葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

【なななにおまかせ☆】アイドル大作戦!!

リアクション公開中!

【なななにおまかせ☆】アイドル大作戦!!

リアクション


行間
――関係者控え室。

 CY@Nがステージに上がっている合間。
 なななはここにのこる関係者に、あることを告げた。
「なんだって? 呪いを囁かれたってどういうことだ!?」
 源 鉄心(みなもと・てっしん)が驚く。それは自分たちのミッションが失敗したのと同じだ。
「ででも、今はまだ大丈夫です! 呪いは4段階になってまいすから!」
 とCY@Nのマネージャーが向日 ルカ(むこう るか)が補足し鉄心を宥めた。
「そう。どうやら、数回に分けてキーワードを言うことで呪いを強力なものにしているみたい」とななな。
「金 鋭峰の言っていた複雑という意味はそういうことか。そういうのは大抵、発動も解除も面倒なことが多いのだよ」
 猛も唸る。
「団長も人が悪い。そんな大事なことを俺達に伝えないなんて。それはそうと、向日さん。私としてはCY@Nが、いつ、どこで、鏖殺寺院に攫われたのか詳しく知りたいところです。よろしいですか?」
 鉄心がルカに尋ねる。
「はい……CY@Nが連れ去られたのは二ヶ月ほど前です。その日はいつもの小さな軽食店でスケジュールと打ち合わせをするはずでした。」
「つまり、誘拐された日のCY@Nの行動は予め決まっていたと?」
「はい。彼女が打ち合わせに遅れることは滅多にないのでので、おかしいと思いその後は警察に連絡を……」
「打ち合わせに行く途中でCY@Nは誰かに攫われたわけか……」
 その後CY@Nは公式では病気のために臨時休業した事になり、実際には教導団が救出するまで鏖殺寺院の言いなりに成っていた。
「誘拐されていた間に何があったのか聴いてますか?」
「いえ、それは――」
「そのことに関してだが」と猛がルカの代わりに応える。
「どうやら、天御柱の研究所で誘拐されていた間のCY@Nの記憶を消しているみたいなのだよ。その間の記憶を消すことで呪いの発動していない前の状態に戻したのだろう。呪いを解く根本的な解決にはなってないのだが」
「なるほど、だから呪いは解けていないのに、今は普通でいられるのか」
 鉄心は納得する。
「けど、はじめのキーワードがなぜ『イエロー』なんだろう? さっきしょっぴいた工作員からは、『マゼンタ』てキーワードを聞き出しました」
 ななながそう告げる。『イエロー』に『マゼンタ』そしてキーワードは4つ。これは何を意味するだろうか?
「4原色だな」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が部屋に入ると同時にそう答えた。どうやら外で会話を聞いていたようだ。ルカルカも一緒だ。
「CMYKと言って、印刷に使う基本色シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックのことだ。俺が思うに、鏖殺寺院の奴らはCY@Nという名前から、呪いのキーワードを組み立てたんだろうな。最も呪いってことが俺には非科学的で引っかかるが」
「流石は我が校の有機電算機だな……」と鉄心はダリルを褒めて「じゃあその4つの言葉をCY@Nに言えば、呪いが発動するんだな」と言う。
「じゃあわざと呪いを発動させて、無理矢理呪いを解除するってのもあり? もしかしたらそのキーワードのどれかが解除の言葉かもだし」
 ルカルカが提案する。
「ルカルカの意見はななな的にはアリだけど、一応試してみる?」

 ――歌合戦終了後。
 実際に、CY@NにCMYKのシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4つのキーワードを聞かせてみた。
 だが、CY@Nの呪いが発動することはなかった。それどころか解除にも至らなかった。
「おかしい、俺の予想がはずれるとは――」
「駄目じゃんダリル。てかCY@Nの呪いが2段階目に進んだみたいだよ!」
「今のあなたの言葉でもう一段階進んだみたいよ……」
 と痛みに脇腹を押さえて、ルカルカに抗議するCY@N。呪いが3段階目に突入したようだ。
「順番が違うのでは? 最初のキーワードが『イエロー』てのが気になる」
 と鉄心。
「なら、呪いの進行具合からして、イエロー、マゼンタ、シアン、そして次の言葉で呪いが発動するはずなのだよ」
 と猛。
「ブラックね。どうCY@N?」
 ななながCY@Nに尋ねる。が、CY@Nの様子は変わらない。
「傷が痛いけど、別にどうってことないわ」
 CY@N自身も自分におかしいところが無い様に思える。呪いは発動しなかった。
「ともかく、今はCY@Nを鏖殺寺院から守る以外に道は無いな。次の水上騎馬戦が終わるころには、捕まえた誰かから解呪の言葉を聞きだせるだろう」
 ダリルが言う。
元よりそうするしか無いのだ。


一方、CY@Nの楽屋にて――、
「はぁ、はぁ、はぁ……」
リュックにポスターと如何にも怪しいガリノッポな男がドアの隙間から部屋を覗いていた。首にはADのタグ(偽)がぶら下がっており、関係者を装ってここへと入ってきたようだ。
この男を縦男でも呼ぼうか。男は楽屋を覗いて生唾を飲む。意を決してCY@Nのいる楽屋へと入ろうとする。突撃ラブハート。
しかし、誰かに襟首を捕まえられる。縦男はゾッとする。ここに来るまでに、細心の注意を払い、誰にも怪しまれないようにしていたというのに。自分を掴む見えない存在に恐怖した。
「鏖殺寺院。おまえらにCY@Nは渡さない」
 《光学迷彩》を解いて、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が宣言する。彼は《光学迷彩》に【ブラックコート】と《レビテート》を併用して不可視無音でCY@Nの護衛をしていた。
 そのことはCY@Nも知らない。
「人類の宝と言っても過言ではない声優を、身勝手な野望のために利用するなど、許しはしないッ!」
 どうやら、エヴァルトも相当な声優好きらしい。実際にはロボットアニメがなによりも好きなだけだが。
「何を言っている、わ、私はCY@Nのた――」
 縦男の口が塞がれる。
「休憩の合間を狙ったのだろう? だが、それ勝ったつもりか? 寺院の広告としてCY@Nは使わせん! ――、おまえがやろうとしたことを後悔させてやる。ククク……、ハァハッハハハハーッ!」
 エヴァルトは藻掻く縦男を引きずって影へと消えた。

「ん――?」
 楽屋にいるCY@Nに小さな小さな悲鳴が聞こえた。
 が、小さすぎて気にする程でもなかった。