リアクション
◇ ◇ ◇ (何の用だ) 我ながら、嫌がらせのようにテレパシーで呼び続けていると、ようやく諦めたのか、返事が返った。 シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)はしめたと思う。 (合流したいの。そこ何処?) 再び黙る巨人に、再び嫌がらせメールを繰り返す。 (そこ何処?) (そこ何処?) (そこ何処?) (そこ何処?) (黙れ。気が散る) ということは、既に戦闘は始まっているのだ。 (場所を教えてくれなきゃ、諦めないわよ) 少しして、長い溜め息が返ってきた。 崖の隙間に建っている建物が見える場所で、合流するなり、後頭部に飛び蹴りを食らわそうとしたシルフィスティを、巨人はむんずと受け止めた。 「随分な挨拶だな」 「一応、投げてくれたお返しはしないと。感謝もしてるのよ?」 「こちらとしては、折角の好意を無駄にしやがって、という気分だが」 「あら、冗談が上手いわね」 と言ったシルフィスティの携帯電話が鳴った。 「冗談じゃないわよっ!!」 反射的にそれを取ったシルフィスティの耳に、怒鳴り声が響く。 というか、本人の乗るイコンがそこに居た。 「いい加減にしなさいよ、フィス姉さんはもう――!!!」 暴走するパートナーに向かってソニックブラスターをぶちかましながら、花妖精のまたたび 明日風(またたび・あすか)と共にジェファルコンに乗り込むリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は叫んだ。 シルフィスティはヒラリと避ける。 「だって! もうね、あっちでもこっちでもイコンイコンイ」 「それはもういいから!」 ちなみに、共に暴走していたミスノ・ウィンター・ダンセルフライ(みすのうぃんたー・だんせるふらい)は、これ以上馬鹿をやらないよう、縛り上げて強制退場させてあった。 あとで拾いに行かなくては。 「ていうか、戦闘中じゃない! とりあえず挨拶は後で! 後で一発ぶん殴らせてもらうから!」 シルフィスティを庇う為のジェファルコンだが、巨人には生身で名乗っておきたい。今は無理そうだが。 「お前の味方か?」 「パートナーね」 「……成程」 「ちょっと、どの辺で納得してるの?」 頷いた巨人に、シルフィスティは思わず確認を取る。 「はぁ、あの人が巨人さんかぁ」 シルフィスティを庇う為とはいえ、イコンを引っ張り出すことになり、必然的に操縦者として無理矢理駆り出された明日風は、巨人を珍しそうに眺めた。 「巨人と会えるかも!」 という口車にノせられて此処まで来た彼としては、目的は果たしたわけだが、リカインが解放してくれるわけはない。 「さ、ここからが本番よ。忙しくなるから頑張って。 こちらから攻撃はしないけど、フィス姉さんとこっちに来た攻撃は全部撃ち落とすから。 余裕があったら巨人の方もちゃんと援護してあげなさいね」 「余裕があったら? 余裕があったらでいいの?」 「いいわよ。勿論、明日風くんのこと信じてるもの」 笑顔が引きつる。 死に物狂いで頑張らないと、何か大切なものを失ってしまいそうな気がする。 「とりあえず、向こうに変な誤解をされないといいけど……通信が繋がる相手には説明できるけど……説明しても、無理かしらねえ……」 それはそれで仕方ないけれど、敵対するつもりなんて無いんだけど。 リカインはひとつ溜め息を吐く。 「ま、仕方ないか」 女王殺害なんて言ってる相手に協力するなんて、まともじゃないのは解っている。 けれど、あの戦いの中、見ず知らずの自分達を護ろうと動いていた人が、ただのテロリストとも思えないのだ。 「おじちゃーん!! 見つけましたですー!」 頭上からのその声に、巨人は、どいつもこいつも、と溜め息を吐いた。 「聞いて欲しいことがあるです!」 知りたいことがある、と、巨人は言った。 それが何だったとしても、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)に言えることはひとつだった。 「ボクにはまだよく分からないけど、もしも守る人を選ばないといけないような選択だったら、ボクは選択しないです!」 キャットアヴァターラ・ブルームから巨人の肩に飛び降りて、貼り付く。 「誰だってなくしたくないから、皆を守るです!」 巨人は庵に向かう歩みを止めない。 前を見据えたまま、だが、口を開いた。 「お前の、その意志は正しいのだろう。 だが、何から皆を守るというのだ? 脅威から守るのではないのか」 「おじちゃんは脅威じゃないです! 信じられないならボクに攻撃してみるです。 全部、ぜったい止めてみせるです!」 ふっと笑って、巨人はそのまま歩く。 「おじちゃん!」 「そんなことに時間を費やしていられない」 「何でですか!」 「約束した」 「……お友達、ですか?」 巨人は、少し首を傾げた後で、ヴァーナーを見る。 「友……か」 「やれやれ。気が乗らねえが仕方ねえな!」 天を貫く赤いモヒカン工作員、ヴェルデ・グラント(う゛ぇるで・ぐらんと)は、ぐうたらとソードウイング/Fの操縦桿を握った。 「気が乗らなくても、ここまで来たんだから、いい加減やる気を出したらどう」 パートナーのエリザロッテ・フィアーネ(えりざろって・ふぃあーね)が叱咤する。 まあ、ほっとけねえかあ、と巨人と戦いに来たものの、目的地に近付いても尚、ぐうたらの抜けないヴェルデである。 「作戦はあるんでしょうね」 エリザロッテの問いに、ヴェルデは親指を上げた。 「おう、勿論だぜ。 作戦はこうだ。巨人とゴーレムがやりあうように仕向ける」 「……え?」 「ゴーレムの後ろから、巨人に向かってツインレーザーライフル撃ちまくれば、巨人はゴーレムに向かって反撃する。 巨人とゴーレムがやりあってるところを、他のイコンがズドンとやる、って寸法だ」 「…………でもそれ、王宮警備に加わらないと無理よね」 「ん?」 