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嘆きの邂逅~離宮編~(第2回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第2回/全6回)

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「んで、どーすんよ、頭は誰で進む? 俺はもちろん先頭希望だ!」
 ウィルネストが隊長の晴海に問いかける。
「罠の種類にもよるわ。見定めてその都度適任な者が進むようにしましょう」
「む……っ。じゃ、前衛グループ希望だ」
「解りました。ウィルネストさんや、魔法知識に長けた方で、自衛能力のある方に前衛を務めていただきます。マラリィン先生は前衛が見える位置で助言をお願いいたします。護衛に何人かついてもらいます。私も同じ場所で指揮をとらせていただくつもりですが……」
 晴海は最新の地図を見ながら、考え込む。
「術士ばかりで近接戦闘が弱くなっては困りますから、イルマと陳到は前衛グループに加わってもらいましょう。私は術士として先生や隊長の後方から支援いたします」
 ステラ・宗像(すてら・むなかた)が晴海にそう言う。
「自分はヴァルキリーだ。床に仕掛けられた罠は、回避できる。上空の罠の破壊にも動けるだろう」
「術士というのは打たれ弱い。それがしは護衛として前衛に加わりましょう」
 イルマ・ヴィンジ(いるま・う゛ぃんじ)陳 到(ちん・とう)がそう言い、晴海が「そうね」と頷く。
「わらわはその術士。ステラ宗像とどっしり後ろで構えるのだわ」
 ステラのもう1人のパートナー景戒 日本現報善悪霊異記(けいかい・にほんこくげんほうぜんあくりょういき)は後衛を希望する。
「術士はとても多いと思うわ。人数も多いし宝物庫には向わず、地下道の警備に残ってくれる人がいると助かるかも。先遣調査で判った通り、地下道は色々な場所に繋がっています。敵も私達と同じようにここを利用して南の塔や東の塔に奇襲をかけようとするかもしれない。宮殿までの安全を確認した後は私は地下道に残るつもりよ。一緒に地下道の封鎖に協力してくれる人がいりるようならお願いしたいわ」
 場合によっては、魔法隊も2班に分かれることになりそうだ。
「御堂隊長は前衛には出られぬのだな?」
 諸葛涼 天華(しょかつりょう・てんか)が尋ねる。
「宝物庫調査には沢山の方が志願してくれましたし、私は前衛向きの能力を有してませんから。指揮と魔法的なバックアップに専念するわ。といっても、魔法の援護も必要なさそうだけどね」
 晴海は腰にショートソード下げてはいるが、武術は得意ではないらしい。
「それが良いだろう」
 天華が頷いた。晴海の能力を知っておくためにも、天華は晴海の側につくことを希望しておく。
「前衛向きの人で、皆を率いてくれる人がいるようなら、班長お願いしたいのだけど」
 晴海がメンバーを見回すが、この時点では立候補者はいなかった。

