葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

シナリオ一本分探偵

リアクション公開中!

シナリオ一本分探偵

リアクション

――話は少し前に遡る。
 事件発生現場であるスライダーで、数名の者達が集まっていた。
 自分の推理を証明する為に事件の再現を行う、という事で集まっていた者達である。
 その話を何処から聞きつけたのか、圍は『なら俺が被害者役になろうかねぇ』と自ら実験体を名乗り上げていた。

「……ぶはぁッ! ぜぇ……ぜぇ……し、死ぬかと思った……」
 プールサイドから死にそうな表情で圍が這い上がる。
「むぅ、うまくいかんな」
 圍の姿を見て、メルキオテ・サイクス(めるきおて・さいくす)が不満そうに呟いた。
「そもそも何を思ってうまくいくと思ったんですか、メルキオテさん」
 そんなメルキオテに冴弥 永夜(さえわたり・とおや)が溜息をつく。

 メルキオテの推理というのは、犯人が小暮を氷漬けにするという物であった。
 なんやかんや犯人が頑張った結果、氷漬けにされた小暮はそのままプールへと放り投げられ、逆立ち状態となる。放り投げる方法は【カタクリズム】なり【サイコキネシス】なりを使ったのだろう、とメルキオテは語る。
 氷はその後【パイロキネシス】なり【火術】なりで溶かしてから発見されれば証拠は隠滅。ジ・エンド――

「いやーそれ無理だよー」
 その話を聞いたなななが言った。
「む、何故無理だというのだ?」
 少し膨れた様にメルキオテが聞き返す。
「いや、【サイコキネシス】とかってそんな大きなもの動かせるほど力ないんだよ。小暮君を運ぶのは無理じゃないのかな?」
「キミいきなりまともな事言い出したね」
 普段からその調子でいてほしいんだけど、とアゾートがぽつりと呟く。
「そうですよメルキオテさん。第一、氷漬けにする方法がわかっていないじゃないですか」
 呆れた様に永夜が言うと、メルキオテは胸を張ってこう言った。
「なんやかんややったのだよ!」
「一番肝心なところをぼかさないでくださいよ……大体そこまで面倒なことをしてまで逆立ちにさせた理由はなんなんですか?」
「何かあったのだよ!」
 メルキオテの返答に永夜が溜息を吐く。
「論より証拠と言うではないか! とりあえず上から落としてみるぞ!」
 そうってメルキオテはロイメラ・シャノン・エニーア(ろいめら・しゃのんえにーあ)に命じ、圍をスライダーの上から落とす実験をしてみたのであった。氷漬けにできなかったので力づくで。

「ふぅ……メルキオテさん、氷漬けにできたとしてもやはり上から放り投げるのは無理だと思いますよ。足場も不安定ですし」
 スライダーの上から戻ってきたロイメラが一息ついてからそう言うと、「ぐぬぬ……」と悔しそうにメルキオテが歯を軋ませる。
 そもそも氷漬けにする方法もわからないと来ている。この状況でメルキオテの推理を再現するのは難しい。というか何故そんな面倒な事をする。
「ふっふっふ、そっちの推理は駄目だったみたいねぇ〜?」
 悔しがるメルキオテの姿を見て、ラブ・リトル(らぶ・りとる)が厭味ったらしく笑みを浮かべた。
「どうやらこの事件、この愛らしい私立探偵ラブちゃんの推理で解決しそうねぇ〜?」
「うん、それは無いから」
「えぇー!? なんでよー!?」
 アゾートのツッコミにラブがショックを受けたような表情になる。
「いやだって無理だよ。最初の事件当初、彼……でいいのかな? とにかくいなかったでしょ?」
 そう言って指さしたのは、プールに刺さっているハーティオンであった。

 ラブの推理というのは、小暮犯人説というとんでもない物であった。
 実は小暮はとある人物を殺そうとしており、その際自分も勢い余って転落。二つの死体が出来上がった。
 そのとある人物というのはハーティオン。ラブ曰く『あのポンコツ野郎ことハーティオンをなんやかんや頑張って呼び出して、突き落すが重量があり過ぎた為勢い余っての結果』とのことである。

「そういや確かに小暮君しかいなかったね。あの時音がしてすぐに向かったから誰かが逃げたりするのはできないと思うよ?」
 当時を思い出しつつなななが言った。
「そう言えば彼は何で突き刺さっているのさ……さっきまで居なかったよね?」
「あ、先程プールの補修をしてくれるというのでお願いしたんです」
 アゾートの疑問に答えたのはボニーであった。
 何故プールにハーティオンが刺さっているのかと言うと、プールの修理を行おうと潜るも溝に手が嵌ってしまい、更にはじわじわと水が浸食してきて動けなくなってしまったというのだ。毎度毎度よく錆びる物だ。
「ちょっとラブ、遊んでないでハーティオン引き上げるの手伝いなさいよ」
 先程から一人、引上用機材を運んでいた高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)が少し怒ったようにラブへと歩み寄ってくる。
「邪魔しないでよ、今いい所なんだから」
「何処を見ていい所だと思ったんだろう」
 むくれながら鈿女に言うラブを見て、アゾートが呟いた。
「うーん、色々意見が出たけど……真実は一体なんなんだろうか」
 顎に手を当て、なななが呟く。
「いやだからドア開けて勢いよく転落が真実だから!」
「あ? 次はそうすればいいのかねぇ? わかった。ちょっと行ってくるから待ってくれなぁ」
 ツッコミを聞いた圍が、ダッシュでスライダーへと向かう。今度は勢いよく転落を狙うらしい。
「え!? いや今そう言うつもりで言ったわけじゃ……ちょ、みんな彼を止めてぇー!」
 慌てて圍をアゾート達は追いかけていった。
「いってらっしゃーい」
 何故かなななは残っていた。その辺りの理由はなんやかんやです。