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リアクション
開会式はごく短い、つまらないものだった。
市長は長話はしない。万が一、悪漢どもが焦れて引き金を引いたら言い訳しようがないからだ。
「……では、あの朝陽が登り切ったときから、大会を始めます。くれぐれも、市民にケガを負わせないように。また、この町から逃亡したものは失格と見なします」
市長が笑顔で彼らに告げる。指さす先では、日が半分程を覗かせていた。
「……あの夕陽が沈むとき、最後に残っていたものが優勝者です。……では、健闘を祈ります」
告げて、市長は壇上から下がる。数人の護衛を連れて、市庁舎へと戻っていった。
ガンマンたちの多くも、広場から去り、町中へ散ろうとする。
無法者どものボスである“有情の”ジャンゴもまた、素早くこの広場を引き上げている。
というのも、広場の中心にサンダラーがふたり並んで立っているからだ。彼らが開催の瞬間、広場に居る者を皆殺しにしようと銃を構えている。誰も、開幕直後に凶弾の餌食になろうとは考えていないのだ。
それでも、優勝候補筆頭であるサンダラーたちを倒そうという挑戦的、あるいは無謀なガンマンたちも、いる。遠巻きにサンダラーを囲む円が作られ、じりじりと日の出の時を待っている。
物見台にいる担当者が、日の出の瞬間を確認して、鐘を打ち鳴らす。
瞬間、広場に無数の銃声が重なった。
そのほとんどはサンダラーの一方……拳銃使いの放ったものだ。目にも止まらぬ速度で引き金を引き、一瞬で何人ものガンマンを打ち倒していく。素人目に見ても、人間業ではない。
と、そこへ……
「先手必勝、くらえ!」
叫びを上げ、蔵部 食人(くらべ・はみと)が飛び出して来る。その手に持った黄金の銃を放ち、柵や建物に跳弾させてサンダラーたちへと雨のように振らせていく!
「勝った! 第四世界・完ッ!」
ドドドドッ! いくつもの弾丸がふたりのサンダラーの体に突き刺さる。まるで何も命中してなどいないかのように、サンダラーの銃が食人へと向けられる。
「なっ……」
パンッ。早撃ち拳銃の引き金が引かれると同時、食人の額に衝撃が走り、後方へ吹っ飛ばされる。
(痛ぇっ……。だが、この俺様の不屈のスペランカー魂で蘇れば……)
仰向けに倒れる食人。その首に、重いブーツの底が乗った。
(いっ!?)
サンダラーのもう一方……ライフルを持った方が、食人の首を踏みつけ、顔の中心に銃口を向けている。
「……まずい、あれじゃ、助けたくても……!」
その上空……食人を素早く救出する予定だった魔装戦記 シャインヴェイダー(まそうせんき・しゃいんう゛ぇいだー)も、空飛ぶ箒に跨がったまま悲鳴を上げかけた。
「……手間がかかりますね」
小さく呟くと同時、屋根の上から広場を観察していたフォルクマン・イルムガルト(ふぉるくまん・いるむがると)が、銃を放った。サンダラーの狙撃手の命ではなく、体勢を崩させるための弾幕射撃だ。
その銃弾は狙撃手の掌に当たった。普通の人間ならば銃を取り落として当然だ……気合いや根性の問題ではない。手の腱が切れていて当然だ。
だが、狙撃手はそうはしなかった。食人の首から脚をどけ、弾丸の飛んできた方……斉射を続けるフォルクマンへ向け、銃を向けたのだ。
「……まずい!」
ぴたりと止まった銃口が、確実に自分を狙っていることを察したフォルクマンは、素早く屋根の上に身を伏せる……が、その肩を弾丸がかすめ、ぱっと血が散った。
「あ……くっ!」
肩を押さえてうずくまるフォルクマン。今度は、こちらが危機だ。
「待て! 彼女は大会の参加者ではないぞ!」
そこへ、待ったがかかる。広場を見下ろすバルコニーに並んで、安全な場所から見物していたハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)だ。
「確かに先に撃ったのは彼女だ。自衛のため、一発はいいだろう」
本来は、そういった行為は黙認するつもりだったのだが。あんなに堂々と行われたのなら、見て見ぬふりというわけにもいかない。
「だが、彼女はすでに戦う力を失っている。これ以上彼女を狙うことは、ルール違反。即刻、出場停止となってもおかしくはないぞ!」
「そうだそうだ!」
「狙うのは出場者だけにしろ!」
周囲の観客たちも同調する……何せ、自分たちの命がかかったことだ。
その様子を、広場の脇から眺めていたクリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)は感心したように眺めていた。
(あのバカ、てっきり見物しようとしているのかと思ったら……なるほど、これが狙いだったわけね)
心の中で呟きつつ……彼女自身は、撃たれたフォルクマンのいる屋根へと駆け上る。
「……すみません。外部から、助けようと思ったのですが、あまりに切羽詰まった状況でしたから……」
「今は口を閉じて。ぼろが出たら困りますわ」
その銃を手から離させ、安全をアピールしてから止血にかかった。
サンダラーたちは無言のまま、フォルクマンから食人へ銃を向け直した。
(こっちのことは忘れてくれたと思ったのに!)
がーんっ、と不協和音を頭の中に鳴らしながら、しかし食人のダメージは回復しきっていない。運命と諦めるしかないのであろうか!