○    ○    ○    ○


 使用人居住区に向う隊は『防衛隊』と呼ばれることになった。
 人造人間などの兵器が存在するのなら、この場所が最も多いと思われる。ここから敵に類する存在を出さぬよう守備を固め、最終的に兵器を全て破壊する役目を担う。
 調査がまだ行われていないことから、まずは少人数で調査を行うことになる。
 また北の塔への転移による増援も検討されているため、北の塔の確保と守衛も行わねばならない。
 ヴァイシャリー軍は盾を持って包囲し、後方からの支援を行う。軍人の中には契約者はおらず、種族能力以上の特殊な能力を持っているものもいない。
 この壁を突破された場合には、他の陣や本陣も危険に晒されることになると思われる。
 前線に出る契約者達の動きで、どれだけの被害が出るかが決まるだろう。
 隊長は白百合団班長の風見瑠奈が務める。
「ここからだと少し距離があるよね。とはいえ、一番怪我人が運ばれてきそうなところだ……」
 月隠 神狼(つきごもり・かむろ)虎堂 富士丸(こどう・ふじまる)と共に、複雑な思いで白百合団に所属していない一般の百合園生と共に救護場を整えていた。
「大丈夫ですよ。私達治療の知識は他校の方よりありますから」
「怪我人を見ても泣きませんし、吐いたりもしません」
 緊張した面持ちながらも、百合園生は神狼達にしっかりとそう言うのだった。
 それでも、彼女達は戦場での救護活動はしたことがないだろうから。攻撃を受けた時にも、最初から習った通りに動ける者は少ないだろう。
「怪我人の応急手当とかに出ることになると思うけど、なるべく一緒に行くからね」
 そう言うと、百合園生達は微笑みを見せて礼を言う。
 彼女達のほとんどは、宝や古代の技術に興味を示さず。
 純粋に百合園のため、ヴァイシャリーのために。怪我をした人々を癒したい、自分達のできることをしたいと思って、強く同行を希望した少女達だ。
「実際の負傷者の回収、運搬などは富士丸、お願いね」
「分かった。だが……」
「うん、回収活動を邪魔させないように、私が銃で敵を牽制するから。場合によっては威嚇もね」
「いや、それが心配なんだがな……」
 富士丸はため息をつく。
 神狼は百合園生を案じているが、怪我人や彼女達を助けるために神狼が無茶をして負傷をしそうにも見える。また、それを厭わず行おうとしているようにも見えた。
「負傷者がいつまでも戦場にいるのは、負傷者にとっても他の無傷な人たちにとってもあんまし良くないから、できる限り速やかに回収をよろしくね」
 神狼のその言葉に、富士丸は頷く。
 下手に心配をして作業が手間取っては本末転倒だ。
 自分が速やかに回収することが、神狼の負担も減らすことに繋がると思い直し、もう何も言わないでおく。
「魔法だけではなく……応急手当に必要な道具も携帯して向おう……。素早い治療が命をつなぐ……この戦い、最後まで誰一人死なすことなく帰れるよう、尽力する……」
 決意を込めて、富士丸はそう言うのだった。
「オレ達はどう動けばいいかな? 隊の護衛として前に出たいとは思っている」
 本隊メンバーと訪れた鬼院 尋人(きいん・ひろと)が隊長の風見瑠奈に尋ねる。
 尋人の隣にはパートナーの呀 雷號(が・らいごう)の姿もあるが、一言も喋らずただ鋭い目で周囲を警戒を払っている。
「使用人居住区の調査はまだ何も行っていないから、一部の契約者に先行してもらう予定なの。あなたも護衛として加わってくれると助かるわ」
「分かった。あとできれば次の転送の際には、白馬を送ってもらえると助かるんだけど」
「隠密行動の必要がなくなった後は、動物の転送も可能だとは思うけれど……その分ソフィアさんの負担が増えるし、食料も必要になってしまうから、生物は必要最低限にしてね」
「了解。よろしくお願いします。作戦中も指示に従い、任務を確実に遂行できるよう努力させてもらうよ」
「ありがとう、助かります」
 瑠奈が尋人に頭を下げた。
 彼女も少し緊張しているようであり、拳が僅かに震えていた。
「私達も、隊長の指示に従い、サポートしていきます」
 赤羽 美央(あかばね・みお)が瑠奈の前に出て、ぺこりと頭を下げた。
「ミーはディテクトエビルによって周囲の警戒をしながら、博識によって調査をしマス。ミーはここの兵器が気になるのデスよね。失われた技術を利用した武器などがあるかもしれませんからネ」
 パートナーのジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)の言葉に瑠奈は頷いた。
「ただ、調査して持ち帰ることよりも、危険な物を発見した時には破壊することを考えて下さい。危険なものかそうではないのかの判断が出来るようでしたら、お願いしますね」
「解りまシタ!」
「それから北の塔の確保も必要と思われるので、そちらの方の調査もお願いしたいわ」
 美央は百合園の会議で、北の塔が気になると発言していた。先遣調査では行わなかったが、全体調査段階の今回は重要な調査ポイントだ。
「それじゃ、北の塔に回れそうならそちらに向います」
「通信機を渡しておきます。危険を感じましたら、ヴァイシャリー軍の包囲の位置まで戻ってきて下さい」
 瑠奈は美央に通信機の子機を一台手渡した。
「さて……」
 瑠奈は大きく息をつくと集まっている者達を見回す。
「先行メンバー出発後、全軍の行動が開始されます。準備はいい?」
 大声を出せないため、皆一斉に頷いた。
「では、行きましょう」