葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

お風呂ライフ

リアクション公開中!

お風呂ライフ

リアクション

「……結局、鳳明さんにお願いすることになりましたね」
「最初から私に頼んでよ、衿栖さん?」
「アハハ……」
 水着姿の衿栖は、鳳明に至って普通のマッサージを受けていた。元々、鳳明がこのマッサージ師の中では、最も基本を知り、邪な感情もない安全なマッサージ師である事はわかっていた事である。
「はぁ……気持ちいいですねー」
「衿栖さん。着痩せするタイプですか? 結構、胸ありますね」
「へ? まぁ、それなりには……」
 そう言って、鳳明を見た衿栖が「うん?」と彼女の顔をじっと見つめる。
「あの、私。ツンデレーションてアイドルユニットしてるんですけど……鳳明さん、ラブゲイザーのベース弾いてる方に似てますね?」
「……えぇ、ヨク言ワレマス」
 露骨に目を逸らす鳳明。
「は、ははは。アイドルさんがマッサージのアルバイトなんでやらないデスよー?」
「でも、お名前も?」
 と、名札を見る衿栖。
「名札の『ほうめい』って名前も一緒ですか!? すごいグウゼンですね! ワタシ名前リ・ホウメイ言うですよ!?」
「……何でテンパってるんです? あと……ちょっと痛いです」
「ああッ!? す、すいません! (バレてないよね?バレてないよね?)」
 鳳明は、もし正体がバレたらお世話になっている相方さんに迷惑がかかるのでは!?と思っていたのだ。そのため、普段つかない嘘を割りと必死に通そうとする。
 そこに敵襲が迫る。義姉に似ている身内から。
「そうそう、リさんは琳鳳明の物真似も得意なんですよ? お客さんに一曲唄ってさしあげましょう」
 先程完全にノビた和深達を送り出して戻ってきたセラフィーナが提案する。
「(セ、セラさん!?)」
「本当ですか? 是非聴きたいですね!」
「えーと、でも、でも……マッサージに集中したいから、それはまた今度の機会に……」
「あぁ、それもそうですね。お仕事中ですからね」
 自身も仕事とプライヴェートを分けて考えている衿栖があっさり同意し、危機は去った、かのように思えた。
「でも、こうやってマッサージを受けていると、年齢を感じちゃいますよねー」
 衿栖が溜息をつく。
「十分若いと思いますけど?」
「いいえ、そうだ! アンチエイジングに効くツボなんて無いでしょうか?」
「あんちえいじんぐ……ですか? えーっと、顔の筋肉を引き締めてシワを消すツボとかありますけど……」
 やるには鍼を使う事になるんですけども……という言葉をしまう鳳明。そこに第二の敵襲が来る。
「まぁ、ぜひ鍼治療もしてさしあげましょう。確か、鍼治療で出来ましたよね? 鳳明?」
「せ、セラさん何言って!?」
 鳳明は、セラフィーナにテレパシーで抗議の声をあげる。
「(ちょ、ちょっとセラさん! 私が尖端恐怖症だって判ってて言ってるでしょ!?)」
「(これでチップを頂ければ、家で待っている欠食児童達に美味しい物をお土産に買って帰れますよ?)」
「(えええー!? 無理無理無理ぃぃーー!)」
 しかし、セラフィーナは鍼治療のセットを持ってにこやかに歩み寄る。
「はい、頑張ってください、鳳明?」
 尚、セラフィーナの行動は鳳明への意地悪ではない。愛でているだけである。これも、鳳明の弱点をなくそうとする愛のムチである。スパルタ式の。
「……」
 渡された鍼を見つめる鳳明。その目はぐるぐる回り、荒くハァハァしながら鍼と睨めっこを続ける。
「あの? 別に今回はナシでも構いません……」
 被験者として危険を感じ取った衿栖が言う。
「え? ええ、で、でも……やらないと……気合で刺さないと……」
「……いえ、本当に結構ですから……それに……」
 これまでのマッサージにより、衿栖は半分閉じかかっている瞼を何とか開けている状態になっていた。
「凄く、気持ちよかったので……もう、眠くて……あり、がとう……ござい……」
 それだけ言うと、収録中ながら衿栖は眠りの中に落ちていった。
「……ハァハァ……」
「鳳明。今そこでハァハァすると、あらぬ誤解を生みますよ?」
 セラフィーナが優しく諭すが、尖端恐怖症の彼女は、手にした鍼で極度の緊張状態に陥っていた。
「……私こそ、マッサージが必要かもしれないね。セラさん」
「オリーブオイル、買って帰りますか?」
「……ううん。遠慮して、お……く……」
 マッサージ師として働き続けた鳳明は、パタンッと床に倒れる。
「ああ、カメラマンさん、もう収録は大丈夫?」
「はい、OKです! いい画が撮れましたよ」
 番組のカメラマンと話したセラフィーナは、隣同士に倒れた二人のアイドルを見つめる。
「まったく……最後に疲れて眠るなんて、しょうがない人ですね 色々なお客と接して成長したりしなかったり……そんな感じの鳳明を、セラフィーナはアルカイックスマイルで見つめるのであった。