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ラスボスはメイドさん!?

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ラスボスはメイドさん!?

リアクション


ラストバトルは突然に
「これが、最後の扉……」
 まゆみ一行の目の前には、巨大な扉が立ちふさがっていた。
 もちろん、空京市がなるべく手を加えないように残していた天然洞窟に、このような人工物があるはずがなく、これは大道具班が前日に設置した、発泡スチロール製のニセモノである。
「ここでぴな玉をかざせばいいのね!」
 まゆみは、ぴな玉を扉の前で高くかかげた!
 ずずずず……。最後の扉が開いていく……。
 扉の先にいたものは……。

「ヒャッハー! ホントに来たぜ、ここまでよぉ」
「ゆ、勇者様ーーー!」
 攫われていたソアに、鮪がナイフを突きつけて笑っていた。
「娘さんを離しなさい!」
「オムライスのレシピは持って来たのかなぁ〜?」
「あ、あれを地球の秋葉原店に取りに戻るには時間がなくて……」
 正直、まゆみは交換条件のことをすっかり忘れていた。勇者が助けにさえ向かえば何とかなるものだと思っていたようだ。
「……ってことは、持ってきてねぇんだな! こりゃ許せないなぁ! ……やっちまってください、ラスボス様!」

「……ふはははは。では、私が相手をしよう。そう、私がラスボスだ!」
 自分で自分のことをラスボスって言っちゃったのはウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)
 待ち時間が長かったためか、少々眠そうだ。
「さあ、私と勝負し……ろ」
 ぞろぞろぞろ。まゆみのパーティの人数が予想以上に多いことを見たウィングは、作戦を変更した。
「し、真の強さとは、剣ではなく知である! 私と知力勝負をするのだ!」
「ち、知力勝負……ですか?」
 まゆみは、今まさに剣を抜こうとしていたのだが、肩すかしを食らった格好だ。
「今から出す難問クイズに答えてみせろ。答えられればおまえの勝ちだ!」
「な、なんだか展開が強引ですけど……とにかくクイズですね。分かりました」
 まゆみはクイズ対決を受けることにした。
「問題! サービスでメイド問題だ。メイドの本場はイギリス。ではメイドの最盛期、1837年〜1901年の間のイギリスの女王の名前は何というか?」
「へ……? い、いきなりまともなクイズですわね……」
 まさか本当の難問が出てくると思っていなかっただけに、まゆみは戸惑っている!
「ふふふ……さあ、答えてみせろ!」
「ええっと、ええっとええっと……地球の女王様の名前なんて、ヴィクトリア様かアントワネット様しか知りませんわ……」
「ふふん。さあ、どっちにする?」
 まゆみは目を閉じて考えた。
「アントワネット様は、確かアニメで……ベルサイユが舞台でしたわよね。問題の女王様はイギリスの方ですから、アントワネット様はありえないはず。……そうなると、もうヴィクトリア様と答えるしかありませんわ」
「……ファイナル回答?」
「他に知りませんもの。ファイナル回答、ですわ」
 しぃん……。しばしにらみあうウィングとまゆみ。そして。
「……正解!」
 ぱぁん! クラッカーの音が鳴り響く!
「やりましたわ! 私、とうとうラスボスを倒しました!」
 飛び上がって喜ぶまゆみ。
「さあ、きっとこの先に捕まっていた娘さんが……」

