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激戦! イルミンスールの森

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激戦! イルミンスールの森

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第十二章 襲撃者の撃滅、そして――
「なぁ、オルディオン、あなたはいつからこの森に住んでるんだ?」
「好きな食べ物はなんですか? 今度もってきますですよー」
 オルディオンに興味津々の功平と由宇が、質問攻めにする。
「追放されたのは何百年も昔だからのう、覚えてはおらんな。好きな食べ物は――原生している草木だろうか……」
「へー」
「なるほどな……」
 オルディオンを救ったミルザムたちは、森を脱出しようとしていた。その際、後顧の憂いを絶つため、出来るだけ謎の集団を壊滅させようと提案したのは、ヴァル。
 パソコンの情報を整理しながら、脱出ルートを計算する。
「うーん……敵がやられた場所から察するに、敵の数はもう少なくなっていると見ていいのではないだろうか……」
 分析結果を告げるゼミナー。
「かもしれねぇな……。だが油断するな。一応、この先に来るって可能性があるんだからな」
 ゼミナーとの会話を終えると、他のメンバーに指示を飛ばす。
「よし。このまま北西に向かって移動だ! さっきゼミナーの銃型HCで確認したが、その方角に進めば効率よく脱出できる。ついでに敵も叩き潰す!」
 気合を入れて進みだす一行。
 瘴気はもう消え去っているためか、心地よい空気を吸いながら移動することが出来た。
 ざわざわと揺れる枝葉を聞きながら、周囲に気を配って足を動かしていく。
 すると――
「おいおい……あいつらじゃねぇのか……」
 永谷が眉を寄せる。
 見ると、大騒ぎしながら周囲を探し回っている男たちがいた。
「お前ら、何か探しモノか?」
 余裕の笑みを浮かべながら、男たちを挑発するラルク。
 その声に反応した男たちは、振り返って驚愕の表情になる。
「あれは……オルディオンだっ! 貴様らっ! そいつを渡せ!!」
 武器を構え、怒鳴るリーダーらしき男。
「瘴気はもう止みました。さっきアジトも壊滅したという情報が書き込まれましたよ。あなた方の負けです。大人しく投降しなさい!!」
 ミルザムが言い放つ。
 そのことが的を得ていたのだろう。苦虫をかみ殺したような表情で、リーダーは爆発した。
「黙れ黙れっ!! くそっ、よくも我々の邪魔をしてくれたなっ!! 我が“バルジュの隷使”の未来のため、そいつは力ずくでもいただくっ!」
「何が未来のためだよ。バルジュ兄弟のパシリじゃねぇか。やってることも組織の字面も」
「うるさいっ! ものども、かかれえええっ!」
 一行を取り囲むようにすると、一気に攻めてくる男たち。
「そうはさせない――いるみんさん……」
「おうよ」
 アルツールといるみんは頷きあう。
 最初に動いたのはアルツール。
「顕現するは断罪の剣。業火の渦を纏いて、我を惑わす悪を灰燼と化せ!!」
 アルツールが、ファイアストームを唱えた。
 爆炎が、一気に男たちを包み込む。火炎放射の如く激しい炎を浴びた男たちは、詠唱の通り、灰になって崩れ落ちた。
 アルツールの攻撃は止まない。小さい紙切れを宙に放つと、それをドラゴンへと変えた。ミニサイズのドラゴンである。
