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第八章 謎の集団のアジトを目指して
「リカイン殿やローザマリア殿たちが、ほとんど敵を一掃してしまったようです」
「そうですか……生き残って、アジトへと向かう構成員とかはいますかね?」
携帯電話からの声に耳を傾けていた風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)が、質問を投げかける。向こう側にいるのは、傍にいるパートナー諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)が『小人の鞄』から呼び出した小人である。彼らは、もう一つの携帯電話をその身に括り付け、集団を尾行しているのだ。
 その集団とやらは、先ほどリカイン、ローザマリアの二部隊にほぼ壊滅されてしまったらしいのだが、隙を見て逃げ出した連中もいたようである。
「一応、何人か退却してるみたいですよ。それでも重傷だそうですが」
「でしょうね……。まぁいいです。それよりも、バレたりしてませんよね?」
「安心してください。アラームも切ってますし、ちゃんとサイレントモードです。いざとなればメールしますよ。変換出来てないときは緊急事態だと思ってくれれば結構です。まぁ、そんなことは無いでしょうけど……」
「わかりました。場所はここから遠くないですよね。すぐに向かいます」
 通話を終える優斗。
「どうでした?」
「場所はわかりました。行きましょう」
 孔明を連れ、走り出す優斗。


 優斗たちが移動しだす五分前。
 集団が壊滅した場所。そこには、逃げ遅れた男を木に縛りつけながら、尋問、いや、拷問を行っている霧雨 透乃(きりさめ・とうの)緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)月美 芽美(つきみ・めいみ)の三人の姿があった。
「ぎっ、あっ、かっ――」
「何々〜? き・こ・え・な〜い?」
 陽子のスキル“その身を蝕む妄執”で幻覚を見せられている男の口元へ耳を傾ける透乃。まるで“高い高い”をされて喜ぶ赤子のように笑っている。
「ん〜。何言ってるのかわかんないや。えいっ!」
 腹部に拳を叩き込む透乃。幻覚から覚めた男が、荒い呼吸を刻みながら我に返る。
「あうっ、透乃ちゃんに殴られるなんて……うらやましい……」
 ポッ、と頬を染める陽子。しかし、すぐに冷めた表情へと変わる。
「はぁ……最低な人間のくせに、透乃ちゃんに殴られるなんて許せないです……。私、悔しくて悔しくてあなたの首、ねじ切ってしまいそうです……」
「ひっ――」
「ダメだよ陽子ちゃん。こいつにはアジトの居場所を吐いてもらわないといけないんだから……。帰ったらアザが出来るまで叩いてあげるから、我慢して」
「わかりました……」
「よしよし――さて、また訊くけど、あんたたちのアジトはどこなのかな?」
「こ、こっちの道――東の方へ進めばあるはずだ……」
「ありがと」
 男が指し示したほうへ去っていく二人。そう、“二人”だ。
「な、なんだ――ぎゃあああああああっ!!!」
 一人その場に残った芽美は、男の心臓に手刀を突き刺した。
 びちゃり、と返り血が芽美の肌を赤く飾る。
「あなたは用済みよ。だから、さよなら」
 突き入れた腕を払って、透乃たちを追いかける芽美。
 しばらくして着いた優斗と孔明が見たのは、木に括り付けられたまま絶命している男と、それを見て狂ったように脅えているもう一人の男の姿だった。
「なんだかひどいことがあったみたいですね……。まぁ僕たちには関係ないですけど」
「そうですね――っと、そこのあなたに訊きたいことがあります。おとなしく答えるならよし。さもなくば――」
 孔明の脅しに男が忙しなく唇を動かし始めるまで、そう時間はかからなかった。