「……こうなったら!」
うなったのは、天城 一輝(あまぎ・いっき)。銃弾で弾幕を張りつつぱっと飛び出して、地面の上の食人の脚をつかんで引きずる。
サンダラーの銃口が火を噴く。一輝は食人の体を抱えて樽の影に隠れるが、わずかに遅い。腿にくらった。致命傷ではないが、派手に血が流れる。
「……ニット帽がなければ即死だった」
ようやく魂が燃え上がってきたらしい。呟きながら、起き上がる食人。
「まだ終わってないぞ」
「待て、少しだけ」
サンダラーがこちらを狙っている。が、無論気を取られているサンダラーの背中を撃とうとするものも居るため、拳銃使いが狙撃手の背を守り、狙撃手がこちらを狙っているようだ。
食人は樽からそっと顔を覗かせ、目に着けたハイドシーカーでサンダラーの強さを計ろうとする、が……
ボンッ! バンッ!
ハイドシーカーが火を上げて爆発。ついでに、再び額が撃ち抜かれた。
「ニット帽がなければ即死だった」
「何回やるつもりだ」
むくりと起き上がる食人に、自分の止血をしながら告げる一輝。
「これで最後だ。……逃げるぞ!」
「ちょうど、俺もそうしようと思っていたところだ!」
ふたりが樽から手だけを覗かせ、狙撃手がいるだろうあたりに銃を放つ。命中したかどうかはどうでもいい。左右それぞれ、別の方向へ跳びだした。撃たれた傷が痛むが、渾身の力を振り絞る。
「……手間をかけさせやがって!」
「引き上げますわよ!」
食人をシャインヴェイダーが、一輝を小型飛空艇に乗ったローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)が上空から舞い降りてつかみ、空へと舞い上がる。
どちらを狙うべきか、狙撃手が一本しかない銃口を向けている間にみるみる距離を離していく。
結局、狙撃手が狙ったのは的が大きな方だった。
ゴオン! 撃ち抜かれた小型飛空艇のエンジンが火を噴く。
「ああっ! お、落ちますわ!」
「ま、町から離れろ!」
叫ぶローザに一輝が指示。飛空艇はガタガタ揺れながら、町の外へ墜落していった。
「おおっ、こりゃいきなり派手になったな」
「って、結局見物してるじゃないの!」
ビールを片手にはやし立てるハインリヒ。その様子を、フォルクマンの手当をしていたヴァリアが見とがめて叫んだのだった。
結局……蔵部 食人、天城 一輝両名は失格。ルール的にも体力的にもこれ以上戦う事はできそうになかったが、それなりの収穫があった。
「ち、ちょっと、大丈夫なの?」
ダウンタウンの一角。派手に撃たれる場面を見ていたジェニファーがふたりに近寄って問う。
「うおおお、あっぶねえ!」
慌てて目を逸らした食人。
「危ないって、何がよ」
キョトンとするジェニファー。答えに詰まる食人。
「お答えしよう!」
シェルドリルド・シザーズ(しぇるどりるど・しざーず)が食人に何かを投げつけて応えた。
「ぎゃっ!?」
「白龍は投げるものではないぞ」
投げつけられたモノ……ヴィーヴル・フランシア(う゛ぃーう゛る・ふらんしあ)は食人の後頭部にぶつかってから、フクロウよろしくその肩に留まる。ぶつかった衝撃で食人の目から、ぽろりと何かが落ちた。
「それは邪鬼眼レフという魔法のアイテムでね。目に入れておけば人の着ているものが見透かせるという便利な代物なのだよ」
「見透かせるって……ええっ!?」
甲高い声を上げて、自分の体を思わず隠そうとするローザ。一方のジェニファーはそれほどしとやかではない。
「何考えてんのよっ!」
思わず銃に手をかけるジェニファーに、慌てて食人は手を振った。
「待て、待て、待ってくれ! そんなことのためにやったんじゃなくて、俺はサンダラーを見てたんだよ!」
「……そうか、あの包帯の中身を!?」
はっと一輝が顔を向ける。食人は大きく頷いた。
「あいつらの体、傷だらけだった。顔までは分からなかったが……撃たれた場所から血も出てねえ。もしかしたら……」
「まるでネクロマンシーだね」
「というより、そのものに聞こえるな」
シェルドリドとヴィーヴィルが口を挟む。食人は小さく頷いた。
「たぶん、そうだ。あいつら、死体か何かだ」
「でも、汚らしい死体なら、誰かが操っているか、自然発生したものならろくな知性もないはずですわ」
「連中を操っている誰かがいる風には見えなかったな」
ローザと一輝が眉をしかめる。
「ゾンビみたいにうろうろ歩いてるだけってわけでもなさそうだ」
シャインヴェイダーも頷いて答える。
「ちょ、ちょっと待って。君たちが何の話をしてるのか、全然分かんないんだけど……」
困惑顔のジェニファーに、食人が頷いて答える。
「とにかく、人間じゃないってことははっきり分かった」
「……そう、おかしな連中だとは思ってたけど……でも、まさか文字通り人じゃないなんてね」
ぽつりと呟くジェニファー。その方に、シェルドリルドが手を置いた。
「まあ待ちたまえ。私が撮った写真もある。これを調べれば、彼らの戦い方について何か分かるかも知れない。夕暮れまで時間があるのだから、有効に使おうじゃないか」
「俺たちは、もう失格だけど……おまえには、まだチャンスが残ってるだろう?」
一輝が告げる。ジェニファーは、大きく呼吸してから頷いた。
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