リアクション
○ ○ ○ ○ ヴァイシャリー家の客人用の邸宅にミクル・フレイバディは運び込まれ、ラズィーヤの私兵に警護されることになった。 ミクルを護衛していた契約者達も立ち入りを許可され、引き続き警護に当たることになる……が。 ミクルの護衛に当たっていた者達は、これまでの調査と今回の事件についてを。 ラズィーヤは離宮調査の進み具合について、互いに説明をした。 「皆さんにここへ来ていただいた理由はそれだけではありません」 集まった者達を前に、ラズィーヤは更に言葉を続けていく。 「お気づきの通り、ミクル・フレイバディ狙撃はミクルの殺害を狙ったものではありません。相手の出方を探るためにとった手段ですわ」 「って、まさか……!?」 ケイが驚きの声を上げる。 「皆さんを騙し、試し、危険に晒すようなことになってしまったことをお詫びいたします」 「むう……」 「え……?」 ラズィーヤの言葉にカナタは眉間に皺を寄せ、ソアは戸惑いの表情を浮かべる。 ベアはソアの隣でむっとした表情をしている。 コウとマリザは顔を合わせ、マリザは首を軽くかしげた。 「きちんと説明してもらえるか?」 「納得のいくようにね」 雷蔵とツィーザは、不満気にそう言った。 ラズィーヤは紅茶を一口飲んだ後、ゆっくりと皆に説明をしていく。 ファビオが何者かに連れ去られた後。 百合園女学院に突如現れたソフィア・フリークスというシャンバラ古王国の騎士。 彼女の姿は騎士の柱に描かれた姿とかけ離れてはおらず、知識や能力からも当人であることは間違いない。 しかし、彼女が現れたタイミングや、言動にどこかしら不自然なところがある。 少なくても、彼女は単独の意思で動いてはいない。彼女と繋がりがある者がいるはずだ、とラズィーヤは考えた。 直接本人を問い詰めても、隠していることをぺらぺら話すことはないだろうし、証拠となるようなものがあるのなら隠蔽に走るだろうと、そして簡単に丸め込める相手でもないと判断し、揺さぶって泳がせて探るという手段をとることにした。 表向きは直接揺さぶり、駆け引きをしつつ。 裏では別の方向から、彼女の反応を見て、出方を探る。 「ミクルさんが重体であるまま回復をしないのは、パートナーと思われる騎士ファビオさんが重体である状況が続いているからと考えられますわ。相手がファビオさんを殺害するつもりならば、接触時に行うこともできたでしょう。それをせずに、生かさず殺さずの状態でファビオさんを拘束し続けています。死なれては困るけれど、パートナー共々口を封じておかねばならない。……もしくは、ファビオさんは敵の手を逃れて、自らの意思でその状態のまま身を潜めている可能性もある、と考えました」 ラズィーヤの言葉に、カナタが頷く。 そこまでは、カナタも考えに至っていた。 「ミクル・フレイバディ狙撃事件は、わたくしが指示いたしました。狙撃は行われましたが実弾ではなく、看護師が撃たれたというのも演技です。この件に関しましては協力いただいた看護師と院長しかその事実を知りません」 ミクルが狙撃で死亡すれば、重体状態であるファビオも死亡するだろう。ファビオを何らかの目的で殺さず捕縛しているのなら、ミクルに死なれてはまずいはずだ。 ファビオを攫った者達は、ミクルを守るために護衛をしようとするか、拉致を目論むか――そのどちらかの手段に出る可能性が高いと踏んだ。 「皆さんにつきましては、ミクル・フレイバディとの関わりや、身辺などについて他の方より詳しく調べさせていただきました。何より、ミクルさんの護衛としての姿勢を注意深く見させていただき、信用に足る人物だと判断いたしました。皆さんの中にファビオさんを攫った者達と関係のある者はいないと断定させていただきますわ」 「じゃあ、ミクルを拉致しようとしたあのふざけた気ぐるみを着たやつ! 奴がファビオを攫った犯人の一味か!?」 ケイの言葉にラズィーヤは首を横に振った。 「配下の者に尾行させましたが、違いました。その上、事情を知らない警備兵が誤って一般人を拘束してしまいましたわ。こういった一般人を巻き込む事件が発生してしまうとなると、さすがにミクルさんを病院にお預けしておくわけにはいきません。結論を言いますと、手詰まりです。わたくしの作戦はほぼ失敗に終わりました」 ラズィーヤが一方に微笑みを向ける。 そこには、クマの気ぐるみを拾ったばかりに、ヴァイシャリー軍に拘束され取り調べを受けることになってしまった天音とブルーズの姿がある。すごく不機嫌そうだ。 「そう怖い顔をしないでくださいませ。お詫びはいたしますから。あなた方にはこうして事実もお話しましたし、お手伝いしていただけますと、助かりますわ」 ラズィーヤは軽く息をついて少し疲れたような、めったに見せない弱い笑みを見せる。 「そしてソフィアさんに関してですが、ミクルさん狙撃事件後に『離宮の調査を急がねばならない』と反応を示されました……が、その後彼女が外部の者と連絡をとった形跡はありません。百合園では白百合団が護衛についていますけれど、お使いいただいているヴァイシャリー家のお部屋の中では四六時中護衛をつけてはいなかったのですが、彼女自身が護衛を求めてきました。まるで、自分を監視しろとでもいうかのように。こうなりますと、繋がりを探るのは無理のようですわね」 ソフィアは離宮へ次の転送の際に、自分も一緒に離宮に向うと言っている。負傷者や不用品を持ち帰る必要があるという理由で。 大人数を送れば、休息のために彼女自身もしばらく離宮に留まることになるだろう。 「それから、地球の医者を呼んで、ミクルさんを治療させたと本部の皆さんには説明していますが、護衛していただいていた皆さんはご存知のように、そういった事実はありません。ミクルさんの容態改善は、ファビオさんの容態が改善した為と思われますわ。……もう、目は覚めているのではありませんか?」 そうラズィーヤが声をかけると――ベッドの上で目を閉じていたミクルが、そっと目を開いたのだった。 彼に微笑みを向けながらラズィーヤは鋭く瞳を光らせて言う。 「ファビオさんのお考え――ミクルさんの正体と策略に誰もが気付けなかったこと。テロを成功させることが目的ならば、怪しまれること、目をつけられるようなことはしないということ。相手の懐に入り込む必要があるということ……ヴァイシャリーの貴族に関しては、ファビオさんが暴いてくださいました。ですから、つまり……わたくしは他校生というより、百合園の、多少の立場があり素行に問題のない者の中に、なんらかの企てを持つ人物が入り込んでいると思っていますわ」 |
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