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リアクション
第6章
陽が沈みかけている。
空が赤く染まりはじめ、広場には長い人の影がいくつも並んでいる。
火事は契約者たちや住民の努力により、消し止められていた……といっても、ダウンタウンの大部分は炎に焼かれて、灰とがれきの山に変わっている。
しかし幸い、住民の被害は最小限に食い止められ、町の他の地域にも火が移っていない……というだけだ。
ダウンタウンにいた町人たちは治療施設に担ぎ込まれるか、さもなければ、この広場で決着の時を見極めようとしていた。
がらがらと台車に乗ってやってきたのは、“有情の”ジャンゴだ。ゲドーや未散がサンダラーの相手を、武尊やサルヴァトーレが契約者の相手を引き受けたおかげで、彼自身は全くの無傷だ。
「これで俺様以外に誰も優勝の宣言をしなければ、俺様が優勝というわけだ」
ごそり、とジャンゴは台車を降り……傍らに乗せていた、丸太のような武器を手に取った。レンコン状に穴の空いた機関銃である。
「でも、まだ諦めてないやつもいると思うけど……」
ジャンゴの傍らで、今まで彼の護衛についていたブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)が呟く。
「……まあ、その通りだ」
告げて、現れるのは如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)。
「サンダラーは倒れたけど、あんたに任せるわけにはいかなさそうだからね」
佑也にエスコートされて現れたのは、ジェニファー・リードだ。ジャンゴは不快そうに顔をしかめたが、ブルタはむしろ嬉しそうに目を細めた。
「こっちにだって、仲間がいるのよ?」
と、ジェニファーと共に進み出るアルマ・アレフ(あるま・あれふ)。
「もちろん、私も参加させていただきますわ」
ラグナ・オーランド(らぐな・おーらんど)も、武器を構えている。
「おっと、数ならこっちも自信があるぜ」
ジャンゴが指を鳴らすと、何人ものならず者が彼の後ろに並ぶ。それぞれが銃を手に、ジェニファーや佑也を威嚇している。
「まだこんなに残ってたなんてね……」
「数だけじゃなくて質もずいぶんなものだけどね」
にやりと笑ったブルタから、どす黒いオーラが漂う。それはジェニファーの体にまとわりついていく……その瞬間、ジェニファーの心中に悪寒が漂いはじめた。
「う……っ? な、何を……」
「呪いをかけたのさ。キミが満足に戦えなければ、ジャンゴの優勝は間違いないからね……」
「卑怯な手を!」
叫んだアルマが銃を向けたとき、
ドンッ、と音を立ててブルタの側頭部が撃たれた。
「ぎゃいん!」
ごろごろところがって倒れるブルチャ。……撃ったのは、ジャンゴだった。護身用だろう、機関銃ではなく、懐に入れていた拳銃である。
「な、なに? どういうつもりよ?」
呪いが解けて、悪寒が抜けたジェニファーが油断なくジャンゴをにらみつける。
「今日は銃の大会だろ。今のはさすがに、荒野の掟にも反してるってもんだ……おい、片付けろ」
ジャンゴの手下が、転がったブルタの脚を掴んで引きずっていく。……引きずられながら、ブルタはにやりと笑った。
(ククク、ボクがあんな小さい銃で死ぬわけないじゃないか。こうしてジャンゴのフェアさをアピールして、大会後の評価を上げる寸法さ。ククク……)
「……さあ、納得いかないなら、はじめようか?」
ジャンゴが機関銃を構える。
「おっと、それは役者がそろってからにしてもらおうか」
待ったをかけたのは、相沢 洋(あいざわ・ひろし)。盾を構えた乃木坂 みと(のぎさか・みと)を連れている。
「そう。無法者を優勝させるわけにはいかないのよ!」
進み出てきたのは、ローザマリア・クライツァールも同様だ。彼女の率いるブラゼル・レンジャーズは、ジャンゴら無法者への敵愾心をむき出しにしている。
「ふっ、ふっ、ふっ……俺の夢のため、ここで引くわけにはいきません……」
クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、全身を明らかに重たげな鎧に身を固めている。防弾対策のようだ。
じりじりと緊張が高まる。風が吹き抜け、きいきいとどこかのスイングドアがなった。
「……スタートだ!」
ジャンゴが機関銃から、雨あられと弾丸を放つ。的を散らすように契約者たちは広がるが、そちらへジャンゴの手下が銃を向ける。
「……奥の手だ、みと、耐えてくれ」
「はい、洋さまの命令であれば、どんなことでもしますわ」
みとは鎧と盾の防御力を頼りに、洋の前に立ちはだかる。洋がその後ろで呪文唱えた。
「うっ……何、意識が……」
「魔法だ、こらえろ!」
ジェニファーが体勢を崩しそうになるのを、佑也が受け止める。チャンスと見たクロセルが吹き矢(ブロウガンならガンだろう、と言い張ったのだ)を放つ。
「うっ!? ……こいつ!」
ジェニファーをかばうように佑也が飛び出し、吹き矢を受けながらも、クロセルに向けて手中のグレネードを放つ。
「えっ!? 銃の大会じゃないんですかー!?」
「あらあら、援護ぐらいしたっていいじゃないですか」
爆風。重い鎧を着込んだクロセルは身をかわせず、爆炎の中に突っ込んでいったラグナに突き飛ばされる。
「くっ……!」
起き上がる前に、飛び上がったアルマがその胴に跨がる。銃を突きつけて、
「まだやるかい?」
「……降参でいいです。……くっ、俺の秘策が……」
両手を挙げるクロセルに口笛と共に頷き、アルマが振り返る先では……
「いまだ!」
チャンスと見たジャンゴが、体勢を崩した佑也に機関銃を向けていた。
「待って! 今ので毒を受けたんだ。あたしたち3人は棄権する!」
「アルマ!? 何を……」
「もうサンダラーはいないんでしょ。だったら、命がけでやらなくても良いじゃない」
「そうですわ……ね?」
ラグナの目配せに、佑也はハッとして……そして、両手をあげた。
「……ああ。俺たち3人は棄権だ」
そう言っている間に、彼らがここまで連れてきたジェニファーが彼らの後ろから遠ざかり、木箱の裏に隠れているのが、ホットパンツがわずかに覗いているので分かる。
そのときだ。
パンッ、と乾いた音が響くと同時、飛来した弾丸が、そのジェニファーの脚を貫いた。
「……ああっ!?」
体勢を崩して叫ぶジェニファー。ふくらはぎから血が噴き上がる。
それに続いていくつもの銃声が響き、広場へと弾丸が降り注ぐ。それはみとの装甲の隙間や、ジャンゴの部下の眉間を正確に狙っているようだった
「……どこから!?」
ローザマリアが狙撃を避けるため、影の中に飛び込んで身を隠しながら叫ぶ。
「ローザ、あそこ!」
エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)が指をさす方……
広場の入口に、拳銃を持ったサンダラーが入って来る所だった。
その姿はもはや、包帯の巻かれた姿ではない。全身がやけどにまみれ、骨は砕け、肉がつぶれていると一目で分かるのに、それでも人の形を無理矢理取っているような、異様なバケモノの姿だった。
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