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リアクション
幕間 ブレイクタイム(色んな意味で)
「推理が漸く出揃って来ましたねー」
お菓子をもきゅもきゅと頬張りつつ先程の推理を見ていたフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が獣っぽい耳をピコピコと動かす。
「いや、あれ推理って言っていいのかよ?」
呑気にお菓子を頬張るフレンディスにベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が言う。先程の推理を思い返しても、推理と言っていいのか疑わしい物しかなかった。
「やれやれ、これだからエロ吸血鬼は困りますね。空気読んでくださいよ」
ふぅ、と忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)がバカにしたように見せつけるようなため息を吐く。
「とにかく、この中に犯人がいる気がするんですよ、マスター! そうに違いありません!」
バン、とテーブルを叩きフレンディスが力強く頷く。
「いやそもそもこれ事故だからな? 犯人とか無いからな? 大体気がするって何を根拠に言ってるんだよ?」
「何となくです!」
「何となくかよ!?」
「落ち着いてくださいマスター、探偵がこう言えばがいぶはんのせん? は無くなると昨日てれびで観ました!」
「お前探偵じゃねーだろ!全く……どうしてこうなった」
ベルクが大きく溜息を吐く。
元々はフレンディス達はスパには遊びに来ていたのであったが、ベルクには僅かではあるが何処か期待があった。
ベルクとフレンディスは漸く恋人同士になれたカップルである……が、関係が変わっただけでそれ以上の進展は見られなかった。
フレンディスがベルクに懐いているのはよく解るのであるが、それ故に逆に手を出しにくい。
そのもどかしい状態から僅かでも進展が得られるのではないか、という期待があったのだが、実際にあったのはカオスである。
しかもそのカオスにフレンディスは『乗らなきゃ、このビッグウェーブに』と言わんばかりにノリノリであった。原因はきっと何時か観たテレビのせいである。
更にポチの助までノリノリときたら軌道修正などできるわけがない。ベルクは大きく肩を落とした。
「わかっていませんねエロ吸血鬼……ミステリーには『恋愛要素はいれるな』って法則があるんですよ?」
ノックス無視しろ言って二十則は従うのかい。だがポチの助の言う通りである。これ、そういう話じゃねーから。
「なんかすげーイラッとしたぞ?」
「え……ま、マスター! それは風邪ではないでしょうか!?」
慌てる様子を見せるフレンディスに、ベルクが溜息を吐いた。
「あのなぁ……風邪でイラッとするわけがぁッ!?」
ベルクは言葉を失った。失礼します、とフレンディスが額を合わせたからである。
「……や、やはり凄い熱ですよ!? どどどどうしましょうかマスター!? そ、そういえば風邪には添い寝が効くと」
「言わねーよ! 何処からそんな話聞いてきた!?」
「やれやれ……本当にこのエロ吸血鬼は空気が読めぇっ!?」
ポチの助の頭を鷲掴み、フレンディスに投げつける。完全に八つ当たりである。
「あうっ! ひ、酷いですよマスター……」
涙目で抗議するようにフレンディスが言った。その足元ではポチの助が目を回していた。
「と、とにかく俺は大丈夫だからな! 気にするな!」
「そう言って顔真っ赤じゃないですか! やはり添い寝を」
「するな!」
「うまーお菓子うまー」
少し離れたテーブルで、フレンディス達が繰り広げる光景を華麗にスルーしつつなななが菓子を口にして呟く。
「んぐんぐ……けど犯人も出てこないねー」
菓子を頬張りつつつまらなそうにルカルカ・ルー(るかるか・るー)が呟く。
――現在ななな達はブレイクタイム、ということで休憩タイムに入っていた。食べているのはルカルカが集めてきたお菓子である。
「……いいの、これ?」
「ええ、まあ構いませんよ」
アゾートがボニーに聞くと、苦笑しつつ頷いた。集めてきた、という事は要するにスパ施設の商品であって……おっと、これ以上は言わなくてもわかるな?
