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第十一章 アジト壊滅〜謎の集団の正体〜
「侵入者だっ!!」
 正面から入ったシリウスたちに気がついた男たちは、一斉に入口へと殺到する。
「あ〜、さすがに不意打ちとか無理か……。んじゃ、派手に暴れるとすっか。リーブラ、タイミング合わせろよ!」
「わかりましたわ」
 光条兵器、オルタナティブ7(ズィーベント)の切っ先を後ろに向け、突撃の態勢を整えるリーブラ。
 それを見たシリウスが、呪文を唱え始める。
「我らを守護せし大いなる力よ、憤怒の雷光を響かせ、敵を滅せよ! サンダーブラスト!」
 指で印を結ぶシリウス。
 途端、指先から大剣のごとき無数の雷刃が光り、男たちの頭上へ降り注ぐ。
 直撃を受け、脳を沸騰させて息絶えた者が、ドサドサと倒れ始めた。
「ひいいっ――ぎゃあっ!!」
 運良く雷撃を避ける者もいたが、今度は、その男たちを狙ってリーブラが疾走する。
 パニックに陥っていた男たちを仕留めるのは容易い。
 光のような素早さで剣の軌跡を描き、リーブラは次々に切り裂いていく。
「油断大敵、ですわよ」
 男の胸を突き刺しながら、リーブラが笑う。
「緊急事態っ! 緊急事態だっ!!」
 男たちの声と共に、警報が鳴る。けたたましいその音に、シリウスが舌打ちする。
「ちっ、あーもう、ビービーうるせぇなぁ! そんなことしたって無駄だ。どうせこのアジトは全部ぶっ壊れるんだからよ!」
「ええ。わたくしたちはそう簡単に負けませんわよ!」
 再び向かっていく二人の横を、三人の影が躍った。
「えっ……」
 困惑の呟きを吐き出すシリウス。
 眼前の敵の顔を爆炎波で焼きながら、喜々として笑う透乃。その横には、敵の喉笛を素手で掻き切る芽美と、凶刃の鎖で動きを封じてから心臓に短剣を一突きする陽子の姿もあった。
「私たちも混ぜてね。シリウスちゃん」
 いきなり現れた三人の戦闘狂を見て、シリウスが一瞬だけ立ち止まる。
(うわっ――容赦ねぇな)
 脱線したやる気を元に戻すと、再び戦闘モードへ移る。
「リーブラ、オレたちもやるぞっ!」
「はいっ!」
 後から来た増援部隊を相手取り、五人は大立ち回りを始めた。
 戦闘ではなく、大立ち回りと表現したのは、作戦を立てて戦っているのがシリウスとリーブラぐらいしかいないからだ。
 サンダーブラストから剣戟へというコンボを繋ぐ二人に対して、他の三人は、素手で好き放題に虐殺している。
 首へと腕を回して骨を折り、股間を蹴り上げて潰し、口に短刀を刺す。
 他にも、バリエーション豊かな殺害方法で、一人一人確実に数を減らしていく。それだけで、死体の山が出来上がっていた。
 戦いの凄まじさを表す慣用句などではない。目の前に、本当に、死体で出来た山があるのだ。
 どんな風にバランスを取っているのか謎だが、次々と高さを更新していく。
「ほらほら〜。どんどん来ちゃいなよ〜! 『恐れずしてかかって来い!』ってね」
 左拳で男の身体に風穴を開けながら、挑発する透乃。彼女に負けてたまるかと、陽子と芽美も惨殺の凄惨さを増していく。
 スキル“紅の魔眼”と“封印解凍”を使い、攻撃力と魔法攻撃力の両方を上げた陽子は、狂ったように突っ込んでくる男にターゲットを定めると、光条兵器を構える。
「激痛を感じながら、死んでください」
 ニコリと笑うと、緋想を叩き込んだ。男の腹部が、ルビーのように光ったかと思うと、大きな風穴が開いた。
 拳ほどの小さいものではない。臍から鳩尾までをそのまま取り去ったような、巨大な穴だった。男の身体は、薄く残った脇の肉が必死で上半身と下半身を繋ぎとめている状態なのである。
 無論、この時点で死亡は確定だが。
「あ、かっこいいわ。陽子ちゃん」
 指で敵の両目を潰し終わった芽美が、惚れ惚れしながら男を地面に叩き付ける。
「私も、もっともっと殺したいわぁ〜」
 両目の潰れた男の頭部を何度も殴り続ける芽美。
 突然、ぶしゅ、と音がした。殴り続けていた男の後頭部から、灰色の液体が少し零れてくる。
「あら、脳みそが出てきちゃったわ。にゅるにゅるしてて、かわいい」
 飛び散った鮮血を浴びながら、心底愉快そうに芽美が笑う。
 まるで血飛沫で水浴びをしている、暴力の女神たちが、死の舞踏を踊っているようにも見えた。
 西太后や紂王が見たら泣いて喜ぶような殺戮が、そこにはあった。
「こ、こいつら、やべぇよ……。た、助けてえええっ!」
 あまりの残酷さに慄いた男たちが、裏口のほうへと殺到する。
 ドアを開けた瞬間、足が重力に引かれていく不思議な感覚を覚えた。
「うわあああああっ!!」
 穴の中に落ちながら、悲鳴を上げる男たち。
 その男たちを見下ろしながら、優斗と孔明が笑う。
 彼らは、逃げ道が裏口しかないことを知っていたため、あらかじめ落とし穴を掘っていたのだ。
 混乱状況にあったのも加わって、彼らの作戦は成功した。
「うまくいきましたね。優斗殿」
「そうですね。だいぶ安全になったようなので、情報収集でも始めますか。あと、ゴライオンたちが構成員たちの情報を欲しがっていたようなので、捕まえたやつから聞き出すとしましょう」