「ヒヒヒ、そうはいかないぞ!」
 どこからともなく声が響いてくる。
 まゆみがきょろきょろするが、怪しい姿は見つからない。
「ここだ!」
 ぱっ!
 まゆみの目の前に突然セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)が現れた!
「きゃ……だ、誰なの?」
「ヒヒヒ……ワシはメイド……じゃった。主人に裏切られ、ダークサイドに墜ちた、元メイドじゃ!」
「そ、そんな! それじゃああなたもメイド……」
 まゆみは、剣を抜くのをためらった。
「甘い! そぅれ、ご奉仕の時間じゃ!」
 ぶんっ! ダークメイド・セオボルトがハンマーを振り回す!
「きゃあっ!」
 まゆみは思わず後方へ逃げた!
「逃げてるだけでは勝てんぞ!」
 ぶんぶんっ! さらにハンマーを回しながらダークメイドが迫ってくる!
「メイド同志ですけど……戦わなくてはいけませんのね。ご主人様に裏切られたその気持ち、私には分かります。だから! 私があなたを倒します!」
 心を決めたまゆみは遂に剣を抜いた!
「ヒヒヒ、待っていたぞ」
「行きます!」
 まゆみが斬りかかってくるのを見て、セオボルトはにやりと笑った。
 もともと真摯なセオボルトは、まゆみを喜ばせるために演技しているのだ。まゆみが夢中になっていることに、内心喜んでいた。
「たあーーーーっ! ぴな・スプラーーーーッシュ!」
 今思い付いた必殺技の名前を叫んで、まゆみが剣を振り下ろした!
「ギャアアァァァ!」
 セオボルトは肩をおさえ、ふらふらと岩壁にもたれかかった。
「ヒヒ……強かった。強かったぞ。おまえのように心の強いメイドとやりあえて……目が覚めたぞ」
「ダークメイドさん……」
「見事じゃ。ワシの負けじゃ。行くがよい」
 そう言うとセオボルトは、光学迷彩ですーっと姿を消した。
「ああ、ダークメイドさん!」
 まゆみが駆け寄った頃には、もうすっかり姿が見えなくなってしまっていた。
「あなたのためにも、素晴らしいメイドになります!」
 世界観を通すならここは勇者と言うべきだったのだが、気にする者は誰一人いなかった。
 まゆみは、ラスボス・ダークメイドのセオボルトを見事撃破した!
「やっと……やっと娘さんを救ってあげられますわ! 今行きますよ!」
 まゆみが、ソアのもとへ走り出した時!

「待て!」
 ピカピカッ! まるで稲光のように、辺りが光り輝いた。
「われわれを倒さぬかぎり冒険は終わらんでござる」
 まゆみの前に現れたのは、椿 薫(つばき・かおる)武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)鈴木 周(すずき・しゅう)の三人だ!
 ちなみに、少し離れた岩陰に御堂 緋音(みどう・あかね)が隠れていて、そこから光や音のエフェクトを担当していた。
「あ、あなたたちは……?」
「我々でござるか?」
「ふっ。我々は……我々こそが!」
「真のラスボスだぜ!」
 スムーズな台詞回し。かなりの練習量だと思われる。
「何てこと……。ラスボスは今、何人か倒したというのに!」
「ラスボスの後に真のラスボスが出てくるのは、お約束だろ?」
 周が、ぶんぶんと腕を回しながらにやりと笑った。
「俺の名は暗黒騎士シュウ! この光条兵器のサビにしてくれるわ!」
 ばさあっ! 羽織っていたコートを脱ぎ捨てると、真っ黒な鎧が現れた!
 フ〜〜〜フフフ〜〜〜♪
 緋音がキーボードでラスボスのテーマを演奏し始めた。雰囲気が高まる。
「へへっ。行くぜ!」
「ちょっと、待っ……」
 まゆみの言葉を最後まで聞かず、暗黒騎士シュウが飛びかかってきた!
「とりゃああああ!」
 光条兵器がまゆみに襲いかかる!
「きゃああああ!」
 ピシッ!
 切れたのは、まゆみの服の一部。スカートの丈が少々短くなった。
「お、いい眺めっ! ……じゃねぇ、貴様の力はそんなものか?」
 シュウは、再び飛びかかってきた!
「さすがにこれ以上切ってはいけません!」
 シールドを持って、ユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)がまゆみとシュウの間に飛び込んだ!
 カンッ!
 シュウの刃は、ユウのシールドに弾かれた!
「ちっ。もう少し短くしてもい……じゃなくて、邪魔をするんじゃない!」
 ユウは再びシールドを持ち直した。
「私は勇者まゆみさんの仲間です! 大切な仲間を守るのは騎士の勤め。絶対にここをどきません!」
「まじめかよっ!」
 これ以上まゆみのスカートを短くすることはできな……ではなく、攻撃を加えることができないと悟ったシュウは、素早く後方へ飛び退いた。
「まゆみさん、お怪我はありませんか?」
 ユウは地面にへたり込んでいたまゆみの手を引き、立ち上がらせた。
「む。少し膝をすりむいてしまったようですね」
 スカートの丈が短くなったため、露出した膝がわずかに傷ついてしまっている。
「大変!」
 狭山 珠樹(さやま・たまき)が、とたとたと走ってきて、傷の様子を観察した。
「まゆみお姉様、すぐに治しますからお待ち下さいませ! はい、いたいのいたいのとんでけ〜ですわ!」
 ハンカチをあてておまじない……をしているようで、実はちゃんとヒールをかけている珠樹だった。
「さあ、まゆみさん。傷が治ったら、頑張って行ってらっしゃい!」
 あくまで主役のまゆみを立てる……。ユウはその信念を曲げず、まゆみが元気に立ち上がると、一歩後ろに下がった。