「犯人見つかると思ったんだけどなー」
そう言ってルカルカが自分の頭にアホ毛のように着けた【スイーツアンテナ】を撫でる。ツインアホ毛である。
なななのように電波を受信できるか、ということで装着したのだが見つかる物は菓子ばかり。いや、正常な動きをしているのだからアンテナは悪くない。
「折角人騒がせな奴に一撃食らわそうと思ったのになー」
そういってルカルカが手を伸ばすと、そこには人の身の丈以上の巨大なハンマーが現れる。【自在】によって具現化した闘気だ。『10t』と大きな文字が目立っている。
「でも色々と情報は集まったよ。問題はこの中のどれが真実かあるか、って話かな」
なななはそう言うが、その中にどれも真実は無い。
「ルカにいい案があるよ! 迷った時はアミダに限るんだよ!」
そう言うと紙に適当に線を引き出した。こうやって冤罪やデマは出来上がっていくのだろう。我々は今その貴重な瞬間を目にしているのだ。というか誰だよ『我々』って。
「……な〜な〜な〜ど〜のぉ〜!」
怒りを孕んだ声に振り返ると、そこに立っていたのは小暮。声と同じく、表情には怒りが滲んでいる。
「おっと、小暮君どうしたの?」
「どうしたの、じゃないだろ! 他の人から聞いたぞ! 何やってるんだ!?」
「何って、小暮君転落死事件の真相の調査を」
「自分は死んでない!」
なななと小暮のやり取りを見て、『いつかこうなるよなー』とアゾートとボニーが苦笑する。
「秀幸、死んでいないというなら真相を話しなさい」
ルカルカが小暮に言うが被害者に死んでないなら真相話せ、って最早何がなんだかわからない。
小暮が何か言いたそうな顔をしたが、その気持ちを発散するように頭を掻きむしると諦めた様に口を開いた。
「だから、えーと……あの件は自分がドジ踏んでしまっただけであってそこまで大騒ぎする程の物では無いと」
「つまり、悪いのは秀幸ってことね?」
ルカルカがそう言うと、小暮が頷いた。
「まあ、そう言う事にな――」
「人騒がせな事をするんじゃなぁいッ!」
「らぁッ!?」
瞬間、小暮が真横に吹っ飛んだ。地面と水平に小暮の身体は飛び、やがてそこにあった壁に頭から突っ込んだ。
「人騒がせな事をした罰、という奴かしらね」
満足げにルカルカが頷いた。彼女の手には先程の巨大なハンマーが握られていた。
「か、壁が! うちの壁がぁ!」
ぶらん、と力なく手足が下がって壁に頭が突き刺さった小暮を見てボニーが絶望的な表情になる。こいつぁ修繕費が高そうだ。
「って何してるのぉー!?」
「ふっ、ルカは言ったはずよ……人騒がせな奴にに一撃食らわそうと思ってたってね!」
アゾートにそう言うとドヤ顔になるルカルカ。
「成程! これで小暮君事件は解決だね!」
「いやそんな事言って、結局彼被害者になったままだよ!」
「「あ」」
ルカルカとなななが今更気づいたようにはっとした表情になる。だがすぐにルカルカはふっと哀しげな笑みを浮かべてこう言った。
「――秀幸は犠牲になったのだよ」
「それで締まらないからね!」
「ちぇー」
「……それで、この後どうするの?」
ルカルカが小暮を再度運んだのを見送るとアゾートがなななに問いかける。
「もう本人もああ言っていますし……事件も終わりじゃ――」
「いや、まだ終わらないね!」
ボニーの言葉を遮ると、なななは言った。
「この事件、まだ終わってない! なぜならまだ尺が残ってるから! と、言うわけでこの事件解決して見せる! じっちゃんは常に一人!」
「「そうとは限らないよ!?」」
――というわけでもうちょっとだけ続くんじゃ。