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リアクション
大野木 市井(おおのぎ・いちい)の誘導で開いた出入り口から忍び込んだ緋桜 ケイ(ひおう・けい)は、とても不安そうな顔で姫宮 和希(ひめみや・かずき)を探していた。
ケータイに移した収容所やロッカールームへの道順を頼りに、ひたすら走る。
何故こんなに不安でいっぱいなのかと言うと。
「捕まった姫宮は、無数の男に揉みくちゃにされておるやものぅ」
という悠久ノ カナタ(とわの・かなた)の発言のせいである。
ところが、勇んで駆けつけた収容所はすでに無人で、まさか処刑されたのかと青くなるが、それなら大々的に公開処刑とするはずで……もしかして、脱獄?
と、なったのである。
そして脱獄したならロッカールームへ向かうだろう、とトレジャーセンスを働かせて再度走ってみれば、その途中で前を走るメニエス達を見つけたのだ。
呼びかけたが周囲の喧騒で聞こえなかったらしく、息を整える間もなくまた走る。
やっと足を止めることができたのは、侵入した出入り口の通路だった。
メニエス達と脱獄組&救出組で一波乱起こるかというのを、
「待て!」
と、ケイが止める。
脱獄組の中に和希がいないのが気になった。
「少し、待ってくれ……」
「あなたの息が整うまで?」
「うぐっ」
クスクスと笑うメニエス。
「いや、もうよい。メニエス、鏖殺寺院のおぬしがパラ実生徒会に言われるままに従っておるのか?」
「S級四天王の地位って、魅力的じゃない?」
カナタのちょっとした挑発には、さすがに乗ってこない。
「では、張角がミツエ軍にいることは? これは鏖殺寺院がミツエを支援しているということでは? ……まさか、ミツエの主張をそのまま受けているわけでもなかろう?」
「でも、認めていないわね」
どうしようもないわ、と肩をすくめるメニエス。
カナタはもう一歩話を進める。
ケイは黙って二人のやり取りを聞いていた。
「このことはつまり、鏖殺寺院は董卓に誅殺槍を貸し与え、王朝を滅ぼした時点で目的を達成したのかもしれぬ。にもかかわらず、おぬしがパラ実生徒会側として働き続けるのは、鏖殺寺院の思惑と反することになるかもしれぬぞ。……何よりも、ミツエ軍に張角がいる以上、このまま生徒会側で動いていては、鏖殺寺院同士で争うことになるのではないか?」
メニエスの表情が何か酸っぱいものでも食べたようなものになった時、ケイが安否を気遣っていた和希の声が聞こえた。
五条 武(ごじょう・たける)に背負われているが、元気そうな様子にホッと息をつく。
その時、艦内放送を通じて剛次からメニエスへ呼び出しがかかった。
『メニエス、生徒会室に来るように。それから艦内の警備兵は出入り口へ向かい、脱獄者と侵入者を捕らえろ』
和希達が来たことで挟み撃ちにされそうになっていたメニエスは、ケイに微笑みかけるとさっさと脇道に滑り込んでいなくなってしまった。
文句でも言われるのかと思ったメニエスだが、剛次の口から出たのは意外にも労いの言葉だった。
ケイは和希に駆け寄ろうとしたが、どこからともなく集まってきた警備兵に邪魔されてしまう。
武の頭の上でトト・ジェイバウォッカ(とと・じぇいばうぉっか)が騒いだ。
「どんどん来るよっ。このっこのっ」
ハーフムーンロッドを振り回し、雷術で壁を伝うコード類の破壊と共に警備兵もしびれさせていく。
「緋月、今どこにいる!」
「ここよ!」
泉 椿(いずみ・つばき)がケータイに向かって叫べば、緋月・西園(ひづき・にしぞの)の返事が肉声で返ってきた。キョロキョロと姿を探すが、図体のデカイ警備兵が壁となって見つからない。
今度はケータイから緋月の声がした。
「諸葛亮と一緒なの。電気系統は目につくかぎり壊したわ」
緋月が一人ではなく諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)といるとわかり、椿は安心する。
緋月も諸葛亮も冷静なほうだから、敵に囲まれても慌てることはないだろうと思った。
それを見透かすように緋月が言ってくる。
「外で会いましょう。焦って私を探したあげく、捕まったなんてことにならないでね」
「そんなドジじゃねぇ!」
その時、電話口で緋月に代わって諸葛亮が椿に優斗の居場所を聞いてきた。
「ごめん……わからねぇ」
「そうですか……いえ、ありがとうございます」
「心配すんなよ、きっと大丈夫だ」
「……はい」
ダリル達と逃げてきたうちの誰かがいれば、優斗のことがもう少しわかったのだが、椿達とは離れていた。
通話が切れた時、こんなところには似つかわしくないバイクのエンジン音が響いてきた。
