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第47章 天気がいいから、お出かけしよう!

「お天気がいいから、お出掛けしよう!」
 そう言って芦原 郁乃(あはら・いくの)は恋人の秋月 桃花(あきづき・とうか)を誘い、サルヴィン川にサイクリングをしにやってきた。
「気持ちいいですね、郁乃様。しっかり掴まっていてくださいね」
 誘ったのは郁乃の方だけれど、自転車をこいでいるのは桃花だった。
 後ろに乗っていた郁乃はサドルを掴んでいる。しかし……暖かな太陽の光、さわやかな風、そして何より桃花と2人でお出かけなのが嬉しくて嬉しくってたまらなくて。
「桃花〜っ!」
 思わずぎゅっと桃花に後ろから抱きついた。
「あっ!」
 急激な重心移動と抱きつかれた衝撃に、桃花はハンドルをとられてしまう。
 自転車は蛇行を始め――川沿いの土手へと向けて、くきっと曲がってしまった。
「「うひゃぁぁぁぁぁ!!」」
 少し急な土手を、すごい勢いで滑り落ちていった。

「はあ……面白かったね!」
 ブレーキで止まった後、草の上に転がり落ちてしまった2人だけれど。
 幸いなことに無傷だった。
 草を払い落とした後、笑みを浮かべた郁乃に、桃花は厳しい目を向ける。
「面白かったじゃありません! 怪我しなかったからいいものの、危ないじゃないですか!!」
「でも土手を滑り落ちたんだよ? 普通じゃ体験出来ないよ? ふふっ」
「もう、知りません!」
 反省の色のない郁乃に呆れたように言い放ち、桃花はぷいっと顔を背けた。
 さすがに、どうしようかと郁乃は迷う。
 風はとても気持ちいいし。空気もとっても美味しいし。
 大好きな桃花と一緒ですごく嬉しいのに。
 一緒に笑い合うことが出来ないのは、とっても残念だから。
 郁乃は桃花に接近して、頬にちゅっとキスをした。
 それからぎゅっと後ろから抱きつく。
「ね? 機嫌直して?」
 そう言うと、桃花がため息をついた。
「ん、もぅしょうがありませんね」
 仕方なさそうな声だけれど……それがフリだってことが、郁乃には分かっていた。

 それから、桃花はお弁当の準備を始めた。
 その間、郁乃は鼻歌を歌いながら、スケッチをしたり、足を川の中にいれて、パタパタと動かしたりしていた。
 お昼を終えてからは、2人はゆったりと寄り添って過ごす。

 さらさらと穏やかに流れる川のせせらぎが聞こえる。
 辺りは、春の穏やかな陽気に包まれていた。
 高い空からは、時折鳥の鳴き声が響いて。
 爽やかな風が寄り添う2人の頬をなでている。
 とても、心地よかった。
 次第に、郁乃の瞼が重くなっていく。
 頭を左右に振ってみたけれど、眠気は治まらず……。
「わふぅ」
 大きなあくびをして、郁乃は目に涙を溜めた。
 途端。
 郁乃の体が、桃花によって倒された。
「ん?」
 涙でぼやけている視界の先には、自分を覗き込む桃花の顔がある。
「これって! ひっ……ひざまくらっ!?」
 驚く郁乃の頭を、桃花は微笑みながら撫でていく。
「こんなに気持ちのいいお天気です。お昼寝もきっと気持ちいいですよ?」
 ぽかぽか陽気。
 そして、桃花の柔らかい太腿の感触。
 それから、優しく撫でてくれる手の感触。
 子守唄のような、水の音も。
 とても、とても心地よくて、気持ちが良くて――。
 郁乃はゆっくり目を閉じて。
 すぐに、眠りに落ちていった。
「おやすみなさいませ、郁乃様……」
 桃花は撫でていた手を、郁乃の頬に当てると。
 彼女の顔に、自分の顔を近づけて。
 可愛らしい唇に、自分の唇を重ねた。
 そして艶やかで美しい微笑みを浮かべて顔を起こして。
 再び、愛する人を撫でていく。
 優しく、大切に、大切に――。