがっくりと地面に崩れ落ちた。
「もう文句は言わせませんわ。これ以上、邪魔をしないでください!」
「仲間が全員やられたぁぁ! ひえええ、お助け〜〜〜!」
ゆずきは逃げ出した!
『ユ・ズーキ魔法団を壊滅させた勇者まゆみ! いよいよ洞窟の最深部へ進む。どうなるんだ、勇者まゆみ!』
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