聞きなれたその音に、真っ先に反応する武。
イビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)が警備兵を弾き飛ばしながら一直線に走ってきていた。
その後ろを、月島 悠(つきしま・ゆう)達と吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)達が追っている。
悠にはさらに助けに来たネル・ライト(ねる・らいと)も加わっていた。
「元気な私達でがんばりますわよ!」
リターニングダガーで迫り来る警備兵を切り裂きながら、ネルが気合を入れるように声を発した。
「俺はまだまだ元気だぜ!」
「張飛さんはいつでも元気ですわね」
ニカッと笑う張飛にネルも笑みを返す。
翼や悠も二人に負けじと光条兵器を構え、出入り口を突破しようと警備兵を睨んだ。
ずっとダリルに守られていたエレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)も、自分もがんばらなければと『怒りの歌』で仲間達の士気を上げた。
それが終わるとトゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)が『恐れの歌』で相手を意気消沈させようとする。
「『藤原さんがモヒカンの生首を作る歌』であります!」
藤原さん──藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)は生徒会側として戦っているはずだが、何故か彼らは自分達の首が優梨子のアクセサリーとしてぶら下がっている場面を想像してしまった。
それでも、後から後から押し寄せてくる生徒会側パラ実生に息切れがしそうになった時、封鎖されていたはずの出入り口が轟音と共に外からこじ開けられた。
「全員無事か!」
傷だらけの景山 悪徒(かげやま・あくと)だった。
横からニュッと『変』の兜が顔を出す。
「あなた達、邪魔です!」
レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)が『光精の指輪』を光らせた。
相手が視界を潰されている間に、悪徒は銃把でなぎ倒し道を開く。
さらに孫権とホワイト・カラー(ほわいと・からー)も参戦してきた。
一度は突破したが封鎖されたため、もう一度突撃したのだ。
悪徒はミツエから「退路を確保しなさい」と命じられていた。
ミツエの駒として動くと約束した彼は、忠実にそれを実行したのだ。
悪徒とレロシャンが開けた出入り口は、エレーナやトゥルペのグループが一番近くにいるところだった。
悪徒の声に気づいた夏侯淵が突破口を作る。
だいぶ離れていたが、運良くそれを見た武がイビーをそちらへ突っ込ませ、追いかける。
途中で緋月と諸葛亮、サレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)や水橋 エリス(みずばし・えりす)、イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)達も連れて、押し戻そうとする警備兵を巻き込んで狭い出入り口から飛び出した。
一気に雪崩出てきた大勢に押し潰されそうになったレロシャンを抱えて、危ういところで難を逃れた悪徒。
ホワイトはその中にエルとギルガメシュを見つけると、まっすぐに駆け寄った。
六連ミサイルポッドも体力も魔法力もからっぽだった。
目いっぱい両腕を広げて二人に抱きつくと、エルが痛そうに顔を歪めた。メロンかんなちゃんにやられた傷が痛んだのだ。
「陣に戻って手当てしましょう!」
ホワイトはエルを支えて立ち上がる。
その時、ゆっくりと巨獣が向きを変えた。
巻き込まれて押し出された生徒会軍が、慌てて出入り口へよじ登る。
巨獣の足が一歩踏みしめるごとに地響きがする。空母にある小さな窓から煙が立ち昇っていた。
先ほど艦内でメニエスを呼び戻した放送は、撤退するということだったのだろう。
悪徒達から少し離れたところを、バズラ・キマクと護衛の桐生 円(きりゅう・まどか)達が金剛へ走っていった。
見たところバズラに目立つ怪我はない。
そのバズラは、悔しそうに歯軋りしていた。
「おのれミツエ……! あのBL本のミナ・エロマも捕まらないし……クソッ」
そんな呟きが聞こえたわけではないが、悪徒はバズラ達を見送った後、脱出した仲間達に声をかけ、ミツエのいる方角を指差した。
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