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白銀の雪祭り…アーデルハイト&ラズィーヤ編

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白銀の雪祭り…アーデルハイト&ラズィーヤ編

リアクション

  19:00

 少し前、なかなか攻め入る隙が見当たらない白陣に動きができた。何人かがおそらく赤に攻め入るためだろうが、陣を離れたのだ。
 じっと息を潜めていた甲斐があったというものだ、【雪中行軍放火隊】本来の作戦を遂行すべく、朔はエヴァルトに連絡を入れ、離れた場所に退避させていたパートナーを呼び戻す。残念ながら、彼女しか身を隠せるスキルを所持していなかったためだ。
「…さていく、ぞ…? ちょっと待て、…お前達一緒にいたのか?…しかもなんだか腹が満たされているような!?」
 彼らは、実はかまくらを一つ見つけて壊さずにキープしておき、雪でカモフラージュしてその中に潜んでいたのだ。一人犠牲になって鍋の中身を試し、毒はないことを確認してくつろいでいた。煮過ぎてはいるが、鍋はうまかった。そこから出たくなくなることだけが弱点だったのだ。
「お、…おまえらあああああ!!!!」
「わーっタンマ! あとでなんか奢るって!」
 ひとまず怒りを置いといてもらい、彼らは本来の任務を思い出した。
 まずカリンとスカサハが敵陣の真正面へ飛び出し、交戦を始める。人数が減っていて集中砲火が来る様子もなく白陣の注目を集めている隙に、朔とエヴァルト、ミュリエルが雪山に忍び寄って雪山に油をかける。
「…いくぞ!」
「おう!」
 火炎瓶や爆炎波で火をつけ、めらめらと雪山が油で燃え出した。じわじわと形を崩していくのを確認して、エヴァルトは追加で手当たり次第地面に油を撒きだした。ひたすら足場を悪くするのが目的である。白陣はにわかに浮き足立った。
「…ひとまず…目的は達したな」
 赤陣が心配だ、彼らは一旦戻ることにしたが、そこに静止の声がかかった。
 デゼル・レイナードが彼らの行く手をふさいでいた。
「火ぃつけたのはてめえらか」
 デゼルにはヒロイックアサルトの『投擲』がある、相手の射程外から問答無用に攻撃を仕掛けてもいいはずだ。
 しかしデゼルの性格はそれをよしとしなかった。正義や大義などという寝言には反吐が出るが、その一方で不正や悪事は大嫌いなひねくれ者だ。
『投擲』をもってしても、5対1ではさすがに光明は見えそうにないが、最後の足掻きとして、デゼルは抗うことを選ぶのだ。
『おおっと、白軍多勢に無勢です! 卑怯愚劣の阿鼻叫喚、この雪合戦上もっともコンセプトにそった一戦と言えるでしょう!』
『……この雪合戦は……本来こうあるべきだろう……こちらにも賞賛を惜しまんな……』
「うーん、悪かったなあ。今回は思いっきり悪役で行くって決めてたんだ」
「そうですね、この方もとても奮戦されました、すごかったですね」
「…とっとと戻るぞ…白はあちらに向かっているはずだ」
「せめてヒールかけてあげたい、いいかな?」
「…好きにしろ」
 その後すぐ到着した救護班の唯乃へ、気絶した彼を預けた。
「ご協力ありがとうございます、あとは私がこの方をお連れしますわ」


 譲葉 大和(ゆずりは・やまと)志位 大地(しい・だいち)シーラ・カンス(しーら・かんす)の三人は、フィールドに出て獲物を探していた。
 ついでに雪玉の制作をはじめる、大地は小人の鞄を出して、雪玉を制作を手伝ってもらおうとしていた。
「あれ、小人さんたち、そんなに小さくても使えないと思うんですが…」
 大地が思わず、失敗したかなと思い口を出す。親指大の小人達はそろって、彼らの頭くらい、つまり親指の爪くらいの大きさの雪玉を作成していたからだ。
 代表格らしい小人がすっと進み出て、大地に向かって馬鹿にしたようにちっちっと指を振った。多分馬鹿にされたのだと思う。なにせ小さくて顔のつくりとか、ぶっちゃけわからないからだ。
「あ、そういうことか、すごいですね」
 小人達は力を合わせて小さな雪玉を転がし、えっさほいさと雪だるまの要領で大きくしていく、それなら小さな身体でも効率よく使える雪玉が作れるようだ。
 大地とシーラが用意しているものは、パイルバンカーを改造した雪玉発射機だ。紅く塗られ、『紅爛』と名づけられたシーラ専用の装備である。
 打ち出すのは杭でなく雪玉だが、杭を打つ衝撃を受け止めてはじき出される雪玉のエネルギーは、もはや想像はつかない。多分そこまで行くと雪玉どころか氷柱になっているものと思われ、余計に恐ろしい。
 シーラはそれをもってランスバレストならぬ、雪玉バレストを繰り出すつもりなのだ。
 フィールドの中ほどで、誰かが通りかかるのを待つ、そこでシーラを出して雪玉バレスト辻斬りを行おうというのである。
 彼女の虎との突進力は、そうそう止められたものではなく、合戦上随一の攻撃力を誇るのだという自負がある。