「そっちだけで楽しくキャッキャウフフしてるんじゃないっ!」
 真のラスボスメンバー・牙竜がしびれを切らして叫んだ!
「はっはっはっは! 冥府魔導悪鬼羅刹の冥土漢! 真の奉仕のために参上!」
「漢字が多くて読めませんわ!」
「辞書を引け!」
 今度は牙竜が、まゆみの前に立ちふさがった!
「おまえらのことは、全てお見通しだ!」
 ぴかーーーん! 緋音が絶妙のタイミングで稲妻を発生させた!
 牙竜はいきなり飛び上がり、驚くまゆみの目の前に着地した!
「きゃ! な、何を……!」
「言っただろう、お見通しなのさ!」
 牙竜は『博識』を使い、まゆみをチェックした!
「ふははははは……見えた! 見えたぞ、勇者まゆみ!」
 牙竜はびしっとまゆみを指さして言った。
「おまえは……おまえは……腰回りの冷え性だーーーー!」
「い、いやああぁぁぁぁぁ!」
 ぱちーーーん!
 体のヒミツ(腰回りの冷え性)をバラされたまゆみは、牙竜に思いっきり平手ビンタを喰らわした!
「ぐはああぁぁぁ!」
 演技ではなく、素で吹っ飛ぶ牙竜。
「何で言うんですか、ばかーーーーー!」
 まゆみは耳まで真っ赤だ。

「何と……暗黒騎士シュウと冥土漢がやられるとは!」
 薫は、わなわなと拳を振るわせた。
「かくなるうえは、合体でござる!」
 周、牙竜、そして薫が腕を組み合わせ、合体した!
「友情の三位一体! 究極最強冥土騎馬! 威風堂々!」
 乗り手のいない騎馬隊……という表現が最も近いだろうか。腕を組み合わせた三人は、合体でラスボス最終携帯に変化したのだった。
「なんだか……てっぺんがいないとさみしいですわね……」
 敵とはいえ、乗り手がいない騎馬隊状態に、まゆみはちょっとさみしさを感じた。
「あっ! そうですわ!」
 ぽんっ! と手を叩くまゆみ。
「そこの、効果音のお嬢様! あなたが上に乗ってしまえばいいんですわ」
 まゆみが指したのは、岩陰でBGMを担当していた緋音だ。
「え? えっと私は……その、違う……」
「いいからいいから、こちらへ!」
 緋音の腕を無理矢理引いて、騎馬隊三人のもとへ引っ張っていった。
「はい、乗せて」
 言われるがまま、緋音を上に乗せる三人のラスボス。
「ほら、かなりラスボスっぽくなりましたわ!」
 三人合体の上に緋音が乗っかり、結局ラスボスはまゆみのアイデアで四人合体になったのだった。
「わ、私まで……。音担当なのに……」
 緋音は半泣きだが、既に騎馬隊のてっぺんにしっかりとおさまっている。
「こっ……これで最強でござる! 我らラスボス最終携帯!」
 もうこれでいいやと、薫は演技を続けることにした。
「では、戦いますわよ!」
 まゆみも身構える!
「行きます!」
「ニンニンニンニン!」
「うわあああぁぁぁん」
 まゆみと騎馬隊……ではなくラスボス最終携帯が激突する!
 どかーーーーん。ばらばら。
 ラスボス最終携帯はバラけ、折り重なって倒れていた……。
「足元がお留守でしたわよ!」
 四人合体で騎馬隊状態になったラスボス最終携帯は、高く大きくなったぶんバランスが悪くなり、また、下の紳士三人は、緋音を落とすまいと上にばかり気を遣った結果、足元に注意がいかなくなってしまったのだ。
 まゆみは、数名の仲間とともに足払いをしただけだった。
「ラスボスさんたち、女性に優しくて素敵でしたわ」
 まゆみはにっこりと微笑んだ。
「ま、負けたでござる……」
「勇者まゆみこそ……真のメイドだ……」
「だが、忘れるな……。戦闘で破れた服のチラリズムがある限り、また光条兵器の暗黒面に堕ちる者は現れる……ぐふっ」
「うわあぁぁん……だからイヤだって言ったのにぃ」

