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リアクション
第玖拾漆話 もう一人のゆる族
「じゃ、りゅーき、行ってきます」
曖浜瑠樹にそう言うと、マティエ・エニュールが、巫女さんから手渡された蝋燭の炎で自分の着ぐるみを焦がさないように気をつけながら前に進み出た。
「これは、ゆる族の叔父に聞いた話です……。
地球で出稼ぎしている叔父は、ゆる族仲間と集まって飲むことがたまにあったそうなんですが……。
まれに、場の誰も知らない異質な『誰か』が、紛れ込んでたそうです。
集まった誰もが、そのときは違和感を覚えず、気づくのは翌朝!
個々が覚えているその『誰か』の姿は、皆異なっていて、『ゆる族っぽい存在』であること以外、共通項が何一つなかったそうです……。
叔父が覚えているその『誰か』の姿は……、『ずり落ちかかっている、ボロボロの布着ぐるみ』だそうです。
酷く破れてるのに、内側を一切思い出せず、背中にファスナーもなかったって……。
もしかすると、今も、この中に紛れ込んでいるかもしれません」
そう言って、マティエ・エニュールが蝋燭の炎を吹き消した。
「お疲れ様です」
火の消えた蝋燭を、巫女さんがマティエ・エニュールから受け取るとそばに立てられた九十六本の火の消えた蝋燭の中に立てた。じょじょに百に近づく蝋燭の群れは、さながら白い林のようであった。
第玖拾捌話 写真
「話を始める前に、失礼しますね」
水橋 エリス(みずばし・えりす)が真新しいポラロイドカメラを取り出すと、パシャ、パシャ、パシャと広間にいる者たちにむかって三回ほどシャッターを切った。
カメラから吐き出された写真を軽く振って現像しながら、ゆっくりと話を始める。
「失礼しました。実はこのカメラ、あるつてで手に入れた物なのですが……面白い物が写るということで……。ああ、浮き出てきましたね」
蝋燭の薄明かりで、できあがった写真を確認すると、水橋エリスがそれを参加者たちに見せた。
一枚の写真は、写っている参加者の首から上がすっぽりとなくなっていた。
それを見て、ざわざわと参加者たちが騒ぎ始める。
もう一枚は、参加者が口を不自然な三日月型にして不気味に笑っている姿が映し出されていた。一人ならば、まだしも、映っている全員だ。
最後の一枚だけは変哲もない写真に思われたのだが……。
「なんだか、数が合わなくありませんか。確か、今日の参加者って……」
全員が写っている写真を見た後、マティエ・エニュールが会場にいる者たちを数えていった。
確か、参加者は三十四人のはずだ。
だが、写真に写っていたのは四十二人であった。
「――うっ、桜さん、本気の心霊写真みたいに写り込んでいる……」
写真を見た笹野朔夜が、さすがに大きな声にはでさないでつぶやいた。しっかりと、部屋の隅にはガタブルしている木曾義仲までが写っている。
「やっぱり、明日香さんの生き霊がアイス持って写ってるです」
ちょっと物欲しそうな声で、ノルニル『運命の書』が言った。
「あわわわわ、鉄心がいるですわ」
「成仏してください」
「なむなむなむ。チョコお供えしますわ」
写真の中に、ぼんやりと源 鉄心(みなもと・てっしん)らしき姿を見つけたイコナ・ユア・クックブックとティー・ティーが勝手に手を合わせて拝んだ。
「おかしいじゃないか。全然数が合わないぞ」
ひいふうみいと会場の人々を指さし数えながら、九条ジェライザ・ローズが言った。
「誰か、一人二役でもしているのかい?」
「まあ、似たようなものかもしれないね。ここには、奈落人が二人、紛れ込んでいるみたいだから。それが、写り込んでしまったようだね」
木曾義仲や、ちょっと新風燕馬から身体がずれて写っている笹野桜を見切って、冬月学人が言った。
「さすがは陰陽師。しっかりと見破っていますね。さあ、皆さんも、陰陽師になれば写真に写っている全員の姿を見ることができるようになるのです」
東朱鷺が冬月学人を褒めながら、みんなに陰陽師をアピールした。
「俺が写るわけが……。写る、写るとき、写ったら、写れば、写ったあ!?」
見つかったと、木曾義仲がさらにガクブルして縮こまる。
「それでも、数が合わなすぎない。ああっ、カメラで写真を撮ったはずのあなたまで写ってるじゃない」
ローザ・シェーントイフェルが、水橋エリスを指して言った。確かに、絶対写るはずのない水橋エリスまでもが、会場にきちっと座っている。
「それよりも、生き霊です」
「なんまんだぶ、なんまんだぶ……」
ノルニル『運命の書』とイコナ・ユア・クックブックが必死に拝んだ。どうも、他に写り込んでいるのは、リカイン・フェルマータと空京稲荷狐樹廊らしい。会場を走って横切るような形でぼやけて写っているが、微妙に縮尺が変だ。それは、本来いないはずの神代明日香と源鉄心の姿にも言える。
「じゃあ、それに巫女さんを足して四十一人ですね……って、まだ数が合いません。この人は誰でしょうか?」
東朱鷺が、今まで話題にあがらなかった人物を指して訊ねた。
イルミンスール魔法学校の制服を着た女の子のようだが、なぜか誰も名前を思い出すことができない。
「まぁこんな感じでして」
収拾がつかなくなりかけたところで、水橋エリスが再び語りだした。
「写真には霊が写り込みやすいとは聞きますが……、カメラに霊が取り憑いてしまうということもあるのでしょうかね? 残念ながら私はカメラに詳しくありませんから調べるわけにはいきませんが……」
そう言うと、水橋エリスが、再びシャッターを切った。
フィーア・レーヴェンツァーンらが、小さく悲鳴をあげる。
「ああ、これは……」
ちょっと苦笑しながら、水橋エリスができあがった写真を差し出した。
そこには、全員が血だらけで床に倒れている姿が写し取られていた。
「気味の悪い写真であるな」
ちょっと、玉藻前が眉間に皺を寄せる。写真には、何かの影がたくさん写り込んでいるようにも見える。
「どうですか? よろしければお譲りしますよ」
そういう水橋エリスに、玉藻前を始めとする全員がいらないと断った。
「これって、ただの念写じゃないの?」
シオン・エヴァンジェリウスが、当然とも言える疑問を口にする。
「私はドルイドですから、超能力者じゃありませんよ。では、そろそろ消してしまいましょう」
そう言うと、水橋エリスが蝋燭を吹き消した。
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