恐るるに足らずとかかってくる男たち。しかし、ドラゴンのブレスを浴びせられ、動きが止まってしまった。
「ぬおりゃあああああっ!!」
 近くの大木を利用し、三角跳びから、ドロップキックを決めるいるみん。数歩下がり、腹を抱えたままその場に倒れ伏した。
「な、なめやがってえええ!」
 刀を振るってアルツーへと向かっていく男。恐ろしいほどの剣気を込めて一直線に迫っていく。
「おっと、こっちにも敵はいるんだぜ」
 殺気看破を使って、ヴァルは光り輝く聖拳“則天去私”を叩き込んだ。
「みなさん。がんばってくださいです!」
 大混戦の中、後ろにいた由宇が、ギターを取り出して演奏を開始する。相変わらず激しいピッキングで弦をかき鳴らしている。
「おっ、いいねいいね」
 リズムに乗りながら、エルザルドは金砕棒で、近くに来ていた男を殴る。
男は、身体をくの字に曲げたまま、密生する木の中へと吹き飛んだ。
「サラマンディア! 敵のゴースト兵器を狙う。アシストしてくれよ」
「……わかったよ」
 スキル“精霊の知識”を発動させるサラマンディア。
「火術の詠唱だがな、赤く灯る蝋燭をイメージしながら、この世界にいる火の精霊に呼びかけるんだ。焦らなくていい。ゆっくり、でもしっかりやれ」
「わかった……」
 サラマンディアに言われたとおりにする雲雀。心に、蝋燭と、その頂点の紅炎を瞼の裏に描く。そして、肉眼には映らないであろう炎の精霊に、声をかける。
 その言葉が、声帯を通って出てくる。
「暗き道を照らす導きの主よ! 赤き心を震わせ、その身を焦がして顕現せよ! うおりゃああっ!!」
 雲雀の指先から迸った火術は、レーザーような細い線の炎。しかし、威力は見た目ほど弱く無かった。
 飛び出したその火術は、目の前の男が持つゴースト兵器付きの拳銃に命中すると、誘爆を起こす。
「ぎゃああっ!!」
 男の拳銃が、手首ごとボトリと落ちる。
「うおわぁ」
 雲雀が声を上げた理由は、威力に驚いたのが半分、目の前にグロテスクな光景が流れて恐怖したのが半分だった。
「す、すげぇ……」
「やったな! チビ」
 雲雀には、サラマンディアの言葉に突っ込む余裕さえなかった。
 精霊の知識と、由宇の演奏という付加効果を得て出来た、コンビネーションだった。
「いいですね〜! 私もテンション上げていきますよ!」
 ただでさえ激しい演奏に、激しいヘッドバンギングを繰り出す由宇。俗に言うなら、“ノリノリ”の状態だった。
「く、くそっ! 演奏しているヤツを仕留めろっ!」
 剣で武装した男たちが、由宇のもとへ向かっていく。
「おっと、そうはさせないよ」
 深く踏み込んだアレンが、刀で斬撃を、剣で突きを繰り出す。両方の武器の長所を生かした、華麗な戦闘技術だった。
「何してる! ライフルで狙い打てっ!!」
「しまった!」
 焦りながら魔法の詠唱をしようとするアレンの肩を、ルースが叩いた。
「まぁ、オレに任せておいてくださいよ……」
 射撃しようとしている敵に向かって構えたのは、なんと、巨獣狩りライフルであった。
「か弱い女の子を遠くから狙おうなんて、不届き千万ですね。それっ!」
 軽口を叩きながら、ライフルの引き金を引く。
 瞬間、大音量の乾音が上がると同時に、ルースたちの向こう側で血飛沫が上がった。
「ちょ、あれで撃ったら、身体無くなっちゃうんじゃない?」
「そうでしょうね。でもそんなこと気にしません」
 驚くアレンに、ルースは微笑を湛えて宣言した。
「もうオレは立ち止まりません。突き進みますよ!!」