『遂に、遂に勇者まゆみはラスボスに打ち勝ったのである! だが……まだ戦いは終わりではない。なぜなら……彼女はまだ、真のラスボスを倒していないのである』

「そう、俺が……ラスボスだ!」

 ラスボスを名乗り出たのは、ずっとまゆみ一行に同行してナレーションをつとめてきた佑也だ。
「へ? ナレーションさん?」
「ナレーションじゃない。ラスボスだ!」
 佑也は『ナレーション係』という腕章を脱ぎ捨て、真の姿を現した!
 ただし! ずっとナレーション担当だったため、ひとつも武器を持ち込んでいない!
「ラスボスさん、丸腰ですけど……」
「お、俺にはこれがある!」
 ナレーション兼ラスボスの佑也は、ここまでの実況中継に使った3冊のノートを振り回して叫んだ。
「……」
 まゆみは、静かに言った。
「いくらラスボスさんでも、丸腰の方とは戦いません。私は勇者ですもの!」
「う……」
 女性に弱い佑也。まゆみに笑顔でそう言われては、引き下がるしかなかった。
「ラ、ラスボスはまた今度だ! ナレーションに戻る!」

『こうして、真の真のラスボスを倒したまゆみは、遂に感動のエンディングを……』

 慌てて腕章を広い、ふらふらしながらナレーションに戻った佑也。
 焦っていたため、どんっと何か黒いものにぶつかった。
「あ、すみませ……」
 ひらり。お札のようなものがはがれた。

「私の封印を解いてくれて感謝する。お礼に地獄へ送ってやろう」

 ばさりと黒い布が落ちると、如月 玲奈(きさらぎ・れいな)が姿を現した!
「あ、あなたは?」
「私が……私こそが、ここに封印されていたラスボスだっ!」
 胸を張って叫ぶ玲奈。
「ラ、ラスボス多すぎですわ……」
 がっくりと肩を落とすまゆみ。
「あ、大丈夫。私でホントに最後だから」
 玲奈はまず、周囲に氷術を放った!
「……ああっ!」
 まゆみと玲奈の周囲に、氷の仕切り……壁が出来上がった!
「これで仲間の援助は受けられない。一対一の勝負だぞ!」
 玲奈はロッドをかまえた。
「……これでホントにホントに最後ですわよね? ……分かりました、一対一の勝負、受けて立ちます!」
 まゆみは、使いすぎて既にぼろぼろになっている剣を握りしめ、かまえた。
「たあーーーーっ」
「やあーーーーっ」
 ざくっ!
 ……今の効果音は、玲奈が声で発したもので、決してどちらかが本当に斬られたわけではない。
「くっ……見事なり、勇者まゆみ!」
 真ラスボス・玲奈の姿が徐々に消えていく……。
「この私が……やられる……と……は……」
 玲奈の姿は消え失せた。もちろん光学迷彩である。
「あら、これは……」
 玲奈が消えた後に、何か落ちている。
「まあ、かわいい!」
 それは、とってもかわいいフリルカチューシャだ。
「これは……もしや、伝説のメイドアイテムでは!?」
 まゆみは、フリルカチューシャを拾い上げ、まじまじと見つめた。
「戦利品……ということで、いただいてもよろしいのですね?」
 まゆみは、フリルカチューシャを装備した。実によく似合う。

「ヒャッハー! ラスボス様が全員負けちまったぜぇ。撤退だーーー!」
 鮪は、ゴブリン軍団とともに元気に撤退した。
「勇者様……」
 攫われていた村娘・ソアが、涙をぬぐいながらまゆみに頭を下げた。
「ありがとうございました……本当にありがとうございました!」
 まゆみは、そんなソアの頭をなでて、にっこりと笑った。
「無事でよかったですわ。村を襲っていた悪者は退治できましたし、あなたも無事。ついでに伝説のメイドアイテムも見つかって、本当に素晴らしい冒険でしたわ!」

 勇者まゆみの初の冒険は、見事成功で幕を閉じたのだった……。