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手の届く果て

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手の届く果て

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 ――迷宮内・第二階層――



「うえ……気持ち悪い……」
 安芸宮 和輝(あきみや・かずき)がそう言うのも無理はない。
「私も、あんまりこういうのは……」
 クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)も和輝の陰に隠れ、恐る恐る部屋を眺めた。
「和輝、クレア、しっかりしてください。こんなところで野盗やモンスターと出会ったらどうするつもりですか」
 安芸宮 稔(あきみや・みのる)が喝を入れるが、わからないでもない。
 人体実験のような部屋に入り、しかもまだ保存されているそれらの類が顕在だ。
 苦手な者には苦手なのだろう。
「そ、そうですよ。こ、こんな素敵な素材を見て、気持ち悪いなんてのは……ひどいですよ」
 ガラスケースに浮かぶ人型モルモットの後ろから、白衣を着た者が現れた。
「なっ、け、研究者がまだいたのか」
「ボ、ボクのことは置いて、キミ達は熱病の調合書を求めてきたのですか……?」
「もしかして知っているんですか!?」
 和輝は研究者に近づこうとしたが、それは一歩、二歩で止まった。
「あなたは……研究者なのに野盗と手を組んだんですか……」
「ふひひ……」
 研究者の後ろからゾロゾロと野盗が姿を現した。
「大人しくしな……」
 野盗の1人が銃を向けた。
「……調合書をどうするつもりですか?」
「そりゃあオメェ、金にするに決まってんだろ。じっくりいろんな欲しがる奴らを天秤にかけて釣り上げて、一儲けさ。おっと、動くなよ」
「獣人を助けるために……皆急ぎで探してるんだ……。そういうのは……」
 和輝は駆けた!
 ――パァンッ!
 野盗は引き金を引くが、その弾はガラスケースに突き刺さった。
「ああああ、何をッ!?」
「うるさい、どけッ!」
 和輝がうまくケースを射線の間に置くよう逃げ込み、機を伺った。
 もちろん、そんな和輝に合わせる様にクレアと稔も弾けるように飛びだした。
「アシッドミストッ!」
 クレアが霧を生み、視界を悪くすると、もはや飛び道具の命中精度は極端に悪くなる。
「クソがッ!」
 野盗達は近距離用のナイフに武器を切り替え、濃くなり続ける霧の中獲物を探った。
 これは我慢比べ――。
 先に動けば、影が揺らぐ。
「迂闊です」
 焦って動き出した野盗の前に、霧を裂くように稔が現れた。
 受け止められるのを承知で力の限り槍で薙いだ。
 野盗は防ぐことに成功しても、吹き飛ばされ、嫌でも霧の中で居場所を晒す。
 稔はそれを何度も繰り返し、一点を狙った。
 ドンッ――。
 何かが何かにぶつかる音を聞くと、クレアはサンダーブラストを放ち、霧を吹き飛ばした。
「和輝、いいですわ!」
 晴れた霧の中、全ての野盗と研究者が、ほぼ一か所に固められていた。
「ウオオオオッ!」
 光条兵器でのスタンクラッシュ一閃――!
 全ての敵をまとめて討ち、決着と相成った。



「やっ、ほっ!」
 ロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)は、軽身功で壁を蹴りながら通路を駆けた。
「ふむ、私の住処も迷宮のようなものだったが、ここはずいぶんと貧乏くさいな」
 後に続くパートナー、レヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)が言うと、ロアは鼻で笑って言い返した。
「お前の住処が異常なんだよ。総大理石に宝石飾りの壁天井とか何考えてんだ」
「当時の設計士に言え。私は好きに作れと言っただけだ。にしてもあの羊が魔物のいる場所に積極的に来るなど珍しい。まあ多少魔法を使えるようになったようだし、足手まといにならねばそれでいいが」
「そりゃ同族がやられりゃ、心配にもなるだろ」
「早く調合書を探さないと、獣人の皆が熱病で苦しんでるって言うのに!」
 焦る気持ちを抑えられずイルベルリ・イルシュ(いるべるり・いるしゅ)も後に続いた。
 同じ獣人として、早く熱病から解放してやりたいとの思いが、イルベルリを急かした。
「しかし、私にはそれ以上の心配事がある」
「なんだ?」
「お前のそのハシャギようだよ」
「何が言いたい」
「私達にはトラップ解除の術がないのだよ。万が一罠にかかれば、それを突破しなければならなくなる」
「だから床を歩かないようにしてるんだろ。それに俺は勘も鋭いんだ。そうそう引っ掛からないだろ」
「ふむ。私が言いたいのはな、トラップは床限定ではないということだ」
 ガゴッ――!
 ロアが壁に足をついた瞬間、何かスイッチのような類のものを踏んだ凹みを感じた。
 その瞬間、両壁がドンドン広がっていき、その下から蓋のない棺桶が次々と現れた。
 腕をクロスさせ、剣と盾を持ったスケルトンが、一斉に立ち上がった。
 ――ほれ見たことかッ!
 レヴィシュタールのその視線を感じたロアは、舌をチロっと出して肩を竦めた。
「うわああああああ、モンスターだよッ!?」
 イルベルリが動揺するが、ロアの一喝により覚悟を決めた。
「仲間を助けたいんだろッ! これくらい戦って見せろッ!」
「ウワアアッ!」
 イルベルリは――駄々っ子が何でも投げつける様に――火術、氷術、雷術を連続して1体のスケルトンに浴びせた。
 熱と寒で弱った骨に雷が落ちれば、それは脆くも崩れ去った。
「やった!?」
「まだであろう! 気を抜くな」
 レヴィシュタールがファイアストームで複数まとめて一気にスケルトンを焼き払った。
「責任はきちんと取るのであろう!?」
 怒声にも似たそれに、ロアはボウガンを構え、サイドワインダーで2体同時に突き倒した。
「わかってる。あとは全部俺がまとめてやってやるよ!」
 そうしてロア達3人は、トラップで呼び出した全てのスケルトン――およそ数十体を葬って見せた。