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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 第2回/全4回

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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 第2回/全4回

リアクション

 所属するシャンバラ教導団の金鋭鋒団長から、
「教導団はパラ実の戦闘には手を出さない」
 と、言われてしまったため、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は配下に指示を残して自分達は空飛ぶ箒で金剛への侵入を試みた。
 金剛が揺れ、乙軍と黄巾賊が出入り口をこじ開けた時に乗じて侵入したルカルカ達は、見つけた生徒会側パラ実生を捕まえて脅したり、さらに脅したりして捕虜の居場所を吐かせて案内させた。
 途中、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)夏侯 淵(かこう・えん)で電子機器を見つけ次第、ブリザードと放電実験で壊していった。
「おっと、曹操殿に報告しておかないとな」
 夏侯淵は進撃前に交換した曹操のメールアドレスへ、侵入成功のメールを送っておいた。ほどなくして、ルカルカをしっかり守れということと配下達が合流したという返事が返ってきた。
 彼女達が収容所へ着いたのは、椿が放った煙幕が晴れてきた頃だった。
 軽くむせていたロザリアスはそれに気づくと悔しそうに顔を歪め、ティアを引きずってそこから離れることにした。
 ロザリアスと入れ替わるようにやって来たルカルカ達に最初に反応したのはエレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)だった。
 牢から這い出てきたエレーナに、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が駆け寄ってきつく抱きしめる。
 ダリルはエレーナが生きていることを確かめるように、何度も髪を撫でた。
「待たせてすまなかった」
「きっと……来てくださると信じていましたわ」
 エレーナも、信じていた人がこうして助けに来てくれたことに感激していた。
 エレーナが捕まってしまってから、かき消してもかき消しても最悪のことが頭に浮かんでしまい、どうにかなってしまいそうだったダリルは、その気持ちのままに彼女に告げた。
「好きだエレーナ。もう、俺の前から、こんなふうにいなくならないでくれ」
「ダリルさん……!」
 ハッと顔を上げた時、夏侯淵のからかうような声が飛んできた。
「ダーリル♪」
 我に返ったダリルはパッとエレーナから離れると、まだ牢の中にいる捕虜へ呼びかけた。
「さあ、ここから出よう」
 努めて冷静にしているが照れているのは見え見えだった。
「ワタシ、本当にここで散るかと思ったであります」
 熱くて、と続けたトゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)にエレーナが頬を染める。
 牢に入れられた当初、
「春になったらきっとまた……会えるであります」
 と、メソメソしていたとは思えないくらいケロッとしていた。
 トゥルペは振り向いてエル・ウィンド(える・うぃんど)に声をかけた。
 けれど、彼はいつもの明るさがすっかり消えた表情で「行けない」と言った。
「ギルが人質にされてる……置いていくなんてできない」
 そしてエルはロザリアスがいなくなったことに気がつき、顔を青くした。
 きっとメニエスに脱獄のことを知らせている──!
 自分のことよりもギルガメシュや、影響を受けるだろうホワイトのことを思い、苦しげに呻いて頭を抱えた。
 誰もが気休めさえ言うことができなかった。
 沈みかけた空気をルカルカの声が一掃した。
「メニエスを倒してギルガメシュを取り戻そう! 成せばなる!」
 ググッと拳を握る。
「決まりだな」
 カルキノスは拘束しているパラ実生にメニエスの居場所を聞いた。
 すると、ラルクのところにいるはずだと返ってきた。
 カルキノスは頷くと、先ほど別の牢に姿をみとめた駿河 北斗(するが・ほくと)に目を向ける。
 彼が剛次に受けた傷はベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)クリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)の二人がかりで治していた。
 トゥルペがすかさず牢の鍵を開ける。
 カルキノスが北斗はどうするのかと聞こうとした時、大勢の足音がこちらに向かってくることに気がついた。
 先頭にいるのは風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)だ。
 別ルートで捕まったからか、彼は最初からこの牢にはいなかった。
 後ろについてきているのは配下だろう。追われている様子ではないから。
 優斗に何があったのかはわからないが無事で何よりと思った矢先、彼は予想もしていないことを言った。
「ここから出すわけにはいきません」
 少し離れたところで足を止めた優斗は、配下に目配せをする。配下の数名が壁際で何かをした直後、優斗とルカルカ達の間に炎が吹き上げた。
「もう少し、ここでおとなしくしていてください」
 その言葉は炎によってほとんどかき消されていた。
 優斗は配下を見張りのようにそこに残し、どこかへ行ってしまった。
 あの人ミツエの味方じゃなかったの、と騒然となるが答えてくれる者はいない。
 優斗は銃型HCに記録しておいた艦内のデータを頼りに、生徒会室へ走った。
「もう少しすれば、乙のみんながもっと来ます。退路も確保されるでしょう……」
 先に捕まっていた優斗は、捕まってしまった以上は観念して生徒会側につくと言って、艦内警備を任されたのだ。乙軍にいた彼なら、乙軍の行動を読みやすいだろうと判断されたからだ。
 そして優斗はそれを利用した。
 通路を走っている時、ワッという謎の叫びが聞こえた。
 すぐ近くだったので声のするほうへ行ってみると、パラ実生数人がケータイを覗き込んで驚いたり呻いたりしている。乙軍が何かしたとかではなさそうだ。
「どうしたんです?」
 声をかけてみれば、彼らはいっせいに優斗に詰め寄って大声でわめいてくるが、全員が同時に言っているためただの騒音になっていた。
 それでも聞こえた内容に優斗はポカンとしてしまう。
 それは、コンロンへ言った精鋭兵からの知らせ。
「ミツエのメル友はドージェだったんだとよ!」
「て、ことは……ミツエはドージェの女か!?」
 この噂はたちまちのうちに金剛を駆け抜けた。