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シナリオ一本分探偵

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シナリオ一本分探偵

リアクション

――そして話は現在に戻る。
「……あーあ、遅かったか……てか、誰か犠牲になってるよ!?」
 スライダーから戻ってきたアゾートが、最早ピクリとも動かない圍と、ぐちゃぐちゃになった周だった物を見て目を丸くする。
「うん、上から降ってきたよ」
「あそこからここまで落ちるってどれだけ勢いつけたんでしょうか……」
 ボニーが驚いた様な呆れた様な声で呟く。プールどころかプールサイドまで飛んだってどれだけ勢いづけたんだ。
 良い子の諸君は圍の真似をしてはならない。これはコメディだからできる事なんだから。
「で、この人は何でグチャグチャになってるの?」
 そう言ってアゾートが周を指さす。
「えーっと、何だったっけなー……ああそうそう! トップレスが見たいとか言ってた!
 他にもっと色々とあったはずだが、なななは豪快に省略した。
『うわ……最低……』と女性陣がまるでゴミを見るような目でゴミ屑同然の状態となった周を見る。我々の業界では御褒美です。ちょっと代われ。
「ねぇ、みんな集まって何してんの?」
 騒ぎを聞きつけたのが、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)がななな達に大体な水着で押さえている胸をばるんばるんさせつつ駆け寄ってくる。
「ああ、えっとね、ばつばつうまうま」
「それを言うなら『かくかくしかじか』でしょ」
「いやそれでもわかりませんから……」
「うん、さっぱりわかんない」
 ボニーの言葉にリナリエッタが頷いた。
「うーんと……ああ、彼がトップレス見たいっていったら御覧の有様になったって話をしていたんだ!」
 思い出したようにななながぽん、と手を叩いた。もうそれでいいんじゃないかな。
「うわ……最低のクズじゃんコイツ」
 リナリエッタがゴミを見るような目で以下略の周を見た。えぇいちょっとそこ代われ。
「全く……何処でもろくな奴いなくね……ってきゃあッ!」
 呆れた様に呟いた直後、何もない所でリナリエッタが転ぶ。
「大丈夫?」
「あたた……何も無いのに滑るとかありえなぁッ!?」
 起き上がり、ふと自分の胸元を見たリナリエッタが驚きの声を上げる。そこにあるはずの御自慢の胸を包んでいた布が無くなっていたのである。
「ちょ、ちょっと何で!? 何この展開ありえないし!」
 慌ててリナリエッタは腕で胸を隠す。だが一瞬であるがモロに見えた。全年齢の壁、こと光も咄嗟の事に対応しきれなかったようである。録画した奴がいたらそいつは英雄視されること間違いない。
「あ、水着が……」
 アゾートが拾い上げたリナリエッタの水着は、転んだ時に地面と擦れたせいか、一部破けて少ない面積が更に少なくなってしまっていた。
「な、何なのよもぉ〜!」
 困ったように胸を押さえつつ、リナリエッタは走っていった。方向的には更衣室の方向へ。
「……何だったんでしょう」
 その後ろ姿を見て、ボニーが呟いた。
「ふむ、あれはきっとポロリ役だね」
 顎に手を当て、なななが言った。

 ポロリ役:二時間ドラマなどで丁度視聴者がダレだす中間部分で、興味を引く為に温泉やエッチなハプニングで裸を見せる役の事である。
      アニメとは違いメイン視聴者層が何事にも苦情を出す層の為か、無修正で乳を曝け出しても苦情が表立たない。その為思春期には無料で乳を堂々と拝めるありがたい存在とも言える。
      だがこのシーンを親と一緒に観てしまうと気まずい空気を生み出してしまう諸刃の剣の面もある。


