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シナリオ一本分探偵

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シナリオ一本分探偵

リアクション

「……いくらなんでもそれは無理があると思うのですが」
「お姉ちゃん……無理があります」
 芦原 郁乃(あはら・いくの)が披露した推理に、蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)荀 灌(じゅん・かん)が苦笑を浮かべていた。
「えー!? 何処が無理があるって言うのよ!?」
 そんな二人に郁乃がむくれた様に頬をふくらます。
「怪電波とか何処に無理が無いというのですか?」
 マビノギオンに冷静に返され、更に郁乃が頬を膨らませた。
――ちなみに郁乃の推理と言うのは、雅羅の不幸体質より怪電波を発生させ小暮を転落させた、という物であった。
「不幸体質と怪電波のつながりが解らないですよお姉ちゃん……」
「そもそも、雅羅さんならバンドラインスペシャルがあるんですからそっち使った方が確実じゃないですか」
「バンドラインスペシャル! そういうのもあるのか……」
「むしろ怪電波なんてどこから出したんですか……」
 こめかみを押さえて考え込む郁乃を見て、マビノギオンは痛む頭を押さえる。

「ツッコミ役他にいると楽だね」
「そうですね」
 ちなみにアゾートとボニーは完全に傍観者に徹して一息ついていた。多分この後もっと大変だろうからこのくらいの休憩許してやってや。

「じゃあもう一つの可能性を考えてみようか。雅羅ではなく、別の人物による怪電波の線を」
「怪電波しかないんですかあなたは……」
 もう好きにしてくれ、と投げジャベリン、もとい投げやりな態度を取るマビノギオン。どうでもいい話だがジャベリンガンってたまらなくロマンだと思う。
「おっと、ただの怪電波だと思うなかれ! この人物の名を聞いてもそう言えるのかしら?」
「ちょーっと待ったぁ!」
 郁乃の言葉を遮ったのは、アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)を頭に乗せたアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)であった。
「む、何? 私の推理の邪魔をしようって言うの?」
 睨む郁乃に、アキラは首を横に振った。
「そんな無粋な真似はしない。ただ、その『ある人物』が俺と考えている奴と一緒みたいなんでね……」
「ああ、そういうこと」
 郁乃とアキラは顔を見合わせ、ニヤリと笑みを浮かべる。
「――まずその人物は怪電波で小暮を襲った。その怪電波に侵された小暮のテンションはうなぎ登りの有頂天。『こんな頂上から飛び降りるとかワイルドだぜぇ〜?』と言わんばかりに、小暮落下」
「いやだから……そもそも動機は一体なんなんですか? そんなことをするにも理由が必要ですよ?」
 痛む頭を押さえつつ、呆れた様に溜息を吐くマビノギオン。
「ム、確かにそダネ……その辺りはどうなの、アキラ?」
 アリスに問われ、アキラは頷いた。頭に乗ったアリスが危うく振り落とされそうになる。
「その辺ももうわかっている。動機はネタだ。真犯人はとにかく、ネタが欲しかった……この話をもたせるようなネタがな!」
「いきなり動かないデヨ……でも、犯人は話をもたせたくッテ電波出すナラ……犯人はなななしかいないヨ? 犯人はななな?」
 アリスの言葉にアキラが首を横に振る。
「いや、なななじゃない……むしろ、犯人なんてこの中にはいないんだ。この現場に犯人が居ると思わせるミスリードだ。そもそもおかしいだろ? 普通事件が起きたらみんなで解決するって言うのが定石だ」
「ふむ、そダネ。そう言われてみればおかしいネ……でも何で犯人はそんなことする必要あるノカナ?」
 アリスの問いに答えたのは今度は郁乃であった。
「それは奇を衒うのが狙いよ。今回のこの件、ポシャったら困る人物が一人いる。その為定石とは異なる奇を衒った展開へ持っていこうと物語を描いた……そう、そいつは本当になんやかんやで物事をどうにかできる程の力の持ち主なのよ!」
「そんな人いるわけないじゃないですか……」
 正直この二人の会話についていけていないマビノギオンが呆れた様に言うと、チッチッと郁乃とアキラが指を振る。その仕草は正直イラッとする。
「「いるんだな〜これが」」
 かなりイラッとする。
「その人って一体誰なんです?」
「ふっふっふ……その人物の名前、知りたい?」
「知りたいのなら教えてやろう!」
 そして、郁乃とアキラが大きく息を吸って、言った。

「「この事件の真犯人! そいつの名はたかk――」」

その言葉を口にした瞬間、部屋の明かりが切れ、真っ暗な闇に包まれた。
「て、停電カシラ!?」
「何も見えませんよー!」
 アリスと荀が暗闇の中、慌てふためく。
「ちょっと待ってくださいよ!? 昼間なのに停電でこんな真っ暗になるわけが……」
 そう、マビノギオンが言う通り今は太陽がまだ上っている真昼間。停電程度でこのような事があるわけがない。だが現に部屋は漆黒の闇に包まれている。
「な、何ですか今の音!?」
 荀が声を上げる。続いて鈍い音、何かが潰れるような音、呻き声の様なものが何度も室内に響き渡る。
――ぐきゃり、という音が二度響き、それを最後に部屋に静寂が戻る。
 誰も何も言えない……いや、身動きすら取れない中、電灯が二度三度瞬き、暗闇が明ける。そして――
「「「な……ッ!?」」」
 マビノギオンと荀、アリスの目に有るものが映る。

――それは、ボロボロになった上首を捻られた郁乃とアキラであった。

「お、お姉ちゃん!?」
「アキラ!?」
 荀とアリスが、慌てて二人に駆け寄る。
「な、何故こんな事に……!」
「――言ってはいけない名を口にしようとしたからだよ」
 愕然とするマビノギオンに、ななながポツリと呟いた。
「なななにもそれ以上は言えない。これ以上詳しい事を説明すると恐ろしい事になるから……それよりも早く二人を運んだ方がいいよ」
「そ、そうですね!」
 その言葉にはっとした表情になり、マビノギオン達は慌てて郁乃とアキラを連れ出していった。
「……また新しい犠牲者が出てしまった」
「でも事件に関係ないからスルーなんでしょ?」
「え? うん、そうだよ」
 アゾートに問われると、悲しげな表情から一転してあっけらかんと答える。
「……ところでさ、この件に関して説明すると恐ろしい事になるってどういうことなの?」
「うーん、本当に色々あって言えないんだけど……簡単に言うと、『大人の事情』?」
「ああ……うん、それで十分だよ」
 アゾートがげんなりした表情で頷いた。

――本当、色々あるのだ。大人の事情って奴が。

――デッドリスト入り、現在4名