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リアクション
【1】奇異荒唐……1
霊廟。古より語られる名では『武晴廟』と言う。
時の帝に仕えた将軍を祀った場所とされるが、都が打ち捨てられてから久しくその名を語る者はいない。
ニルヴァーナ探索隊の隊長、メルヴィア・聆珈(めるう゛ぃあ・れいか)は正門前で歩みを止めた。
軍靴を小気味よく鳴らし踵を返すと、傾き始めた日差しに照らされる隊を鷹の目で見回す。
「突入の準備が整うまでしばし待て。各員、周辺への注意を怠るな」
「大尉。報告があります」
教導団中尉ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は敬礼を決める。
「発言を許可する。報告せよ」
「コンロン帝、近衛部隊責任者レブサ、及び廃都を所領とする軍閥からの探索許可を取り付けました」
「根回しは上手くいったようだな。ご苦労、中尉。ブライドオブシリーズに関する情報はあったか?」
「いえ、有益な情報はありませんでした。廃都となってからはまともに管理もされていない場所らしく……」
「この場所は政府の管轄外と言うことか」
「ご推察の通りです」
「大尉殿」
ふと、明倫館から隊に協力している武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が声をかけた。
「メルヴィア・聆珈大尉殿。探索隊の前に全員に配っておきたい物があるのだがよろしいだろうか?」
「何を配るつもりだ?」
「無線機だ。廃都じゃ電話は使えない。とは言え、軍用無線機では国軍でない他校生の使用には機密上の問題がある。同盟国とは言え、この前まで戦争してたエリュシオンに軍用の周波数を知られるのは、大尉殿も気になるだろう?」
「貴様の言う通り、北の連中に弱みを見せる必要はない。よかろう三等兵、配布を許可してやる」
「感謝する……が三等兵と言うのは……?」
牙竜は怪訝な顔をする……が、メルヴィアは有無を言わさぬ眼力で返す。
「なんだ、文句があるのか三等兵?」
「……なんでもないです」
国軍階級はない、けれど民間人でもない、そんな契約者は彼女にとってどっち付かずの三等兵らしい。
牙竜が指揮を執り、探索隊にインカム型の無線機を配布していく。
加え、緊急時に対応出来るようファーストエイドキット、携帯食(レーション)、水筒の三点セットも配る。
「個人的には、軍事協定でも結んで一つの周波数を共通してしまえばいいと思う。歩み寄りの機会になるし、他校生も使用出来れば今後、国軍以外の協力者がいる場合に役に立つ。まぁ外交問題だから、俺にどうこう出来ないが……」
「その通りだ、三等兵。貴様ごときが介入することではない」
しかし……と加える。
「この探索隊を始め、既に協調は進んでいる。この隊には知らされていないが、共用周波数も存在するかもしれん」
とそこに龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)が、領収書を持ってやってきた。
「お取り込み中のところすみません。こちら無線機と携帯用品の明細になります」
メルヴィアは鬼眼で睨み付ける。
「ぼ、ぼったくってないですよ。ちゃんと安くて良いものを仕入れてきたんですからっ」
「…………」
「……うう」
「まぁいいだろう。受理してやる。軍の会計に回しておけ」
「ありがとうございます。じゃあこちらにサインを……」
その時、プツプツと言うチューニング音が各無線から流れた。
牙竜の姉、武神 雅(たけがみ・みやび)が無線の動作確認をしているところだ。
『テステス……私の愚弟は、十二星華の獅子座のパンツを頭から被っている極めて特殊な変態だ』
「う、うそだっ!!」
突如、100人近い規模で暴露された残念な性癖に、うそだうそだぁ〜と無線に連呼する牙竜。
と次の瞬間、メルヴィアの鞭がバシンと背中を打ち付けた。
「ひぎゃああああっ!!」
「この腐れ三等兵が……隊の無線でふざけるなっ! クビ斬り落としてクソ流し込むぞ!!」
「ち、違う! 俺じゃなくて、みやねぇが……痛っ!!」
ガチでしばかれる愚弟を愛おしげに見つつ、雅はその様子を無線機で探索隊に流した。
軍主導だと空気が息苦しくて敵わん。これで少しでも緊張がほぐれれば、愚弟もしばかれた甲斐があると言うもの。
彼女なりのセルフモニタリング……所謂、気遣いである。
ところが、また別のふざけた声が無線機から漏れ始めた。
『あー……テステス、なんか腹減っちゃった。ねぇ誰か、この辺でタンメンの美味い店知らない?』
「どこの馬鹿だっ!!」
しばき倒した変態パンツ野郎を転がし、今度は雅に鞭を突き付ける。
「こ、これは私の仕業じゃないぞ!」
「そんなことはわかっている! 逆探知をかけろ! この馬鹿を探し出せっ!!」
「さ……サーイエッサー!!」
すぐさま逆探知で犯人を突き止めると、粛正に向かうメルヴィアを恐れ、隊員達はモーゼが如く道を空けた。
そして、残されたのは瓦礫に座り、煙草を吸う女子高生八ッ橋 優子(やつはし・ゆうこ)。
黙った泣く子を更にしばくと畏怖される鬼将校を前にして、このふてぶてしさ。これだからDQNは。
「なに、あんた? タンメンに詳しいの?」
「貴様に喰わせるタンメンなどないっ!」
「はぁ? じゃあ何しに来たんだよ?」
「それはこっちの台詞だっ! 貴様の任務を言ってみろ!!」
「あー、任務とかパス」
「!?」
「よく考えたら、月にニルヴァーナへ通じる門があるとか私の人生に関係ないからどうでもいいんだよね。光条兵器も使えないからいらないし、別に教導団でもないから探索バイトに興味ないし、そもそも、むすめカンパニーでバイトしてんのに掛け持ちしたら両方中途半端になるじゃん。そういうのよくないよね」
「知るかっ!!」
「……あと、おまえみたいな上司のバイトとかマジ無理だから」
ブチブチブチッ……荒縄がブチ切れるような音が、大尉から聞こえた……。
「つか、SMショーで女王様でもやってろ。お似合いの白豚ドM中年親父を紹介してやるよ」
「このクズ肉が……!!」
優子の胸ぐらを掴む彼女……しかし、止める声があった。
美しい白髪をなびかせ、道袍を纏う齢20半ばと思しき青年。道士【パイロン】だ。
「……その辺でやめておけ。そろそろ霊廟に潜らねば時間がなくなるぞ」
「……時間だと?」
「完全に日が暮れる前に撤退をする。何があっても、何を見つけても、それだけは必ず徹底しろ」
「何故だ、理由を言え」
突き放すように優子を開放すると、メルヴィアは彼に詰め寄った。
「夜は穢れを深くする。穢れにまみれ、力を増した死霊は危険だ。夜に奴らと闘えば命の保証は出来ん」
「ふん、腰抜けのコンロン人め。危険などもとより承知の上だ」
パイロンは険しい表情になった。
「……素人が。慢心はおまえだけではなく仲間も殺すことになるぞ」
「貴様……!」
反論する彼女だったが、それを聞き流し、彼は門に向かった。
陽はゆっくり傾いている。時刻はもうじき申の刻、ヴァラーウォンド探索にあてられる時間は少ない。
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