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リアクション
「ここか? ……くらえっ!」
健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)の構えた大口径の銃から猛烈な熱気が噴き上がる。ダウンタウンの一角で激しい爆発が起こり、炎が逆巻く。
「ちょ、ちょっと、いいの?」
背後の熱海 緋葉(あたみ・あけば)があまりに派手な爆発に驚いている。
「町に被害を出さないルールっていっても、監視員がいるわけじゃない。実際には、こんな下町じゃ、誰がやったかなんてわからねえよ」
「そういうことね。ここでジャンゴを倒しておかなきゃ、夕方に相手取るのは面倒だわ」
涼しい表情で枸橘 茨(からたち・いばら)がいう。彼らが向かうのは、夢悠が放った使い魔から伝えられたジャンゴのアジトだ。
「どうするの?」
「決まってる、罠を張って待ち伏せてるなら、罠ごとぶっ飛ばすんだ」
「でもそういうのって、あんまりヒーローらしくないかなって思うんだけど……」
緋葉がぽそりと呟く。勇刃は不機嫌そうに眉をしかめた。
「何がヒーローだ、ばかばかしい」
そして、視線の先……ジャンゴのアジトだろう物々しい建物群。無法者たちが陣取る本丸をにらみつけ……
手の中の大口径キャノンを向け、そのままぶっ放した。
ドーンッ!
と猛烈な音を立てて、アジトの壁が崩れ落ちる。敵が来るのを壁際で待ち構えていた無法者たちが巻き込まれ、吹き飛ばされる。
「こっちから来るぞ!」
「くそ、なんて威力だ!」
壁に穴をぶち空ける威力の銃に戦慄しながら、その大穴に銃を向けて弾丸を浴びせる。
「邪魔だ、雑魚どもっ!」
スーツの耐久力に任せて突っ込んできた友人が、炎と衝撃をまき散らしながら銃を撃つ、撃つ、撃つ。サンダラーを呼び込むために用意されたアジトの中がボロボロに吹き飛んでいく。
さらには、頭上から屋根を貫き、光線が降り注ぐ。緋葉の援護射撃である。
「無法者ども。優勝をいただくために、まずは蹴散らさせてもらうぜ」
にらみつける勇刃。総崩れになる無法者の中、不敵に笑みを浮かべるものがいた。大柄な服。ハットを目深にかぶって、葉巻をふかしている。
「ジャンゴか?」
「残念ながら、違う」
ハットを取ったサルヴァトーレ・リッジョ(さるう゛ぁとーれ・りっじょ)が、小さく頭を下げた。
「気を悪くしたらすまん。だが、契約者の前にはいくら罠をめぐらせてもやり過ぎということはないからな、俺も策を弄した。ここにはジャンゴ氏はいない」
「ジャンゴはどこだ!」
「それを私が教えると思うか?」
ぴりぴりと視線が火花を散らす。
「……おい、こそこそ何やってるんだ?」
ふたりに視線が集まる中、国頭 武尊(くにがみ・たける)がぬっと現れ、ショットガンを突き出してる。その先では……
「おい、まさか俺様たちが隠れていることがバレてるのではないだろうな?」
「よく考えたらこんな格好で隠れられると思う方がおかしい気がするにゃー」
ぼそぼそと囁きあって、変熊 仮面(へんくま・かめん)とにゃんくま 仮面(にゃんくま・かめん)が積み上げられた木箱から顔を覗かせる。
「正攻法よりも搦め手を使うべきだと踏んだのだが」
「派手な兄さんが注目を引いている間に忍び込んだまではよかったんだけどにゃー」
「……これはどういうつもりだ?」
気づけば、武尊は彼らのさらに背後を取っている。サルヴァトーレが気を引いている間に回り込んだのだろう。がしゃ、と威嚇するようにショットガンを装填する。
武尊が示したのは、仮面たちの足下にある灯油ポリタンクだ。おそらく、ゲートから持ち込んだものだろう。
「決まっている……サンダラーには銃弾が効かないと聞いたから、炎によってやつらを追い込む作戦よ!」
「すでにこのアジト周辺にも撒いてあるにゃ!」
高笑いを上げそうになる変熊も、ショットガンを向けられて喉を『ひっ』とならすにとどまった。
「どっちにしろ、このアジトごとぶっ飛ばすつもりだったんだ。ちょうど良いぜ」
「まあ、待て……この世界の伝統に則り、速さで勝負しようじゃないか」
サルヴァトーレがベストの内側に締まった銃を見せた。
「……良いだろう」
勇刃が銃を腰のホルスターに戻す。サルヴァトーレが、ジャンゴから受け取った葉巻を放り投げた……。
その葉巻が地面に触れる、直前。
ドンッ! 激しい衝撃と共に、勇刃が空けた穴の反対側の壁が吹き飛ぶ。姿を現したのは、包帯を全身に巻き、ポンチョを身に纏ったふたり組……サンダラー!
「ちっ!」
サルヴァトーレは反射的に身をひねり、掌から電撃を放つ。一瞬遅れて、勇刃の銃がサンダラーに向けて放たれた。
「銃で勝負と言っておいて、魔法を撃つつもりだったのかよ!」
「速さで勝負といっただけだ!」
サルヴァトーレと勇刃が物陰に飛び込む。サンダラーは目にも止まらぬ早撃ちで、アジトの中の無法者たちを打ち倒し、射貫いている。
「……銃が聞かないなら火で攻めるんだったな?」
同様に、サンダラーの銃撃から身を隠した武尊が変熊に目を向けた。
「や、や、やっぱり大会ルールを無視した放火はいけないと思うよね?」
怖じ気づいたのか、変熊が全身をぶるぶるぴたぴた震わせる。
「いや、同感だぜ!」
ドンッ! 武尊のショットガンがあらぬ方向に向けて放たれる。壁に向かって散った。かと思った時……
ゴォンッ! 激しい衝撃が、壁を、アジトの柱を吹き飛ばす。武尊が仕掛けた機晶爆弾が、爆炎を上げる。にゃん熊の言葉通り、外に撒かれた灯油にも火がつき、通りがあっという間に燃え上がる。
「ヒーヤッハー! 崩れるぞ、逃げろ!」
武尊の言葉の通り、重なり合ったアジトが猛烈な勢いで崩れていく。サンダラーへ向けてがれきが降り注ぐ……もちろん、無法者たちにも、契約者たちにも。
「なんて無茶な!」
「もうどうなっても知らないにゃー」
変熊とにゃん熊も、壁に空いた穴から外に飛び出していく。サルヴァトーレは逆に、奥へ向かっていた。おそらく、逃げ道でもあるのだろう。
「くそ……!」
勇刃は逃げ道を前に歯がみしていた。崩れるアジトの中にも関わらず、サンダラーは撃ち続けている。彼の居る場所から穴へと逃げようとすれば、彼らの的になることは避けられない。
意を決して飛び出そうとしたとき……
穴から煙幕が吹き込み、サンダラーの視界が塞がれる。構わず撃ち続けているようだが、狙いが甘い。
「勇刃、こっち!」
聞こえてきた声を信じて、勇刃は身を投げるように駆け出した。
「……ぐあっ!」
ドン。肩を撃たれた。それでも、致命傷ではない。構わずに駆け出す。
「……早く!」
緋葉の小型飛空艇に乗った茨が手を伸ばしている。周囲にはすでに猛烈な火が上がっている。
「逃げるぞ! 付き合ってられるか!」
密集したダウンタウンに炎は燃え広がっていく。勇刃は肩を押さえながら飛空艇に飛び込み、空へと逃れた。
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