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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(後編)

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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(後編)

リアクション

「そうか……なるほど」
 広場の隅で、様子をうかがっていた白星 切札(しらほし・きりふだ)が、雅の叫びを聞いて小さく呟いた。
「人々の命を奪って、それを生け贄に復活するとは……テンプレ通りですね。銃が本体というのは、ひねったつもりでしょうか?」
「どうするの?」
 白星 カルテ(しらほし・かるて)が、切札の袖を引いて聞いた。
「こちらもテンプレ通りに返すのですよ。つまり、みんなと力を合わせるのです」
 銃を手に駆け出す切札。サンダラーが銃を向けると、カルテが物陰に隠れながら、援護射撃。
 いや、カルテだけではない。
「俺様が動きを押さえてやる。てめえら、そいつを始末しろ!」
 手下にするのとまったく同じ調子で契約者に命令を下しながら、ジャンゴが機関銃をサンダラーに浴びせている。
「ようし、今なら私も全力で戦えますわ!」
 ジャンゴが放つ銃弾の雨でサンダラーの体勢が崩れているうちに、セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)が一気に距離を詰める。
「ちぇすと! ですわ!」
 額に角を生やし、鬼の力を得た剛力がサンダラーを撃ち抜く。だが、これほどの至近距離ならサンダラーとて狙うのは難しくない。大きく体をねじってかわすも、その頬を弾丸が浅く裂いた。
「なんということを!」
 反対側から、グロリアーナが叫ぶ。その剣が間断なく振られ、セシルと挟撃する形だ。
「……くっ、こいつ!」
 セシルは拳銃を狙おうとするが、胴や頭よりもさらに大きく動く、小さな的を狙うことは難しい。本当に急所なのだろう、狙おうとすると、巧みにかわされる。
「グロリアーナ、あれを!」
 この状況では、むやみに引き金をひく訳にはいかない。狙撃を警戒しながら、ローザマリアが叫ぶ。
「……そうですわ! こちらへ!」
 グロリアーナがわずかに隙を作る。そこへ体勢を直し、サンダラーが引き金を引こうとする。
「何だか分からないけど、乗って差し上げますわ!」
 その瞬間、ローザマリアが脇腹を打つ。物理的にサンダラーの体が傾ぎ、狙いが逸れる。そうして……
「もう少し……今ですわ!」
 位置を変えていき、ある場所に辿り着いたとき。合図の声をグロリアーナが上げた。
「それでは」
 影の中に控えていたエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)が、何かのスイッチを押した。グロリアーナが半ば倒れるように伏せた背後で、いくつもの樽に仕掛けられた機晶爆弾が勢いよく爆発。大量の砂を巻き上げる。
「……無茶させますわね!」
 打ち合わせ一切なしで目の前で爆発を浴びせられて、セシルは怒り任せに拳を振るった。
 体に染みついた武術が、サンダラーが握っていた銃を下から強く撃つ。ガッ、と固い音が響いて、拳銃がその手からすっぽ抜けた。
「……ママ、あれ!」
 爆風の中から飛び出した拳銃に、カルテが指をさす。わずかに覗いたそれは、すぐにまた土煙の中に落下し、それを再び手に取ろうとサンダラーが手を伸ばすが……
「少しは、役にたたなければ格好がつきませんね!」
 切札の銃が次々に銃弾を放つ。その弾丸は、空中でサンダラーの拳銃を弾き、落下地点をずらす。弾かれた銃が落ちる先、影の中からローザマリアの体が現れた。
「……これで!」
 その手の中で光条兵器のライフルが、光の弾丸を放つ。
 それは空中で拳銃を貫き、粉々に砕いた。
「……!」
 悲鳴すら上げず、サンダラーの体が大きく震える。次の瞬間、その体に受けた無数の傷の存在を一斉に思い出したと言うように、体が砕けていた。



「……くっ! やっぱり、効かない!」
 サンダラーの狙撃手に向かっていったエリィは、弾丸を浴びせることにこそ成功したものの、傷ついても倒れない相手に反撃を受け、やむを得ず下がっていた。建物の上では身をかわす場所もない。飛び回りながら、何とか反撃を試みるだけだ。
「……やっぱり、銃が効かなきゃ倒せないっての!?」
「おう、派手にやってくれたおかげで、めんどくさい手間が省けたのう。礼を言っちゃるぞ」
 そのとき。眼下空声が聞こえた。ルメンザ・パークレス(るめんざ・ぱーくれす)が腕を振り下ろすと、彼が連れた何人もの荒くれ者が、一斉に狙撃手に向けて銃を放つ。
「何も大会に買ってやるなんて難しそうなことせんでも、最強のガンマンとやらを倒してやりゃあジャンゴにも調査隊にも恩が売れるっちゅう寸法じゃ」
「ちょっと、あたいまで巻き込む気!?」
 容赦のない斉射に、エリィはやむを得ず、別の建物へと飛び移って身をかわす。狙撃手はそちらを狙うが、転がって必死にかわした。
「こいつら、自分等のファミリーになったばっかりでな。血の気が多いんじゃ。……まだまだ、撃てい!」
 身を乗り出した狙撃手を、何発もの銃弾が貫く。構わず狙撃手は銃を構え、彼らを撃ち下ろす……」
「ひるむな、まだまだ!」
 何人かを倒されても、ルメンザは声を上げ続ける。
「いいえ。もう十分ですわ」
 ふっと、その屋上に藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)が姿を現した。その懐からは、何匹もの虫が現れ、サンダラーへとたかる。銃の機構の中に潜り込み、詰まらせようとまとわりつく。
「……!」
 狙撃手が銃を放つ。肩を撃たれながらも、優梨子は笑みを崩さない。狙撃手の銃の中に無視が絡みつき、異様な音が響くのを効いたからだ。
「皆さん、私のために時間を稼いでくださってありがとうございます。この方がこちらに引きつけられていたおかげで、広場のほうも戦いやすかったみたいですよ」
 優梨子の掌から放たれるナラカの蜘蛛糸が、ライフルを絡み取る。そうして、その銃を跳ね上げた。
 ライフルが空中へ……エリィのいる方へと、糸を纏いながらくるくると飛来する。
「その銃を撃ってくださいませ」
「あ……ぁあ!」
 エリィが両手の銃を構えて、まっすぐに向ける。放たれた弾丸は、ライフルの中央を打ち……その銃身が、真っ二つに折れた。
 瞬間、狙撃手の体が形を失い、崩れる。優梨子は撃たれた肩を押さえながら、まあ、と声を漏らした。
「まあ、血を吸ってみたかったのに。残念です」