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リアクション
第玖拾肆話 チャーリー
「どれ、騒ぎも収まったようじゃから、わしが語るとしようかのう」
一方的に騒ぎが収まったことにしてしまうと、新風颯馬が前に進み出た。
「子供の頃は機械いじりが好きでのう。
あの日は、古い無線機を買うてもろうたんで、適当なチャンネルに合わせて何か聞こえんか、と思うていたら、
ざざっ……とノイズが走って。
『こちらチャーリー。今、○○駅にいる』
おお、家の近くだ……、となんだか嬉しくなっとったら、
ざざっ……とノイズが走って。
『こちらチャーリー。今、蒼い屋根の家の前だ』
あれ、家の屋根もそういえば、と思っとったら、
ざざっ……とノイズが走って。
『こちらチャーリー。今、とある子供部屋の前にいる』
わしのいる部屋の前に、何やら気配を感じて、
ざざっ…とノイズが走って。
『こちらチャーリー。今、
お ま え の う し ろ に い る』!」
最後の大声で、たまらず蝋燭の炎が吹き飛んだ。
思わず、玉藻前の腕の中で漆髪月夜がびくっとする。
「驚いたのかな? 大丈夫、我が、こうしていてやろう」
そう言いながら、玉藻前がさわさわと漆髪月夜の髪やうなじを触りまくる。
「玉ちゃん何かいやらしい……んっ」
「いやらしい? 気のせいだろう……おっと、手が滑った」
玉藻前が、そのまま手を下に持っていこうとする。
「玉藻、また月夜に何してんの?」
「いや、何も」
さすがに樹月刀真に見咎められて、玉藻前が手を止めて空とぼけた。
「そんなことしてると、後ろにチャーリーがくるぞ」
「ははは、そんなもの……」
ぴたっ。
「!! 悪霊退散!!」
突然何者かに後ろからくっつかれて、驚いた玉藻前が叫んだ。
「えっ、怖いよー」
驚いた彩音・サテライトが、玉藻前からあわてて離れていく。
「玉ちゃん、ちっちゃい子泣かした……」
「泣かしたな」
漆髪月夜と樹月刀真が、口を合わせて責める。
「いや、月夜が怯えると思って……。別に、我が驚いたわけでは……。疑っておるな、二人とも。本当に、驚いたわけではないのだぞ!」
思いっきり力説する玉藻前であった。
第玖拾伍話 デジャヴ
「えっ? 私も話すのですか? あまり詳しくはないのですが……」
誰かに急かされでもしたように、月詠司が花妖精であるフィーア・レーヴェンツァーンの頭のタンポポにむかってつぶやくように言った。何かの声が、彼にだけ聞こえたのかもしれない。
「――そうですね。では、ある男性のお話です……。
彼は、気がつくと自室にいました……。
なぜか、ここ数日の記憶が曖昧だったので、テレビをつけてニュース番組を見てみることにしました……。
映ったのは、何の変哲もない殺人事件の報道。
けれど、ソレを見た瞬間、彼は既視感を覚えたそうです……。
それからというもの、テレビで報道される殺人事件の度に既視感を覚えた彼は、不気味に思い、思いつく限りの手を尽くしました。
けれども、既視感は拭えません……。
それから数日後、またテレビで報道される事件……、そして、既視感……。
けれど、そのときは、今までとは違っていました……。
テレビに映ったのは、事故死したとある男の顔……。
それは、彼自身の顔だったのです……。
そこで彼は思い出します、
一連の事件の犯人が、自分自身であったこと、
自分の最後が、運悪く事故死であること、
つまり、今までのことは全て走馬灯体験であることを……。
終わりです……」
ふっと吹き消した炎が、一瞬、月詠司の周囲を回って消えた。
第玖拾陸話 世界樹の下
「行ってくるよ」
わざわざ悠久ノカナタに声をかけてから、緋桜ケイが前に進み出た。
「日本では、桜の木の下には屍体が埋まっているって話がある。
桜が美しく花を開く理由は、木の下に埋まっている屍体の血を吸っているからだとかなんとか……色々とね。
そんな話を本気にしたある生徒がふと思ったんだ。
イルミンスールがあれほど大きく、今もなお成長し続けているのは、木の下に何か秘密があるんだろうってね。
当然、掘り起こして調べるなんてことはできやしない。
でも、前にイルミンスールが飛んだことがあっただろ?
あのとき、その生徒は喜んで調べに行ったんだってさ。
根元に何が埋まっていたのかを確かめてやるってな。
生徒は懸命に、毎日跡地にかよって調べていたらしい。
飛んでいたイルミンスールが、だんだんと空から降りてきているのに気づかないくらいに……」
パンと手を打ち合わせて、緋桜ケイが炎を消した。
ひっと、声を詰まらせて、悠久ノカナタが後ろにいた雪国ベアの方に倒れ込んだ。
「これじゃ、脅かしがいがないぜ」
パペットを用意しようとしていた雪国ベアが、ちょっとがっかりしたように言う。
ちゃんと注意深く聞いていれば、イルミンスールが飛翔した跡にはクリフォトが出現したのだから、話がおかしいと気づいたはずだ。だいたい、イルミンスールが着地したのは、イナテミス近くのはずであるし、その後元の場所、すなわちクリフォトの真上に再度移動している。だが、ちょっと待て、そのとき、そこに絶対何もなかったと言えるだろうか。人も、動物も、鳥も、木も……。
いずれにしても、今の二つの世界樹は、異なる世界への道となっていることは確かだった。
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