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リアクション
18:00
ナナ・ノルデン(なな・のるでん)とズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)はパーティーから持ち出してきたクレープを皆に振る舞っていた。
自作のスポンジをクレープ生地に乗せ、クリームやカスタードをイチゴやバナナなどの果物と巻くものだ。
「おいしいですわあ。そうだアーデルハイト様、アイスクリームまだございましたわね」
「うむ、クレープに入れると良いぞ。そこの冷凍庫から持って行くが良い。こんなこともあろうかと、いろいろ用意しておるぞ」
冷凍庫には業務用特大パックのアイスが、チョコレート・ストロベリー・バニラなど一通り揃っていた。それを気前よく持っていけとアーデルハイトは仰る。
これを彼女らだけで平らげるつもりだったのか、と一瞬疑われたが、彼女らとて人の上に立つ者であり、みんなが楽しめれば、それがいちばんいいのである。
皆次から次とうまいものを持ってくるので、ご機嫌ともいえた。
中継モニターから人気が途絶えたときが、みんなのおやつタイムである。クレープだけでなく、下のショップからお汁粉や豚汁、ホットドリンクなど思い思いに貰ってきては、鍋をかこみ、肉まんを頬張る学校の垣根を越えた団欒の姿がある。
その間にナナはマイクを取り出して、実況の準備まで整えていた。
ズィーベンは一人外に出て、中継用の撮影機材を担いでフィールドを移動していた。
クレープを齧りながら、しみじみと呟く。
「泣き落としてよかったあ、スポンジもまともな味だ。ナナがリキュール代わりに老酒入れようとしたときはどうしようかと思ったよお」
空飛ぶ箒で被写体を探しながら、体が風を切って体温が奪われていくことを嘆いた。
「しまった屋外でアイスはやめとけばよかったあ…ちょっと寒い…」
(それにしても、ボク狙われたりしないよね? 光学迷彩持ちのナナが来ればよかったんじゃ…)
しかしナナは暖かい所から動く意志はないのだから、多分狙われても運命と諦めるしかない。
狼を斥候にし、虎に乗った白組のファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)は、茅野 菫(ちの・すみれ)、パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)が、相馬 小次郎(そうま・こじろう)とともに、彼の馬に乗って白組へ攻勢をかけようとしていたところに遭遇した。
菫は馬上から氷の矢をつがえた小弓をかまえ、ファタは狼を4匹引き連れ、敵を見定めた虎にまたがり、どちらが獲物ともつかぬ緊迫した空気が張りつめた。
パビェーダは防御用に魔力を高め、どんな術でも繰り出せるように準備をし、小次郎はつねに矢を射るのに最適な位置へと移動しつづけている。
この雪合戦会場稀に見る高速戦闘の、火蓋が切って落とされた。
『すごい…今まさに獣と侍の対決が行われております! 狩るか狩られるか、最後に勝つのはどちらでしょうか!?』
ズィーベンは感心していた。これだけ迫力のある戦闘はめったに拝めないように思う。
野生の蹂躙で狼から虎へ繋がる波状攻撃を火術や雷術で跳ね返し、氷の矢が飛び交う、適者生存で馬を驚かせても、小次郎の馬術はそれをなだめて足並みを乱さない。
今の所、決定的な格差はなく、勝敗の行方は杳として知れなかった。
「んふ、なかなか楽しませてくれそうじゃのう」
「あんた! 邪魔なんだよ!」
「おうおう、口の悪いお嬢さんじゃな、かわいらしいのう」
菫が伝法な口を利くが、ファタは鼻でわらって粉をかけた。すかさず飛んできた矢を氷術の盾で防ぎ、また狼をけしかける。
『変幻自在の雪の馬場にて、このように高度な流鏑馬を見ることができる喜び、かつて神事として日本で行われていた芸術を、我々は眼にしています!』
ナナが、夢中でマイクに叫んでいる、実は興奮であんまり自分の言葉を推敲していないが、こういうのはノリでやったほうが勝ちなのだ。
攻撃こそ最大の防御、と突っ込んでくるファタ達と、それぞれ役割を分担している菫達の勝負は中々つかなかったが、とうとう均衡を崩す一瞬が訪れた。
「しまった! 馬が!」
三人を乗せた小次郎の馬に次第に疲労が重なり、とうとう指示についていけなくなった。動きが鈍り、菫とパビェーダの攻守のタイミングが狂う。
「きゃあああっ!」
飛び掛った狼にパビェーダが雪の上に突き落とされ、馬は立ち往生して小次郎たちもろとも倒れこんだ。