「狙撃手はまだいるでありますっ!」

 声と共に、機関銃が火花を散らす。
 遠くで、ぎゃあ、と人の悲鳴が聞こえた。
「遅れて申し訳ないであります。相沢洋とそのパートナー、乃木坂みと、只今よりオルディオン殿の警護に当たりたいと思います!」
「わらわは、精一杯サポートさせていただきますわ!」
 二人が、追いついたのだ。
「お、待ってましたよ!」
 ルースが親指を立てる。
「あっ、あわわわわっ!」
 部下を大量に戦闘不能にされ、恐怖のあまりカチカチと歯を鳴らす敵リーダー。
 混乱しているはずの頭脳はしかし、狡猾な一手を思いついた。
「こ、こうなったら、こいつらを無視して、オルディオンを捕まえろっ! もしかしたら人質に仕えるかもしれん!」
 オルディオンを取り囲み始める男たち。
「させるかよっ!! ランスバレストッ!!」
 永谷の掛け声と共に高速の槍が、男を貫いた。
「残念だったな! 後衛の振りして、実はオルディオンに目を配ってたんだぜ」
 ラルクが、自分の手柄でもないのに偉そうに語る。
「ひ、怯むな! ドンドン行けっ!」
 猛攻の指示が飛んだ、その時である。
 眩い光が、辺りを包んだ。リリィのバニッシュである。
「そりゃっ!!」
「でいっ!」
 白い閃きが止む。
 取り囲んでいた男二人は、カセイノと永谷の槍で貫かれていた。
 バニッシュで目をくらまし、その隙に攻撃を加えるという連携技であった。
「く、くそっ……うわああああっ!!」
 残り少なくなった部下を伴って、無闇やたらと突っ込んでくる構成員たち。
「哀れですねぇ――」
 ルースのライフルは、男たちの頭を正確無比に喰らっていった。
 敵は、全滅――
 強力な前衛、強力な後衛、強力な護衛の体現であった。
「ふむ――戦いは終わったようじゃのう……」
 先ほどとは変わった口調で、由宇が喋りだす。
「えっ……誰?」
 口をあんぐり開けながら、功平が尋ねる。
「ああ。これか。これはの、この身体に宿るもう一つの人格じゃ。ちなみに童は人間ではなくて吸血鬼じゃ」
 ほほほっと甲高い声で笑う由宇。
「……なぜ別人格になったんだ?」
「由宇が――もう一人の童が気絶すると、童という人格が現れるのじゃ。先ほどの演奏中、ヘッドバンギングをしすぎたせいじゃろうか、気を失ってしまったようじゃ……」
「ミュージシャンで吸血鬼……。まるで某チュラムさんみたいであります……」
 話を聞いていた雲雀が、うんうんと頷く。
「ほほ、まぁ無駄話もこの辺にして、先に進むぞ」
 先へと行こうとしたとき、

