リアクション
○ ○ ○ ○ 音も気配もないことを確認してから、ランタンに火を点して歩き出す。 徒歩で10分足らずの距離だ。 安全は確認されているので、会話をしながら歩いても問題ないと思われたが、メンバーは誰も口を開かずに刀真を先頭に南の塔まで歩いた。 扉には鍵がかけられていたが、ピッキングで開錠ができ問題なく一行は塔の中へと入り込むことが出来た。 「一応は、地図どおりのようですね」 設営のための同行した志位 大地(しい・だいち)が、銃型HCでマッピングした地図とソフィアが描いた地図を見比べる。 そして、光精の指輪を使って光を抑えながら塔の中を照らす。 「持ってきた資材でまずは光が漏れないように塞ごう。本隊到着後はそこまで気にすることはないんだがな」 優子の指示に従い、白百合団員達が西の塔と同じように窓などを塞いでいく。 ちらりと、大地は白百合団員を見る。 彼女達は自分達と同じくらいの意識は持っているようだが……。風呂に入りたいなどと言い出した百合園生には大地も少し呆れてしまった。本隊では更に十数人の戦闘経験のない百合園生が救護を担当するためにこちらに来るらしい。 (悪い方向に百合園らしさを発揮してもらっては困るんだが……) そんなことを思いもするも、優子や白百合団員の手前、口には出さないでおく。堂々と張り手をした祥子はなんというか、尊敬に値する。 仲間割れは得策ではないので、抗争になってしまうようなことは抑えておくしかないと、大地は本音は知り合い以外に語らずにいた。 「風呂の件もそうですが、女性に配慮をした方がよさそうですので、こちらは男性陣に設営をお任せしようと思っていたのですが」 刀真の言葉に優子が首を横に振る。 「気を使わせてしまってしまない。百合園生には私からも指導しておく」 優子はそう答え、西を女性中心、南を男性中心の陣としようという配慮は必要ないと言ったのだった。 「今後の方針なんですが」 続いて、刀真は先遣調査隊の方針について優子に話していく。 知的生命体が存在するならば、全く光がない場所で活動している存在だ。 視力以外の聴覚・嗅覚が発達している事は確実であり、こちらが使うスキルと同じものが使える可能性がある。 となると、隠密行動をとるのは不可能、かつ発見された場合に対処できる戦力が先遣隊には無いので先遣調査隊の調査範囲は『南の塔から東の塔への道程と、東の塔の調査。西の塔にある地下道への入り口の調査』にする予定だ。 危険度の高い北方面と宮殿の調査は諦め本隊が来て戦力が整ってから各隊か調査隊がこの2ケ所の調査に向かう。 「ん……」 優子は刀真の方針を聞き、眉を顰める。 「いきなり居住区に踏み込むのはナシとしても、そこへ到るまでの道筋はある程度みておくべきでは?」 優子より先に意見を出したのは、先遣調査隊員のヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)だ。 「中央宮殿についても同様に、本隊到着とタイミングを合わせるとしても事前調査は必要と思うわ」 「ただ、多少なりとも光を使わないと歩くこともままならないこの状態では、知的生命体がいた場合、見つからずに調査を行えはしないでしょう」 刀真はヴェルチェにそう答えて優子に目を向ける。 優子はしばらく考えた後、こう問いかける。 「本隊が到着したら、塔の中に全員収容は無理だし、目標地点近くの陣設営なども急いで一気に行わざるを得ないため、まず敵に気付かれると思う。作戦を素早く立てて、迅速に本格的な調査を行う前に、できるだけ状況を把握しておきたい。北に近づけば危険が増すというのは確かなのだが、本隊が到着してから少人数で調査となると調査員達の危険度が増す。私達の存在に気付き、罠を張っている可能性が高まるからだ。その者達を人質に取られたらどうする……?」 「それでも、人的被害は最小限に抑えられます」 刀真の言葉に、優子は軽く息をついた。 「キミはそういう考えも持っていたね。了解、先遣調査隊に関してはキミの提案通りの調査のみしてもらおう」 「はい。それから、東の塔確保後に、一度ソフィアさんにこちらに来ていただくことはできませんか? 