 楽しそうに惨殺を続ける三人を見ていられなくなったシリウスたちは、他の場所に潜んでいる構成員たちを倒そうと、アジト内を彷徨していた。
 すると――
「いや〜、マジ気持ちよかったわ……。いっぱい出してやったぜ」
「よかったじゃんか。これでお前も童貞卒業だ! はっは!」
「は、初めてがアリアちゃんみたいな可愛い子なんて、俺は運がいいぜ!」
 下卑た会話がシリウスの耳に届いた。
 ちょうど近くの部屋からだった。すぐにその扉を蹴破るシリウス。
「な、なんだ!?」
 男の声など、無視するシリウス。
 始めに感じたのは、筍のような匂いだった。
 鼻がもげそうな悪臭に耐える彼女の視界に映ったのは、上半身裸の三人の男と、髪を乱したまましゃっくり上げて泣いているアリア。
 アリアは、コートを一枚だけ羽織っている状態で、布地の隙間からは白い液体と、肌が見えた。
 それだけで――
 本当にそれだけで、シリウスとリーブラは何が起こったのか見当がついた。
 シリウスとリーブラの顔が、能面のそれに変わっていく。
「――テメェらにふさわしい死に様を与えてやるよ」
「覚悟するといいですわ――」


「ふー、びっくりしました……。侵入がバレたのかと思いましたよ」
 無事アジトへと潜り込んだ春美は、シリウスたちの侵入に構成員の意識が向いている隙を突いて、保管庫へと来た。
「あれっ、霧島」
「春美殿……」
 先に優斗と孔明が来ていたようだ。本棚を調べている。
「あら、先に来てたんですね……」
「ええ。落とし穴に落としたヤツから、十分敵の数とかは聞き出しましたから。今はその詳細を記録から調べています」
 パラパラと資料のページをめくる優斗。
「口封じとか、大丈夫だったんですか?」
「僕の殺気看破には、特に引っかからなかったですね」
「ふ〜ん。何かゴースト兵器のことはわかりましたか?」
「ええ。だいぶ。やっぱりこの集団、バルジュ兄弟と関わりがあったらしいですよ。結構悪どいことやってます」
「へぇ……どんな?」
「それは――」


「――それは、ゴースト兵器の製造と密輸だ」
 アジトから離れた森の中。
 ローザマリアに捕らえられたリーダーが、口を割った。
「やっぱりね……。それで、どうしてこの森に瘴気なんか漏らしたの?」
「この森で起こした事件は囮だよ。我々の組織“バルジュの隷使”が開発したゴースト兵器を彼らに送るための隠れ蓑だ。まぁ、オルディオンまでもが瘴気を恐れて住処から逃げ出したのは計算外だったがな……。ヤツの力はゴースト兵器に利用できる。なんとしても捕まえなければならなかった」
「……自分たちのせいで、どれだけの村人が傷つくか、考えたことはある?」
 震える声で、ローザマリアが問う。
「そりゃ考えるさ……」
 顔を伏せるリーダー。
 しかし、その顔は悪魔じみた笑顔に染まっていた。
「私たちのゴースト兵器がどれだけ強大かを示すモルモットなのだからなぁ! はっはっは!!」
「っ――!」
 無言のまま、ローザマリアは引き金を引いた。
「ローザ様、大丈夫ですか?」
 心配してくれた菊に返事するのに、しばらく時間がかかりそうだった。


 オールバックの男は、変わり果てた自分の姿を見て、頭が真っ白になっていた。
 あ、足と手が赤くなってる。つか感覚ねぇや。ははっ、あのアリアとかいう女にぶち込んだ時と同じだ。震えるような感覚――
 あっ、なんか足首から無くなってる……。赤黒くて、まるでカツオの叩きだ。ああ、そういや腹減ったな。うん。近いうちにカツオを食おう。でも自分の足を思い出しそうで嫌だなぁ……。
 おっ、すげぇ勢いで血が上がってる。相当新鮮なんだな……。
 よし、決めた。カツオにしよう。カツオカツオカツオ――


「カツオ……」
「あら、なにこいつ、死に際の言葉が『カツオ』ですって。ふふっ、磯野家の長姉にでもなった幻覚でも見てるのかしら」
 けらけら笑う芽美。
 彼女が見下ろした先には、執拗に手と足を切りつけられ、出血多量で事切れているオールバックの男がいた。
 彼だけではない。アリアを陵辱した男たちが川の字になって床に倒れていた。もちろん、全部芽美がじっくりと殺したのだが。
 あの後、アリアを救助したシリウスとリーブラは、三人の男を、透乃たちに処刑させようと思いついた。一人につき一人殺そうと提案した芽美だったが、事情を聞いた透乃は頭にきたのか、全員を残酷に殺すなら、という条件付きで芽美に譲った。陽子は反対しなかった。
「大丈夫。すぐに病院で手術してもらえばまだ間に合うよ。一緒に行ってあげる。あと、しばらく男の人が怖くなるかもしれないけど、大丈夫?」
「もう、平気……。ありがと。私、負けない」
 憔悴した顔のまま答えるアリア。どう見ても、平気には見えなかった。先ほど、汚された身体をシャワーで洗い流したが、心の傷までは流せなかった。


 アリアが落ち着いてから、アジトにあったゴースト兵器を誘爆させ、脱出するシリウスたち。
 後には、瓦礫の山だけが残った。