リアクション
〇 〇 〇 病室は静かだった。 だけれど時折廊下や外から、人々が大声を上げる声、戦闘の音が微かに響いてくる。 その度に、早河綾は半身を起こして、挙動不審に周囲を見回し、苦しげな呼吸を繰り返す。 戦いに出て行ったミルディア、メイベル達はまだ戻らない。 「怪我をされた方はいますけれど、死者や重体者は出ていないと聞いていますわ」 そんな綾に、氷川 陽子(ひかわ・ようこ)は近づいて、ナーシングで彼女を癒していく。 護衛として、彼女の精神面の安全も確保するために、陽子はパートナーのベアトリス・ラザフォード(べあとりす・らざふぉーど)と共に、ここに残っていた。 「避難している子供が走り回っているようですので、注意をしてきますわね」 物音に、ベアトリスは病室を出ていく。 一時的な避難場所として利用している一般人も多く、やむを得ない音以外の、子供達が騒ぐ声や、家や街が心配なあまりに、感情的になる大人たちの声も時折響いていた。 「良い知らせですわ」 数分後に、病室に戻ったベアトリスは、ロビーで百合園からの良い知らせを聞いてきていた。 「組織の本部の制圧が無事終了したようです。こちらに死者はいません。……本物の怪盗舞士も命は助かったとのことですわ」 その言葉に、綾は首を縦に振った。 涙がぽたりと、動かない足に落ちる。 「綾さんの携帯にも何か連絡が入っているかもしれませんわよ?」 陽子はそう言って、綾の携帯電話を棚から取り出すと、彼女に渡した。 病人を疲れさせてしまうため、短時間の通話やメールの送受信だけではあるが、この個室では携帯電話の使用許可が出ている。 綾は恐れを見せつつも、携帯電話の電源を入れてみる。 「メール……」 綾は届いていたメールを真剣な表情で確認をし、目を開いたまま、涙をぽたぽた溢れさせる。 「お、兄ちゃん……から、届いて……ました」 「なんて仰っていましたか?」 「元気、だって。ごめん、って。……あいたい、って」 電源を切って、涙を拭う綾の手から携帯電話をとって、代わりに陽子はタオルを手渡した。 「お兄様とお会いして、ご家族とも話し合って、今後のことを決めていきませんとね。綾さんはどうなさりたいのですか?」 「決め、られません……でも、お兄ちゃんが、許してくれるのなら……お兄ちゃんと一緒にいたい。空京とか、海京とかで暮らせたら……」 そして、いつかは地球に帰りたいのだと、綾は言った。 それが許されるのなら――。 |
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