報告書を本部に届けていただきたいんです」 ソフィアという名に、白百合団員と作業を進めていた大地が振り向く。 「怪しすぎるんですよね……逆に別の人物を疑いたくなります」 誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた後、やはり提案などは行わず作業に戻る。 腰にメーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)の本体をベルトで固定しているが、人型の魔道書の助けは今のところ必要なさそうだ。 「そうだな、体調不良などで地上に戻る必要がある隊員も出そうだし、本隊到着前に一度来ていただく必要があるかもな」 優子は刀真の問いにそう答えた。 「東の塔の調査にはセシリアさん、ファルチェさん、カレンさん、ヴェルチェさん、想さんに行ってもらいます。俺はここに残り、通信を担当します」 「うんまあいいんだが、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)も書類作成を重視し、西の塔に残っているとなると、ちょっと構成員に不安があるな」 「どいう意味かしら〜?」 苦笑しながら言う優子に、ヴェルチェがにこにこ笑みを向ける。 「いや、こういった行動にはリーダーが必要だ。隊長が残るんなら、別のリーダーを決めておかないとな」 といい、優子はヴェルチェの肩を叩いた。 「頼んだぞ」 「はい……?」 お宝に興味津々なヴェルチェ。自分がそういう任務を負かされることなんてマズないはずなのに。 「いや、あとは子供ばかりだからな」 「……そういえば……そうね」 改めてメンバーを見回せば、ヴェルチェ以外は可愛らしい少女と機晶姫。それぞれ能力に秀でているとはいえ、ちょっと心もとないメンバーだった。 「仕方ないわねぇ」 と、腰に手を当てて、ヴェルチェは副隊長として隊員を率いることになった。 ○ ○ ○ ○ 南の塔を出発した先遣調査隊のメンバーは、必要最低限声も出さずに慎重に闇の中を歩いていく。 セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)は、懐中電灯に布を巻いて明かりを抑えながら足元が見える程度に照らしておく。 ディテクトエビルは常に使っておき、耳を澄ませ、息を潜めながら進む。 西から南もそうだったが、塔と塔は細い道で繋がっているようだった。 ヴェルチェは超感覚を使い、周囲を探る。 生き物の気配は自分たち以外感じられない。そして、物音も一切しない。 数分と思われる距離を、30分ほどの時間をかけて、ゆっくりと歩き、先遣調査隊は東の塔に辿り着いた。 ヴェルチェが皆に目を向け、頷きあい、光を塔の入り口に向けた。 慎重に幻時 想(げんじ・そう)が塔の扉へと近づく。 他の塔と同じように、施錠がされている。 音を立てないよう注意しながら、想はピッキングで開錠する。 そして、そっとゆっくり扉を開いていく。 僅かに音が響いてしまうが、中からは気配も光も感じられず、動く存在も感じられなかった。 想が最初に中に入り、続いてセシリア、ファルチェ・レクレラージュ(ふぁるちぇ・れくれらーじゅ)、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)と続き、最後にヴェルチェが塔の中に入った後、扉を閉める。 階段の上に部屋があり、そこからは梯子を上って屋上へと出れる。 造りは他の塔とほぼ一緒だった。特別なものも特に置かれてはいない。 「ここにも地下道の入り口あるよ」 カレンが地下道の入り口を見つけて、小声でヴェルチェに報告をする。 「ここから調査してみる?」 カレンの問いに少し考えた後、ヴェルチェは首を左右に振った。 「地下道を利用するのは、宮殿西側の宝物庫に行く時だから、ここからだと遠いし、西の塔近くの入り口から調べましょ」 ヴェルチェの言葉に頷いて、調査員達は早々に東の塔から出て西の塔へと戻ることにする。無論、ここから西の塔までの道でも、警戒を怠りはしない。 |
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