 超感覚を使って尾行していた霧島 春美(きりしま・はるみ)は、誰よりも早く、アジトにたどり着いていた。
「やった〜。一番乗り! っと、油断しない油断しない……」
 アジトの物置小屋のドアを少し開けて、外を見渡す。彼女は、ここに隠れて構成員が来るのを待っていた。
「ったく……新人だからって雑用押し付けやがって……」
 ふと、声が聞こえた。どうやら新人の構成員らしい。
 ガラガラ、と乱暴にドアを開ける構成員。
「ふぎゃっ!!」
 ハーフムーンロッドで脳天に一撃。そのままその構成員は倒れた。
「新人時代の雑用は貴重な経験ですよ。“小さな仕事が出来ないヤツに大きな仕事は任せられない”って昔のCMであったでしょ」
 と、先輩社会人じみたことを言って、服を脱がそうとする。変装して、アジトの中へ入ろうという魂胆なのだ。
 服を着ていると、一枚の紙切れがはらりと落ちた。
「何々……合言葉は、『援軍呼ぶなら、リーザスよりゼス』ですって? 私は何気にあの使えない忍者とか好きだけど……。ってそんなこと言ってる場合じゃなかったです」
 素早く着替えを済ませ、アジトへと向かっていった。


 アジトから見回りに出された男たちが、木に寄りかかりながら欠伸をしていた。
「あ〜あ。暇だな……」
「だよな。そういや、先輩たちがいい女捕まえたってよ……あとでヤりに行かね?」
「マジか! 行く行く」
 ゲラゲラ話す二人組。
 その二人が、いきなり蹴り飛ばされた。そんな強脚の持ち主は、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)と、リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)であった。
「面白そうじゃねぇか……。で、そのパーティ会場はどこにあるんだ? あ?」
 二人に近づくシリウスは笑顔だ。
 笑顔だが、その目には殺気が篭っていた。
「な、なんなんだよお前ら!」
「もう一度だけ言うぜ……。そのパーティ会場は、どこにあるんだっ!!」
 先ほどの笑顔はどこへやら。ものすごい剣幕で怒鳴り散らすシリウス。
「あ、あっちだ……」
 いきなりの理不尽な暴力と暴言に底知れぬ恐ろしさを感じたのか、二人組は震えながらアジトへの道を示した。
「そうか。ありがとよ。もう休んでていいぞ」
「えっ――」
 二人組の悲鳴が聞こえたのは、それからまもなくのことだった。


 三人の男たちに拉致されたアリアは、小部屋の中に連れてこられていた。
暴れられないように磔にして、男たちは衣服を切り刻んでいく。裂け目の奥からは、所々下着が見えている。
「うひょ〜。マジ気持ちいいわぁ!」
 アリアの胸を乱暴に揉みながらバンダナを巻いた男が笑う。
「うっ……くっ……」
 恥辱に顔を歪めながら、アリアは耐えている。先ほどから小一時間近く体中を弄られているが、男たちを喜ばせまいとして毅然とした態度を取っていた。身動きが出来ない状況での、彼女なりの唯一の反抗だった。
「あんまりがんばってないでさ〜、そろそろ可愛い声聞かせてくれよ〜。お姉ちゃん」
 サングラスをかけた小男が、首筋を舐め上げながら下卑た笑いを響かせる。
「だっ、誰がっ! あ、あなたたちみたいな卑怯で気持ち悪い人たちなんかに、私は負けません!」
「おいおい。強気もそのぐらいにしといたほうがいいぞ。つか気持ち悪いとか……ちょっと頭来たかも」
 アリアの言葉を聞いたオールバックの男は、ポケットから小瓶を取り出すと、アリアに嗅がせ始めた。
 不思議な匂いが鼻腔を駆け抜けた瞬間、身体に電気が走るのをアリアは感じた。
「うっ――なに、これっ……」
「これはな、女の身体を正直にしちゃう魔法の薬だよ〜ん」
 ふざけたように笑うと、オールバックの男は他の二人に指示した。
「さて、お遊びはここまでだ。薬が効き始めるだろうから、“本番”行っちまおうぜ」
 ズボンのベルトに手をかけながら、近寄ってくる三人。
「やっ……いやあああああああっ!!」