柔らかな雪の上だったことが幸いして疲労以外はだれにも怪我はなかったが、気づいたときには全員が狼や虎に囲まれて身動きができなくなっていた。
「くそっ、降参するしかないじゃん」
「残念だわ…」
「…泡沫と 心果てるか いくさ場の 花のごとしか 雪のごとしか…無念だ」
『おおっと、一瞬の油断で勝負がついてしまいました、しかしこれほどの芸術的な名勝負は他にあるでしょうか!』
デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)、ルー・ラウファーダ(るー・らうふぁーだ)、クー・キューカー(くー・きゅーかー)の三人は自陣を出てフィールドを敵陣に向かって進んでいた。
「さあって、この辺なら届くかな」
「るーもいく! おもいっきりゆきだまなげる☆!」
「おう、本番だぞ」
「キャーッ!」
クーはくるくると丸まり、ルーがそれをしっかりと抱える。その二人をデゼルがまた抱え、ちらちらと見える敵陣の雪山を見据えて投擲体制に入る。
「ルー、クーをあの雪山へ投げんだぞ、クーはあそこについたら、火術であの雪山を溶かせ。それからルーは、思いっきり暴れてよし! でも味方には雪玉ぶつけんじゃねえぞ、白軍の人たちは、みんな顔を見てるだろ? 味方はお手伝いして、敵は生贄(=遊び相手)だ」
「るーちゃん、いけにえうれしい!」
遊び相手がいるということで、ルーはさらにやる気を出した。
クーのドラゴンアーツと、なりはああでも、間違いなくケルト神話の太陽神であるルーから受け継いだヒロイックアサルトとで、この目論見は成功するはずだ。
左手は添えるだけ、全力でデゼルは二人をブン投げた。名づけて『人外ICBM』だ。
二人は笑いながら思ったより遠くへ飛んでいき、またルーはその放物線の頂上で、文字通り神の手による投擲を行った。
「くー がんばる! いってらっしゃーい」
クーは、まっすぐに雪山のてっぺんへと飛んでいく。
「おー、いったいったー!」
とりあえず見届けて、自陣へ振り返ると、雪山の一部が火で包まれているのが見えた。手薄になった隙を突かれたのだろう。
「くそっ! どこのどいつだ! メンドクセェ!」
自分も敵陣の雪山を火葬しようとしていたくせに、デゼルは本気で舌打ちをした。
シリル・クレイド(しりる・くれいど)はひたすら雪山の影で、ミサイルポッドにつめる雪玉を制作していた。
そこにクーが放り込まれてきたのだ。ころころと雪山を転がり落ちるちっちゃなドラゴンは、ちょっとだけ目を回してよたよたしていた。
「大丈夫? 追われて逃げてきたのかな。あたいはシリル、キミのお名前は? ああっそっちに倒れちゃダメ!」
「くー…」
「クーっていうのかあ、可愛いね」
まさか敵からの刺客とは思わない。たまたまとはいえ名前を当てたシリルに、クーはなついた。
パーティーに飽きてこっちに来たものの、相方のアピス・グレイス(あぴす・ぐれいす)はずっとパーティーに行ったきりだ。ここで道連れを作るのも悪くない。
「クー、あたいといっしょに敵をやっつけるんだ!」
「キャー!」
クーは、デゼルに雪山を火術で溶かして来いといわれたことをすっかり忘れて、雪玉で遊んだり、シリルを手伝って敵に雪玉を投げたりしていた。
シリルのミサイルポッドから、ものすごい勢いで雪玉が発射されるのを見て、クーは興奮気味だ。6連ミサイルポッドが4基、インパクトは十分だ。
「キャッキャッ!」
一緒になって尻尾で雪玉を投げまくる。ただしその相手は、敵=自分の味方のはずである。
「へへっ、あたいのミサイルすごいでしょー!」
何も知らないシリルはのんびりしたものだ。
「目が覚めましたか?」
「は、はい…明さん? ここは?」
「救護室です。レーゼマンさん、雷にあたっちゃって、気を失ってしまったんです」
「…みっともない所をお見せしてしまいましたね」
そこでようやく、自分が明に膝枕されていることに気がついたのだ。
「!! すみません」
がばっと身を起こして、自分の首に白いマフラーがかかっていることにも気づく。
「がんばったレーゼマンさんに、私からのプレゼントです」
重ねられる状況に、レーゼマンはこの上なく真っ赤になった。
「あ、ありがとうございます…」
そうして微笑み合って、いいムードかと思いきや、そのまま二人は仲良く中継モニターを見始めた。
ここまでくると、もはやヘタレにすら謝罪すべきだ。見守っていたルカルカも真一郎もがっくりと膝をついた。
だから! なんで! そこで! 告白しないんだ!?
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