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リアクション
金剛の戦い5
途中までルカルカ達と一緒だった秋月 葵(あきづき・あおい)とエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)は、彼らと別れた後は真っ直ぐに生徒会室を目指していた。
警備が厳しい中、たった二人でどうやって生徒会室まで来たのかというと。
金剛内部の主要箇所はアンジェラ・エル・ディアブロ(あんじぇら・えるでぃあぶろ)により知っていた。そこで最短距離を走っていたわけだが、生徒会側パラ実生が葵に手を上げようものならエレンディラが魔法でやり返していたのだ。
「よくも葵ちゃんに……許さない……あなた達全員……デリートします」
エレンディラは普段はやさしい女の子だが、実はそのやさしさのほとんどは葵にのみ向けられているのかもしれない。
彼女が攻撃魔法を行使した後には、氷付けになったり黒焦げになったりしたパラ実生が置き去りにされていたとか。
そんなわけで葵自身はとても安全に生徒会室のドアを開けることができた。
突然の来客に、鷹山剛次は嫌な顔はしなかった。
朱 黎明(しゅ・れいめい)という護衛がいるから安心しているのか、自分の力でどうとでもなると思っているからなのかはわからないが。
息を切らせる葵を、剛次は薄笑いを浮かべて見ていた。
問答無用で攻撃してくる気配がないことを感じた葵は、目的を果たすために口を開いた。
「あたしは秋月葵。あなたが鷹山剛次さんだね」
「いかにも。お前は乙軍の者か? 何か用か?」
「この戦争を一時中断して、話し合いをしたいの」
息を整え、葵は剛次を見据えて言った。
剛次は冷たい目で葵の提案を軽く笑い飛ばす。
「話し合いをしてどうすると言うのだ。ミツエと生徒会が並び立つとでも? ……ありえないな。俺が生徒会頂点と認めるのは西倉南のみ。ミツエは彼女の下であることに満足するのか? ミツエも頂点を目指すからこそ、自らのおっぱいを餌に英霊を三人も味方につけたのだろう?」
「いや、それは……」
本人を見ていないためにいまだに『おっぱい三国志』にとらわれている剛次。
しかし、それはともかくとして葵は反論の言葉に詰まった。
エレンディラが応援するように葵を見つめた時、後ろから別の声が割り込んできた。
「あんたじゃなくて生徒会のトップの意見を聞きたいね」
艦内の各所が戦闘状態のため、けっこう苦労してここまで来たらしい高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)だった。道順を知り合いのナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)から聞くことができていたのがせめてもの幸いであった。
「外じゃミツエのメル友はドージェだったとか、ミツエはドージェの女だったとかいう噂でもちきりなんだけど。もし本当なら、ミツエがドージェに助けを求めたら生徒会は終わりなんじゃないの? 捕虜もほとんどが逃げたみたいだし」
ミツエがドージェの女、ということに剛次の薄ら笑いが消えた。
その時、生徒会室の奥から涼やかな女の声が聞こえてきた。
悠司が意見を求めた生徒会長の西倉南だ。
「お話は伺いました。剛次さん、ここは一度引いて立て直してはどうですか? お互い頭が冷えれば良い解決案が出るかもしれませんよ。皆さん、傷ついているのでしょう……?」
剛次はその言葉を自分に都合の良いように取った。
「わかりました。会長のおっしゃる通りにしましょう。ただし……」
言いかけたところで、また新たな客が来た。もっとも今回の客は話し合いに来たようではなかったが。
「鷹山剛次はここかァ!」
葵と悠司を押しのけて怒鳴り込んできたのはカーシュ・レイノグロス(かーしゅ・れいのぐろす)と風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)だった。
カーシュは剛次の姿をみとめると、ニヤリとして歩み寄った。
「勝手に脱獄して悪ィな。だが、てめえと取り引きをしたい」
「……言ってみろ」
「そう来なくちゃな。俺はカーシュだ。よろしく……」
握手を求めたカーシュに、探るような目を向けながら剛次も応じようと手を伸ばした時、カーシュはその手を掴んで引き寄せ、もう片方の手に握っていたテロルチョコを剛次の口に突っ込んでやろうとした。
が、その手は黎明に止められてしまった。
「何をする気ですか?」
邪魔されたことを睨みつけるカーシュの顔のすぐ横を刃が通り過ぎた。
優斗の剣だ。
とっさに手を引いた黎明の手の甲に、一筋赤が走る。
「二人共、ミツエのために戦うというのか」
「こいつはそうかもしれねぇが、俺は違う」
冷たく問う剛次にカーシュがきっぱり言った。
「お前らにゃ個人的な恨みがある! だいたい、闘技場で称号安売りしといて何が四天王だ! 聞いて呆れるぜ! そんな生徒会も四天王も、ねぇ方がマシだ!」
カーシュは自分の体で隠しながら黎明から開放された拳を剛次へと繰り出す。
剛次の瞳が妖しく光ったと思った瞬間、白刃がカーシュを切り裂いた。
倒れるカーシュの体の影から優斗が斬りかかるが、数回打ち合っただけで剛次の剣の重さに手がしびれ、優斗の剣は手から弾かれてしまう。
「おとなしく俺に従っていればよかったものを」
優斗は胸のあたりがカッと熱くなったのを感じると同時に、膝から力が抜けていくのがわかった。
遠くで葵とエレンディラが何か叫んでいるのが聞こえた。
倒れたカーシュと優斗を見下ろし、剛次は言った。
「ミツエがドージェとどのような関係であろうとしょせんは妾……。ドージェの真の後継者が誰か示してくれよう」
崇拝するような目を南に向ける。
南は真っ青になって目の前の惨劇を見ていた。
黎明が倒れた二人を隠すように南の前に立つ。
川村 まりあ(かわむら・ )が南を支えるようにそっと寄り添った。
「西倉会長……いえ、ニマ・カイラス様。我らに加護を」
ニマ・カイラス。
ドージェの妻の名であった。
葵は何とか頭を整理しようとしたが、その前にカーシュと優斗を助けなくてはならないと思い、二人に駆け寄った。エレンディラも続き、とにかくこの部屋から出ようとする。
剛次はそれを止めようとはしなかった。
「行くのか? 会長のおっしゃったように兵を引くが、現場の兵に命が届くまで時間がいるだろう。……無事にここから出られるかな?」
意地悪く笑う剛次を無視し生徒会室を出る葵とエレンディラ。
気を失っている人──それも自分より大きな男を、小柄な二人が背負って逃げるのはかなり無理があった。
不意に、カーシュを背負っていた葵の背から重みが消えた。
「俺がこっちを引き受けるから、二人でそっちを」
面倒くさがりな悠司には珍しい行動であった。
葵は礼を言うと、エレンディラと二人で優斗を支え、悠司の先導で脱出を図った。
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