あれ、とヴェルデは考える。 そういえば、ゴーレムは宮殿の方へ回収されたのだった。 ヴェルデは周囲を見渡す。 そこは、ごつごつと険しい岩山。空京から遠く離れた、サルヴィン川の地である。 「…………」 ふっ、とエリザロッテは微笑むなり、ヴェルデに掴みかかった。 「うわっ何しやがる!」 「あたしがやるわ! 主導権をよこしなさい!」 「は? そんな腕前で生意気だぞテメ」 「あなたよりマシだと証明してあげるわ!」 じたばたじたばたすったもんだ。 乗り気でないヴェルデに代わり、エリザロッテは無理矢理メインパイロットの位置を奪い取ったという。 「ああっもう、俺が挌闘戦を仕掛けてやりたかったぜ!」 高台から志方 綾乃(しかた・あやの)やイコン達と巨人の戦いを見物しながら、綾乃のパートナーのヴァルキリー、ラグナ・レギンレイヴ(らぐな・れぎんれいぶ)は地団太を踏む。 ラグナのイコン……なのか生物なのか、今いち振り分けが難しいところだが、ラグナのダイノボーグは、近くまで来て、突然故障して動かなくなってしまったのだ。 「ちくしょう、ヤツをぶっ倒して、トランプルの餌にしてやりたかったのによ!」 巨人の後方から、綾乃が小型飛空艇ヘリファルテに乗って仕掛けて行く。 光明剣クラウソナスによる一撃は、巨人の味方をするヴァルキリーに阻止されていた。 「何やってんだよ、もー! そんなヤツ捻ってやれ!」 何やってんだとラグナに言いたいのは、恐らく綾乃の方だと思うが。 「フィスはイコンと戦ってんのよ、生身はどいてなさい!」 「こちらこそ、私の相手は巨人です。ミニサイズはどいていてください」 と、二人が戦いながら罵り合っていることは、流石にラグナの耳にも入ってこなかった。 「巨人はテレポートして来るのでございますか?」 剣の花嫁、フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)が計器を確認する。 「いや、そんな能力はないはずだ。その内姿を見せるはず……」 龍皇飛閃で巨人を探しながら、やがて松平 岩造(まつだいら・がんぞう)は建造物付近、上空から巨人を発見して機体を降下させた。 「他にも巨人に対峙する者がいるようだな。 まずは彼等に任せて様子を見る。少しでも弱らせてくれればしめたものだが……」 「あやつの力は相当なものじゃった。持っている大剣には気をつけよ」 岩造が装備する魔鎧、武者鎧 『鉄の龍神』(むしゃよろい・くろがねのりゅうじん)が注意を促す。 「解っている……ん?」 「巨人は、剣を持っておりませんわ」 フェイトが言った。巨人は、何も武器を持っていなかった。 イコンの出力を減少させたあの大剣は、荒野での戦いの際に手放し、回収されて空京にあるからだ。 「素手だったのか。油断したりはしないが……」 岩造は、戦況を確認しつつ、待機した。 地上では、パートナーの英霊、武蔵坊 弁慶(むさしぼう・べんけい)が連絡を受けてこの場に到着する頃だ。 レリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)は、ハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)と共にシュペーアに搭乗して巨人との戦いに臨むにあたり、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)に協力を仰いだ。 以前の任務による負傷は、まだ癒えていない。 それでも出撃した前の戦いで無様な結果に終わったことで、今度こそはという意地もあった。 「……おまえなあ……」 ハイラルは、すう、とひとつ息を吸う。 「少しは学習ってやつをしろ! 何でこういう時に意地を張るんだ、自分の状態が戦えるかどうか冷静に判断できないのか!」 「無茶は解っています」 レリウスの鉄の意志が曲がることはないのは、解っているのだが。 「ですがことは急を要します。 巨人の能力は、直に確かめました。データを他の人達と共有することもできるでしょう。 グラキエスにも援護を依頼しましたし、あとは、サポートに徹します。 援護射撃くらいならできます」 ぐぐぐ、と、ハイラルは、もはや説得の言葉も思い浮かばず、絶句する。 何を言っても無駄だということは解っているのだが、心配なのだ。 言わないわけにはいかないではないか。 いっそ殴って気絶させられたらどんなに楽だろう。 全部巨人のせいだ馬鹿野郎! と、脳内で逃避と八つ当たりに走った後で、がくりと折れた。 「という訳なんで、できればとっととやることを済ませて、レリウスを病院のベッドに叩き込みたい」 密かにグラキエスに事態を説明すると、彼は笑って承知した。 「どこも、パートナーには苦労するな」 「誰のことを言っているんです?」 わざとらしく首を傾げたパートナーの悪魔、エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)に、 「自覚でもあるのか?」 と訊き返す。 「とにかく、長丁場になると心配だな。 なるべく早く決着をつけるようにしよう」 「よろしく頼む」 「巨人に味方をしているイコンがいるようですね」 エルデネストが遠距離から巨人の姿を確認する。 パートナーの魔道書、ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)がシュヴァルツ・zweiのシステムをチェックしながら、 「生身ですから、攻撃が当たれば確実に傷つくでしょうが……接近戦を行うのであればお気をつけ下さい。 できるだけサポートはいたしますが」 「ああ、頼む」 「武器も、盾となるゴーレムもいないのですから、好都合と思いましたが。 しかし遠距離から攻撃を仕掛けて行く作戦が最も合理的でしょうね」 エルデネストの言葉に、「そうだな」と頷いた。 「とりあえず距離をとって、レーザーバルカンで牽制する」 |
||