『あーあー、まいくてすまいくてす』

 なんか変な解説が流れたその時であった。頭上の方から、機械を通した男の声が聞こえてきた。
「何この声? 天の声? もしくは宇宙からのお告げ?」
 なななが空を見上げる。
「真っ先に出る発想がそれってどういうことなのさ……そうじゃなくて、誰かの声でしょ……あ、あそこに誰かいる!」
 アゾートが指さす方向――スライダーの上で、永井 託(ながい・たく)が拡声器を持って立っていた。
『ふっふっふ……よくぞこの事件がまだ続いていると見破ったな、宇宙刑事なななよ』
「いや、無理矢理続けているだけだから」
 アゾートがぽそっと呟いた。
『私が何者か疑問に思っているだろう。ぶっちゃけると、私がこの事件の真犯人だ
「な、なんだってぇー!?」
「リアクション一緒だね」
 引き出しが少ないんだよ。言わせるな恥ずかしい。
「ねぇー、真犯人が姿現して良いのー?」
『本来なら施設の放送使おうとしたんだが、ここそう言うの無かったから仕方なくこうしているのだ』
「そ、そんなもの置けるほどお金ないし必要ないんですよ! 悪かったですね貧乏で!」
 涙目でボニーが叫んだ。涙拭けよ、ボニー。貧乏が悪いんや。
「真犯人め調子に乗りおって……見ていろこの【脚力強化シューズ】で成敗……ってボールが無いではないか!?」
 メルキオテが屈んで構えてから重要な事に気付く。
「カボチャならありますが」
「何でそんな物あるんだ! というかそれ蹴ったら間違いなく壊れるからやめなさい!」
 カボチャを用意したロイメラを慌てて永夜が止める。
「ならこっちはこいつよ! いけぇポンコツやろぉー!」
 ラブがハーティオンに向かって叫ぶ。が、
「だから錆びてるから無理だって。早く引き上げるの手伝いなさいよ、もう……」
呆れた様に鈿女が言う。『てへぺろ』とラブが誤魔化す様に舌を出した。
『このトリックまで暴く事は諸君らには不可能だろう……万に一つもあるとは思えないが、暴く事が出来たのであれば諸君らの前に姿を現す事を約束しよう』
「もう姿見せてるよね?」
「暴くも何も、トリックとかあるんですか?」
 極当然の疑問をアゾートとボニーが口にするが、託はガン無視した。というより多分聞こえていないっぽい。
『それまで精々無駄に足掻いてもらいたい……ではさらばだ!』
 はっはっは、と高笑いを残し、ハウリングを残しつつ拡張期のスイッチを切った。
「あー! 犯人が逃げるよ! みんな、急いで捕まえなきゃ!」
 その姿を見て、慌ててなななが後を追おうとする。
「いや、犯人じゃないでしょ……ってかもう何度も言ってるけど犯人とかいないでしょ?」
「そんな事言ってたら逃げられるよ! さぁ早く!」
 話を聞いていないなななに、アゾートが頭を押さえた。その時であった。

「おぉぉぉぉぉまえがぁぁぁぁぁぁぁ犯人かぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 地面を震わせるような、怒りが籠った声が響き渡る。
「え? 何? 何がどうした……ってなぁッ!?」
 突然の事に動揺する託に、スライダーの扉をぶち破らん勢いで小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が飛び出してきた。
「な、何ものぁぁぁぁッ!?」
 勢いそのままに美羽は託にぶち当たり、そのまま二人は空中に身を躍らせる。
 空中で、美羽と託が一瞬止まる。だが重力に従い、二人の身体は落下。
「お、落ちてるぅぅぅぅぅぅ!」
 託が悲鳴のような声を上げる。
「おっと、これで終わりじゃなぁーいッ!」
 自分も落下しつつ、託の身体を捕らえた美羽は体勢を変える。出来上がったのは頭を下にした逆さ状態の託を抱えた美羽。
「せぇぇぇぇぇいばぁぁぁぁぁぁぁいッ!」
 重力に任せ、叩きつけるようにプールに着水する。まるで柱の様な大きな水しぶきが上がる。
「で、出たぁー! 美羽の幾つかある殺人技っぽい技、某超人がやるようなドライバーだぁぁぁぁぁ!」
 その光景を見ていたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が解説者風に叫ぶ。
「って、キミいつからいたのさ!?」
 いつの間にか現れたコハクにアゾートが驚きの声を上げた。
「いや……ついさっき来たばかりなんだけど」
 コハクが苦笑する。

――美羽は苛立っていた。とあるイベントで焼肉はできないわ、今回はゆっくりと焼肉やろうとしたら事件起きるわで邪魔ばかり入るからであった。
 お腹も空いているのに、存分に食べられない。一体邪魔をするのは誰だ。何故自分がこんなに飢えなくてはいけないのだ。美羽の怒りは有頂天であった。
 そしてある結論に達する。全て犯人が悪い。
 そうなると取る行動は一つ。犯人殺っちゃえよ、と。

「というわけで、犯人を求めて美羽は彷徨っていたわけで……」
「で、その結果があれですか……」
 コハクの説明を受けたボニーがプールをチラリと見る。
「はー、すっきりしたー」
 そこには超イイ笑顔でプールサイドから上がった美羽が。その後ろには、ハーティオンと並び逆立ちに突き刺さった託の姿があった。
「すっきりしたのはいいけど……彼犯人じゃないよね」
「でも自分で犯人名乗ってましたから……自業自得かと」
 困ったようにアゾートとボニーが呟く。こういう事件でふざけて自分が犯人、なんて名乗ったら死亡フラグになるというのがわからなかったらしい。苛立っている人がいたら尚更である。下手すりゃ刺されるというのに。
「……そうか、つまり小暮君は某超人ドライバーで落下したんだね!」
 なななが何か気づいたように言ったが、勿論皆に無視された。

――デッドリスト入り、現在14名