「待った――とんでもないのが一人、混じっている……」

 冷や汗を流しながら、ヴァルが静かに口にする。殺気看破に誰かが引っかかったのだ。

 ――ふふっ、気がつきおったか

 バサリ、と空間が揺れる。
 そこには、泰然と佇む、三道 六黒(みどう・むくろ)がいた。
「ふふっ、強者――」
 耳まで届きそうなほど口を裂き、狂喜の笑みを浮かべる六黒。
「思い出したっ! これは、ミルザムと会ったときに感じた気配だっ!」
 ゼミナーの言葉を聞いて、一行は驚愕に打ちのめされる。
「そんな……じゃあ――」
「ああ。おぬしらの後をずっと追いかけていたのよ! 先ほどおぬしらが戦った相手に、わしの囮を仕込ませて、隙を突いてオルディオンを拐す手はずだったのだが……思いのほか使えなかったな……」
 ブラックコートをしまいながら、くくく、と笑う。
「正義に数限りなくとも、悪の数には限りあり。永遠なる戦いを求むるならば、どちらを相手取るかなど一目瞭然!! わしはバルジュ兄弟の野望などに興味は無いが、戦いができるのであれば話は別っ! 彼奴らに恩を売り、闘いの坩堝へと足を踏み入れようぞ! ミルザムとその共よ! オルディオンを渡すがいい」
「ふざけんなっ! そんなこと、誰がするかよっ!」
 永谷が槍を一旋させると、地を蹴った。風のように素早く間合いを詰めると、連続して突きを繰り出す。
「うおおおおおおおっ!!」
 気合と共に出され続ける槍衾を、六黒は涼しい顔でかわし続ける。
「邪魔だっ! 青二才がっ!」
 槍が引く瞬間を狙って、面打ちを狙う六黒。
「うわっ!」
 頭を反らし、ギリギリで刃をかわす永谷。追撃が来るかと思われたが、六黒はそのままオルディオンのほうへと走っていく。
「くっ、速いっ――」
「俺にまかせろっ!」
 功平が、ロングスピアを持って駆け出す。
「うおりゃああああっ! チェインスマイト!」
 まるで腕が四本あると思わせるほどの素早く、強力な突き二つ、六黒の身体目掛けて飛んでいく。
 だが、六黒は攻撃の軌道を完全に読みきると、突き出された槍を素手で掴み、そのまま投げ飛ばした。
「くそっ!」
「こっちだ。功平。後は我々に任せろ! アルツールッ!」
「ええ!」
 武者人形を使い、六黒へと向かわせる。カラクリで動いているとは思えないほどのしなやかさで抜刀すると、六黒へと切りかかっていく。
「消えよ。玩具風情がっ!」
 綾刀で横なぎに払う。ただそれだけで、武者人形は真っ二つに別れ、地面に崩れ落ちた。
「でやあああっ!!」
 斬り終わった瞬間を狙って、腕を十字にしたいるみんが飛び掛る。
 跳躍力と体重が加わった、フライング・クロスチョップだ。
 しかし、六黒は身体を半身にしただけでかわしてしまう。
「があっ!」
 地面に激突し、悲痛な叫びを上げるいるみん。
 その間に、オルディオンへと肉薄する六黒。
「オルディオン、もらったっ!!」
「させるかああああああああっ!!」
 ラルクが、水面蹴りを放つ。
「なっ――」
 バランスを崩した六黒は、その場に転ぶ。
「おっ、おのれええええっ!!」
 怒りに顔を歪めながら、オルディオンの前足を斬り飛ばした。
「ぎっ――あああああああっ!!」
 鮮血を吹き上げながら、仰向けに倒れるオルディオン。
「オルディオン! 大丈夫かっ!?」
 六黒を二の次にして、その場にいた者たちが、オルディオンへと駆け寄る。
「くっ、オルディオンの入手は失敗したが、まぁ、前足だけでももらっていくか……。何かの役に立つかも知れんしな……」
 いつの間にか、六黒は木の枝へと立っていた。
「てめぇっ――」
 眉に皺を作りながら、六黒を睨みつける功平。
「ふっ、おぬしらとは、いずれまた会うかもしれんな……。さらばだ」
 ブラックコートを使うと、六黒は姿を消した。


 重傷を負ったオルディオンの回復が始まった。
 止血は何とか済ませたが、未だに息は荒く、顔には玉のような汗が浮かんでいる。
「バルジュ兄弟の情報が欲しいと、言ってたな」
「喋らないでください! あなたは今危ないんですから!」
 消えそうな声で喋るオルディオンを、ミルザムが必死の形相で制す。
 だが、それでもオルディオンは口を止めない。
「私は死ぬかもしれないな……くっ! はぁ、そ、その前に、そなたたちに、協力しておこう……」
「そんな……。あなたを危険な目に遭わせてまでっ」
「いいから聞け! 奴らが狙っているのは――“空”だ。そして、大量破壊ゴースト兵器をっ、はぁ、はぁ……くっ……ゴースト兵器を使って、パラミタのみならず、地球までも支配しようとしている」
「空……大量破壊ゴースト兵器……ですね! わかりました」
「よし。くっ――ははっ、お前たちのような、人間に、出会えて、嬉しかったぞ……」
 それだけ言うと、オルディオンは後ろ足に力を込めると、跳躍してミルザムたちから離れる。
「どこへ行くのですか!? オルディオン!」
「私のことは気にせず、もうこの森を出て行け!」
「そんな……せめてちゃんとした手当てを――」
 後ろ姿に声投げるミルザムを、アルツールといるみんが止めた。
「ミルザム殿、もし彼を助けて、救えなかったらどうするのです? 皆の心に悲しみを残すだけでしょう」
「そうだ。だからこそ、あいつは自らが去ることによって、私たちに心配をかけまいとしたんだろう……」
 ミルザムたちが心に凝りを残さないでバルジュ兄弟と戦えるように、オルディオンは自ら去っていったのだった。
(ですが――こんな別れ方だったら、余計心配になるのですよ。オルディオン)