「大地さん〜。私そろそろ行きますね〜。さあ、いっしょに行こうね伽藍ちゃん。ぶち抜こうね、紅爛!」
 サンタ服とサンタ帽の女性が、伽藍と呼んだ虎にまたがる。今回彼女が彼らの最強兵器なのだ。
「大和さん、シーラさんが出ます」
「わかりました、こちらも用意はできました」
 ―では、行きましょうか…
 そう言って二人は眼鏡を外す。
「さあ皆さん、卑怯とは何か、俺達に教えてくれませんか?」
 ブラックコートを翻らせ、それまでの穏やかな表情から打って変わって、空恐ろしい微笑を二人は浮かべた。

 椎堂 紗月(しどう・さつき)椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)は、アーデルハイト襲撃計画を練っていた。
 雪合戦の言いだしっぺがのんびり高みの見物など、紗月には許しがたいのだ。
 ついでに勝負してみたいし、そのほうが面白そうだからだ。卑怯上等というからには、もっとカオスな雪合戦になるべきである。
「俺は赤組側から、アヤメは白組側からいくぞ、ラズィーヤ様には当てるなよ、俺がなんとか気を引くからな」
「わかった」
「なるほど、敵サイドを装って、主催者を襲う、それも素敵に卑怯ですねえ!」
「誰だ!?」
 うっかり禁猟区スキルを出すのを忘れていた、誰かが会話が聞こえるほど近くに来ていたらしい。
 虎にまたがった女性が周囲を駈けて、彼らは足止めをされる、そばまで来ていた大和にも行く手を塞がれて立ち往生だ。
「やっぱりおこたと冷凍ミカン! たまりませんよねえ! ってわけで差し入れですよー!」
 猛スピードで冷凍ミカンが飛んできた、大和にアルティマ・トゥーレでブン投げられたカッチコチである。
「うわぁっ!」
 とっさに避けることができたが、単純に運である、残念ながらレベルが違うのだ。
「おおっと、どうして受け取ってくれないんですか? 敵に塩を送る俺はカッコいいですよね?!」
 紗月は狐耳と尻尾を出した。超感覚を使ったのだ、さもなくばとても追いつくことは出来ない。
 アヤメも超感覚で黒猫の姿になり、隠れ身を使った。
 虎の女性にも警戒を走らせる。彼女の微笑みは、悠然とした百獣の王者のそれで、否応なく彼らは己が下位であると思い知らされた。
「大地さんが整備してくれた雪合戦特別仕様…いっくよ〜! 雪玉・バレストぉ〜!!」
 紗月たちの足元に、虎の突進力とパイルバンカーの威力が叩きつけられる!
 ズドン!! というものすごい音とともに、紗月とアヤメが吹きとばされた。直撃はしていないが、周囲の雪ごと飛ばされたのだ。
 雪に吸収され切らなかった音と振動が、大地と大和の足元まで揺らし、二人はその威力の確かさにほくそ笑んだ。
「ねえ、私の紅爛ちゃん、すごいでしょう? あら、どうしてそんなに震えているの〜?」
 笑顔で感想をねだるシーラに、紗月たち二人は本気で『逆らったら殺される!』と思った。
 また二人が降参し、白の勝ち星が2つカウントされた。


 どりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)は観客席を見据えて計画を練っていた。
 いや、計画というよりも妄想を練り上げていた。
「まずハウスキーパーの能力で巨大な雪山を作るのよ〜」
 ふぇいと・てすたろっさ(ふぇいと・てすたろっさ)ははぁいと返事をし、二人で雪山を作り上げていく。
「は、はうすきーぱー凄いね…」
 どりーむはハウスキーパーのスキルで、脳内麻薬が出ているのかすさまじい勢いで雪山を制作している。だがやはり脳内麻薬か、どりーむの妄想の雪山は自分の力ではあまるだろう巨大な出来である。しかも眼前の観客席を飲み込んで、敵陣まで飲み込むような恐ろしい規模だ。
「ふふふ、この雪山を崩して雪崩を作って白組を阿鼻叫喚の地獄絵図にしてあげるわ〜」
 白組だけではなく、彼女の妄想ではさらにこたつでぬくぬくするアーデルハイトまでもを呑み込むのだ。
「あっははははっこれで赤組の勝利よぉ〜」
 当初の結末を迎えても、彼女の妄想はもはや止まらない。
 どういうわけだか、白陣まで襲った雪崩は次元を超えて赤陣にまで押し寄せ、蹂躙しつくしていくのだ。
「あ〜ん、赤組で立ってるのはあたし一人だけ!? みんなに恨まれちゃうわぁ!」
「ね、ねえどりーむちゃん、えっとこの後どうしようか?」
 くれぐれも、全部どりーむの妄想である。頭の中身まで見えるわけがないふぇいとは、どりーむがどうしたのか心配顔だ。彼女の本性を理解するにはまだ幼いふぇいとである。
 しかし彼女はいつの間にか後頭部に雪玉の直撃を受け、そのまま妄想の中に沈んだ。
「き、きゃー! どりーむちゃん! 目を覚まして!」
「んー、おねえちゃんいけにえ、ちがうの?」
 無邪気に雪玉で戯れるルーに、どりーむは敗北し、ふぇいとは降参した。
「どりーむちゃんごめんなさい、ちいさい子に雪玉はぶつけられないです…」
『おや、小さな少女が一人で敵を倒したようです、見事な雪玉コントロール!』
『この肩は世界を狙える肩ですね、将来が楽しみです』

