リアクション
24:00
再びフィールドの中央に陣太鼓が置かれている。フィールドに出ていた実況たちがそこに集まって、終了の時刻を今か今かと待っている。
「……始めは俺が叩いたが……終わりはお前がやってみるか……?」
「ええ? いやあボクが叩いても、きっとそんなに音が出ませんよ、クルードさんにお願いします」
「……わかった……耳をふさいで、腰を落としておけよ……」
きっとこの場にシーラ・カンスがいれば、自慢のパイルバンカーでどつきたがっただろう。
『本日は良天候に恵まれまして、絶好の雪合戦日和でした。あらゆる人が集いました、己の知恵と力にかけて、ただ相手を叩きのめし、また敬い、時には友として肩を並べたことでしょう。長い9時間でしたが、この9時間をどう受け止めるか、それを最終的に決定する瞬間が近づいております』
『まもなく終了時間です、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1…』
「……むぅん!!」
―再びフィールドに轟音が響き、合戦場の全ての人物に長い戦いの終了を継げた。
『えーただいま終了いたしました。 まだ対戦しておられる方は速やかに行動を中止し、お仲間をお誘いあわせの上、中央の観客席までお集まりください』
終わった、という空気が流れ、続々とフィールドのあちこちから、雪合戦参加者が集まってきた。
やがて観客席の周りに参加者全員が集い、戦闘不能や降参がもうだれもいないことを確認して、救護班である唯乃にマイクが渡される。
『ええと救護室の四方天 唯乃さん、記録されている紅白の敗者カウントはどうなっていますか?』
『は、はい! 統計ではこのようになっております!
赤組敗者
赤羽 美央
霧雨 透乃
茅野 菫
パビェーダ・フィヴラーリ
相馬 小次郎
椎堂 紗月
椎堂 アヤメ
どりーむ・ほしの
ふぇいと・てすたろっさ
以上 9名
白組敗者
ジガン・シールダーズ
五月葉 終夏
ブランカ・エレミール
レーゼマン・グリーンフィール
鷹村 真一郎
デゼル・レイナード
クロセル・ラインツァート
以上 7名
勝利は、ダウンされた方の少なかった白組、ということになります!』
観客席と、雪合戦参加者の半分が沸きかえった。
それから、もう夜も遅く立派なものは用意できないが、皆が持ち寄った食料や差し入れで、軽い立食パーティーが始まった。
「あれ、このケーキとか、シチューとか、なんか本格的っぽいんだけど、誰か作ったのか?」
「いや、そんな設備はないだろ? パーティー会場から持ってくるにしても無理があるしな」
それはおそらく笑転ジャーの差し入れだろう、彼らもどこかで見ていて、ねぎらいを形に表したに違いないのだ。
団欒のなかで、主催者達がマイクをとる。
『えー、皆の物、今日は大変楽しませてもらったぞ。勝利したのは白じゃが、赤の奮闘も褒め称えたいものじゃ』
『私からも皆様に感謝を、今日このようなめったにない合戦の模様を見せていただき、ありがとうございます』
『では勝者は名誉を胸につけ、敗者もまた地にまみれてなお砕けぬ誇りを胸につけよ、観戦者は、戦士達に惜しみない拍手とねぎらいを』
『私どもからは、この光景をあなた方にプレゼントいたします』
敗北した赤組をもたたえるとアーデルハイトが宣言したが、皆それぞれ力を尽くしたことには変わりなく、誰からも文句は出なかった。
むしろ赤白関係なくお互いを称えあうことができるというものだ。
さっきまで敵同士だったものが、まったく同じものを見て、多分同じようなことを思う、それはとても重要なことのように思うのだ。
『それでは、皆しかと目に焼き付けるのじゃ!』
アーデルハイトが魔道書を開き、稀なる奇跡がほとばしる。
フィールドに星が降った。さやかな音をたて、光の粒が降り積もる。
氷の粒がすべて星に変わるような、ダイヤモンドのきらめきが溢れ、遠くに見える内海の光が宝石のように輝く。
「わぁ…きれいですね…」
星の海の中から花火が上がり、続々と連鎖して光の波が押し寄せる。
フィールドの近くに居たものが、その波に飲み込まれたが、すぐに笑いながら出てきた。
それを見て皆がどんどん星の海に飛び込んでいく。星の一つ一つは泡みたいにはじけて、とても面白い感触なのだ。
「本当、素敵ですわ」
「ああ、そうじゃのう」
夜は更けた、星が溢れた、笑いははじけ、記憶が積もる。
「何千年と生きてきたとて、今この思い出と同じものは、永劫にどこにもありはすまいて」
唯一が増えていく幸福に、アーデルハイトはただ笑うのだ。
明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いいたします。
二回目のマスタリングになります。判定などまだまだ手探り状態ですが、精一杯やらせていただきました。
そしてまた遅刻してしまって申し訳ありません。公開の日付が合っていれば、運営さんが頑張ってくださったということです。
あまり雪の経験がないのですが、大雪に遭遇したらとにかく巨大な雪だるまを作るか、かまくらで秘密基地を作ってみたいですね。
それでは、また次の機会をお待ちしております。