 大野木 市井(おおのぎ・いちい)は、どりーむ達が残した雪山を発見して、これ幸いと大きな雪玉を作成しだした。
 ジーク・スカイウインド(じーく・すかいういんど)もそれに協力して、市井が作ろうとしていた雪玉をさらに大きくしていく。
「これだけでかければ壁にもなるし、カモフラにもなるし、最強じゃね? そうは思わんかねジークくん?」
「オレ、普通に教導団制服だから目立つかもしれないけどな」
「まあ、オレが白い服を着ているから、そんなに気にすることはないだろう、ちゃんと白組とわかるだろうし」
 ジークは思った、実はちょっと、違う所気にしたいんだけど、今は邪魔しないほうがいいんだろうな、…多分。
「とりあえず作戦を説明しよう。今この辺で敵陣はこっちだから、こっちへガッと行ってザッと回ってこうダーっと突っ込もうと思う!」
「……」
 口ではものすごくアバウトだが、ちゃんと図解はしてくれたので、もう何も聞かなかった。
 他の事についても、敵の攻撃? 知らん! 巻き込め巻き込め! 敵の奇襲班? 構わん! 取り込め取り込め! とのことである。
「大人しく我が糧となれ! ふははははぁ!」
 ここまで行くとジークも悟る。楽しんだ方が勝ちなんだ、ということを。
 雪玉を体全体で押して転がして、勢いが乗るまでは二人ではしんどい作業だったが、順調に転がりだして、徐々にスピードも上がってきた。
 このまま左にゆっくり方向転換していけば、そのまま敵陣に突っ込むルートがとれる。
「カーブ、きつくなるよ! 右側もっと、強く押して、くれよ!」
「…実は、ずっと、やってる、んだが、直進するエネルギー、のほうが大きい、らしい…」
 息を切らせながらの会話はなかなかつらい。
「もっと、真横から、ぶつかれば?」
 市井が真横からぶつかり、ジークは右側へと移動するが、進路はびくともしなかった。
「気づいて、ないだけで、ここは傾斜、なのかな?」
 言われれば徐々にスピードが上がっている気もしなくはなかった。
 市井のチェインスマイトも、ジークのスプレーショットも有効ではなかった、側面を削るだけに終わり、とうとう目標も通り越して、彼らは雪玉の放棄を決定した。
 遠くへと転がって暗闇に消えていく雪玉を見送り、二人はなぜか敬礼をしていた。
「さよなら、俺の超☆北極星魔弾(エクスポーラ・パニッシャー)…」
「…そんな名前つけてたのか…」
 ひとまず会場へ戻ることにしたが、もう二人とも雪合戦には満足してしまった気持ちだ。
「ま、いいか! 結構楽しかったし、アレがあっちへ転がっても多分ジャタの森あたりで人はあまり居ないしな。この後のんびり鍋でもつつかねえ?」
「かまわないよ、けどとりあえず一つ聞きたいんだ。カモフラなんだろうけど、あんたなんで純白のドレス着てんだ?」

 狩野 神威(かのう・かむい)はただちょっと、観客席から抜け出して、フィールドそばで観戦しようと思っただけだった。
 しかしそこで、思いがけないほど遠くからものすごいコントロールで、雪玉が真っ直ぐ彼に向かって飛んできたのだ! とっさに避けたことが自分でも信じられない。
 誰が投げているんだと思って眼を凝らし、目を丸くした。ちいさな少女が、彼に向かって雪玉を構えていた。
「こ、子供!? ちょっと待って私は敵じゃないんだ!!」
「てきじゃない? じゃあ…しろぐみだね!」
 警戒もなく真っ直ぐにやってきた子供の、真っ直ぐな眼差しにうっと詰まった。それにしても保護者はどこにいるのだろう?
「ただのギャラリーなんだけど、しょうがないな…私は狩野 神威、君の名前は?」
「るー!」
「ルーちゃんか、誰と来たの?」
「でぜるとくー! ゆきがっせん!」
 間違いなく雪合戦参加者らしく、保護者を探すには中に入らねばならないらしい。
「るー☆ いけにえさがす!」
「い、生贄ぇ!?」
 だ、だめだ、早くなんとか保護者に引き渡さないと!
 仕方なく彼は白組ということになって、ルーの後をついてまわらねばならなかった。